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ぐるり農政【143】

2019年2月27日

「伸びしろが大きい」農産物の輸出

ジャーナリスト 村田 泰夫


 「2019年の農林水産物の輸出1兆円」という政府の目標が視野に入ってきた。農林水産省が2月8日に発表した18(平成30)年の農林水産物・食品の輸出金額は、前年より12.4%多い9068億円に達し、6年連続で過去最高を更新した。19年に10%余り伸びれば目標の1兆円の大台に乗せられる。直近の高い伸びが続けば、目標達成は難しくない。


murata_colum143_1.jpg 加工食品を含む農産物は5661億円で前年比14.0%増、水産物は3031億円で10.3%増、林産物は376億円で6.0%増だった。もう少し詳しく品目を見てみると、農産物・加工食品で前年比の伸び率が高いのは、牛肉が29.1%増、リンゴが27.6%増、日本酒が19.0%増などだ。牛肉は17年9月に日本からの輸入を解禁した台湾向けが好調だった。リンゴは国内生産が不調で輸出量が減った17年の反動で、18年は伸び率が高くなった。

 しかしながら、農産物の品目別で200億円を超えたのは、牛肉の247億円や日本酒の222億円ぐらい。順調に輸出を伸ばしている緑茶は、前年比6.8%増の153億円で、200億円に届かない。伸びが17%を超えたコメは37億円にとどまっている。40.7%も増えたイチゴも金額では25億円にすぎない。また、生で食べられると評判の鶏卵の伸びは実に49.4%と驚異的だが、輸出金額は15億円にとどまっている。


 1品目で200億円を超えているものには、水産物のホタテ貝(476億円)、真珠(346億円)、さば(266億円)、なまこ(210億円)などがあるが、農産物では少ない。農林水産物・食品の輸出金額は、12年の4497億円から6年で倍増したとはいえ、特に農産物の輸出は、まだ「緒に就いたばかり」というのが実態なのである。

 農産物の輸出の伸び率が高いけれど金額の水準はまだ低い、ということは、「今後、伸びる余地が大きい」つまり、「伸びしろがある」ことでもある。


murata_colum143_2.jpg このことは、国・地域別の輸出先の統計を見ても言える。1位は香港で211億円、2位は中国で133億円、3位は米国で117億円だった。4位以下は100億円に届かず、台湾(90億円)、韓国(63億円)、ベトナム(45億円)、タイ(43億円)の順で、欧州連合(EU)向けは47億円だった。昨年まで3位だった中国が米国を抜いて2位に浮上した。いずれにせよ、一つの国・地域向けの輸出金額はまだ少ないので、順位の変動はこれからもあることだろう。


 農産物の輸出で今後、大きな伸びが期待されるのがコメである。国内に生産余力があるうえ、日本の約20倍のコメを消費する世界最大の市場である中国への輸出拡大が見込まれるからである。

 政府は13年8月、コメとコメ加工品(米菓、日本酒など)の輸出金額と数量を「19年に600億円・10万t」とする目標を掲げた。毎年輸出金額は増えているのだが、18年の実績はコメが38億円、米菓が44億円、日本酒が222億円の計304億円と、野心的な目標の半分しかない。数量は米菓や日本酒を原料米換算して加えても、3万1千t余りだ。


murata_colum143_3.jpg 中国は日本産のコメの輸入について、さまざまな検疫上の条件をつけることで、事実上厳しい制限を課している。日本産精米の中国向け輸出は、かつて神奈川県内の精米工場1施設と燻蒸倉庫2施設しか認められていなかった。「害虫の侵入を防ぐ」というのが理由だった。それが18年5月、精米工場2施設、燻蒸倉庫5施設の追加が認められ、格段と輸出しやすくなった。そのためだろうか。中国向けコメの輸出数量・金額は、17年298t・9700万円から18年は524t・2億1100万円へ急増した。

 18年11月、中国は新潟県産のコメの輸入停止を解除した。11年3月の東京電力福島第1原発事故の影響で、東北地方や新潟など10都県から食品の輸入を停止していたが、7年ぶりに新潟県産コメの輸入を解禁したのだ。日本を訪れる中国人観光客の中には、銘柄を指定して「新潟県産」や「魚沼産」のコメを買って帰る人もいるという。帰国後、彼らが日本から銘柄米を取り寄せてくれるようになれば、コメの対中国輸出に弾みがつく。中国のコメ市場は巨大で、日本産米の輸出拡大の余地が大きい。それが中国市場開拓の魅力なのである。


 コメの輸出拡大は、日本農業の発展に直接結びつく。コメの国内消費量は、人口減少の影響で、これまで年間8万tずつ縮小しているとされてきたが、最近、減少スピードが上がり、年間10万tずつ減っている。国内市場の需給を均衡させるには、毎年10万tずつ生産量を減らす、つまり減反しなければいけない計算になる。「そんなことはやっていられない」ので、政府は主食用米の生産数量目標を示す減反をやめることにしたが、民間主導の減反にも限界は見えている。


 コメの国内市場は縮んでいるかもしれないが、海外市場は拡大し続けている。コメの輸出数量はまだ少ないとはいえ、伸びしろは大きい。国内でコメを増産し、恒常的に輸出できるようになれば、日本の食料自給率は上昇に転じる。農業団体が主張する食料安全保障の基盤も整う。輸出拡大の道のりは厳しい。しかし、その先に日本農業の明るい展望が開けるのであれば、歯を食いしばって頑張るときであろう。(2019年2月25日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。

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