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ぐるり農政【153】

2019年12月24日

「食品ロス」を削減する

ジャーナリスト 村田 泰夫

 
 「食品ロスを減らそう」という運動に、国が音頭を取ることになった。「食品ロス削減推進法」が2019年5月に成立し、今年度末に政府の基本方針が策定される。

 「食品ロス」とは、まだ食べられるのに捨てられる食品のことだ。国連が2015年9月に採択した17の「持続可能な開発目標(SDGs)」の目標の一つに「飢餓をゼロに」がある。それを実現する方法の一つとして「食品ロスの削減」が掲げられている。高邁な目標実現のためということもあるが、一般庶民の感覚として、食べられる食品を捨ててしまうなんて「もったいない」ことで、食品ロスを減らすのは当然のことだと思う。


murata_colum153_3.jpg わが国の食品ロスの総量は、農水省、環境省、消費者庁によれば、2016年度で643万tにのぼるそうだ。国民1人当たり、1日お茶碗1杯分(約140g)の食べ物を捨てていることになるとか。また、17年度の世界の食料援助量(約380万t)の1.7倍に相当するというから、国連がSDGsに取り上げるのもわかる。


 なぜ、大量の食品が捨てられてしまうのだろう。どこのだれが捨てているのかを調べれば、大体の推測がつく。日本の廃棄量643万tのうち、食品関連事業からが55%の352万t、家庭からが45%の291万tだという。事業系の廃棄量をさらに分類すると、食品製造業が137万t、外食産業が133万t、食品小売業が66万t、食品卸売業が16万tとなる。食品を加工・製造するメーカー、レストランや食堂、それにスーパーやコンビニなど、食品流通のあらゆる段階で捨てられている。

 食品製造業の廃棄は、作り過ぎや売れ残り、それに賞味期限が近くなった商品の返品と思われる。外食産業は、お客の食べ残しなどだろう。小売段階での廃棄は、過剰仕入れや売れ残りだろうか。需要予測をしっかりやり、作り過ぎをなくせば、食品ロス対策になるだけでなく、事業者の収益向上にもつながる。だから、どの業者も懸命に対応しているに違いない。でも、首を傾げるような商習慣が原因で、大量の食品ロスが発生していると聞くと、「何とばかげたことを」と思ってしまう。


murata_colum153_2.jpg 食品関連業界あげての取り組みとして注目されるのが、「3分の1ルールの見直し」と「賞味期限の年月表示化」である。「3分の1ルールの見直し」とは、常温で流通される食品は、賞味期限の3分の1を過ぎた商品は小売業者が仕入れないという商習慣を指す。賞味期限の近づいた商品は売りにくいという小売業者の圧力に押され、この商習慣が定着してしまった。その結果、卸売業者や食品メーカーは大きな在庫負担と返品リスクを抱え、結果的に廃棄量の増大につながっている。


 「賞味期限」と「消費期限」との違いをわかっていない消費者がいることも、悪しき商習慣の一因になっていないか。お菓子や加工食品についている賞味期限は「おいしく食べられる期限」であり、それを過ぎたからといって食べられないわけではない。自慢ではないが、わが家では賞味期限切れの食品を普通に食べていて、捨てることはしない。一方の「消費期限」は違う。お弁当や生ものなど傷みやすい食品につけられる消費期限は「その日時が過ぎたら食べないほうがいい」というものだ。雑菌が繁殖したり、カビが生えたりする恐れもある。人の健康にかかわる話で、廃棄すべきものである。

 「賞味期限の年月表示化」も、「3分の1ルール」と関係がある。これまで食品メーカーは、賞味期限を年、月、日まで表示している。スーパーなどの小売店では賞味期限(多くは製造年月日に連動する)が長く残っている「新しい商品」を棚の後ろに置き、賞味期限の近づいた「古い商品」を前に並べる。ところが、消費者は後ろから商品を取り、古い商品がいつまでも残ってしまい、それが返品につながっていた。そこで、日にちの表示をやめ、年と月だけにすれば、仕入れの古い商品の残るリスクが少なくなると考えたわけだ。


murata_colum153_1.jpg また、スーパーやコンビニの中には、賞味期限の迫った商品を値引きやポイントなどで、売り切る作戦を採用し始めたところもある。お客に喜ばれる措置であり、値引き販売はもっと広がってもよいのではないか。

 節分に食べる「恵方巻」や土用の丑の日の「ウナギ弁当」、年末のクリスマスケーキなど、特定の日にちに縛られる季節食品については、これまで過剰生産による売れ残り、大量廃棄につながっていた。それを事前予約による受注生産に移行すれば、売れ残って期日越えで大量に廃棄するという、ばかげたことは避けられる。すでに、そうした取り組みを模索しているコンビニが出てきている。

 さらに、生活に困っている人に食品を提供する団体、つまり「フードバンク」に、賞味期限の近づいた食品を無償で提供する運動も、もっと広げるべきだろう。レストランや食堂で食べきれなかった食品を持ち帰る「ドギーバッグ」を呼びかけることも広げたい。


 それらの取り組みはいいのだが、悪しき商慣習を改めることに食品業界あげて取り組むことが肝要ではないか。事業系の食品ロスと家庭系の食品ロスの双方を、2030年までに2000年比で半減するという数値目標を政府は掲げるという。その目標達成のカギは、悪しき商習慣の見直しができるかどうかにかかっている。(2019年12月20日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。

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