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ぐるり農政【151】

2019年10月23日

小泉進次郎氏の「セクシー発言」

ジャーナリスト 村田 泰夫

 
 「気候変動のような大きな問題に取り組むことは、楽しく、クールで、セクシーである」。こんな小泉進次郎環境大臣の「セクシー発言」を問題視する意見がネット上に出回っている。この小泉氏の発言をニュースで知ったとき、私はにやりとした。誤解しないでほしい。セクシーという言葉から、あらぬことを想像したからではない。

murata_colum151_1.jpg 私は新聞記者をしていたが、1年先輩に、米国暮らしの長いFさんがいた。彼がデスクをしていたとき、第一線で取材し原稿を書いてきた若い記者たちに「セクシー」という言葉を乱発していた。そのことを思い出して、にやりとしたのである。新聞社のデスクという仕事は、出先の記者の原稿を最初に読んで直すことである。わかりやすく直したり、不足している部分の書き足しを命じたり、あるいはバッサリ削ったり、ボツにしてしまうこともある。

 後輩記者から聞いた話だが、彼がデスクのとき、原稿を出すと、決まってこういう電話がかかってくるという。「君の原稿はセクシーだね」と。もちろん「性的」という意味ではない。「すばらしい」「魅力的だ」「読ませるねぇ」という意味である。Fデスクから「セクシーだねぇ」と言われて、悪い気はしない。ほめ言葉だから、うれしくなる。

 ところが、その後がある。「書き出しのこの部分、こういう風に直したらもっとセクシーになる」「この部分は、こうしたらわかりやすい」「結論部分は、こうした方がさらにいい」‥‥。要するに、全文書き換えを求めてくるというのだ。そんなFデスクだったが、若い記者たちの評判は悪くなかった。


murata_colum151_2.jpg 一方、真逆のデスクもいた。「お前は何年、記者をやっているんだ。こんな下手な原稿しか書けないのか! 書き直してこい」。頭ごなしに怒鳴りつけるのだ。若い記者たちは、ただ反発するだけで、このデスクは評判が悪かった。

 まずほめて、それから注文を付ける。すると、若い記者たちは、聞く耳を持ち、追加取材をいとわず、より工夫した原稿に書き直してくる。ほめる言葉として「セクシー」は、ものすごく効果的なのだ。


 改めて、小泉進次郎氏のセクシー発言を検証してみよう。小泉氏は環境大臣に就任してすぐの9月22日、国連気候行動サミットに出席するため、ニューヨークを訪れた際、おもに海外メディア向けに開いた英語での記者会見で、「セクシー」発言が出た。会見に同席した国連気候変動枠組み条約の前事務局長のクリスティアナ・フィゲルさんが「環境問題に取り組むことはセクシーなこと」と発言、それを受けて小泉氏は「私も全面的に賛成です」としたうえで、「気候変動問題に取り組むことは、楽しく、クールで、セクシーである」と語ったのだ。

 このことをロイター通信が大きく報じた。翌日の日本人記者相手の会見で、記者から「楽しくクールでセクシーとはどういう意味なのか」という質問が飛んだ。これに対し、小泉氏は「どういう意味か説明すること自体がセクシーでないよね」とかわした。さらに追及する記者に、小泉氏は、同席したフィゲルさんが語った言葉だと、発言の経緯を説明した。それ以上の説明については「野暮な説明はいらないですね」と突っぱねた。

 こうした報道に、ネット上に「恥ずかしい」とか、「具体的な政策を語らず、言葉遊びで逃げている」といった小泉バッシングがあふれたという。「セクシー」という言葉を使うと、なぜ恥ずかしいのだろうか、理解に苦しむ。セクシーに「性的なもの」を想像して「恥ずかしい」と思ったのなら、ネットに投稿したその人こそ恥ずかしい。

 ついには国会でも野党が問題視し、「セクシーとはどういう意味か」という質問主意書が提出された。10月15日に政府が公表した答弁書によれば、「辞書によれば『(考え方が)魅力的な』といった意味がある」とした。


murata_colum151_3.jpg 気候変動対策に、日本政府が後ろ向きであることは確かだ。就任したばかりの小泉氏に方針変更を求めるのは酷かもしれないが、従来の日本政府の後ろ向きの方針を改めてもらいたい。たとえば、地球温暖化の一因である石炭火力発電所の建設を断念できないでいる。世界の流れに逆行する日本政府の姿勢にはあきれてしまう。


 今回の国連での気候変動に関する一連の会議で脚光を浴びたのは、スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさん(16歳)だった。地球温暖化対策に背を向ける米国など各国の首脳に「具体的な温暖化対策に取り組まなければ、私たち若い世代は、あなたたちを絶対許さない」と、大人たちを叱った。小泉大臣は感銘を受けたはずである。


 小泉氏は、弱冠38歳で環境大臣に任命され、将来の首相候補の一人とされている。しかも美人のフリーアナウンサー、滝川クリステルさんと結婚した。小泉氏は嫉妬の対象となって、バッシングされているのではないか。「セクシー」発言に、私は違和感がなかったし、それを説明しろと食い下がる記者は、まさに野暮だと私は思う。小泉大臣には、これにひるむことなく、セクシーな環境行政を断行してほしい。(2019年10月21日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。

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