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ぐるり農政【140】

2018年11月27日

消費者からそっぽを向かれる

ジャーナリスト 村田 泰夫


 最近のコメの値段の動きを見ていると、コメ市場が私たちに何かを訴えているように思えてならない。2018年産のコメの作況は、大産地の北海道で「不良」となるなどよくなかったことから生産者価格が上昇しているが、スーパーなどで売られる小売価格は、前年産より強含みで推移すると思いきや、前年産とほぼ同じ水準に押し戻されているのだ。


murata_colum140_3.jpg これは私たちに何を語りかけているのだろうか。新米に切り替わったのに、コメの売れゆきがはかばかしくない。卸価格の上昇を反映して米卸業者は値上げに動いたが、売れゆき不振で、消費者価格への転嫁が難しくなっている。いつまでも利益を圧迫し続けるわけにいかない卸業者は、今後、農協などに卸価格(相対取引価格)の引き下げを求めざるを得なくなるのではないか。コメの小売価格は今年で4年連続の値上がりになり、消費者から「買い控え」という反撃を受けた格好である。


 今年産のコメの需給見通しは、二転、三転した。国が生産数量目標を示すことをやめ、いわゆる主食用米の「減反」を廃止した初年度の今年は、コメの作付面積がどうなるか注目された。結果は、主食用米の作付面積が138万6000haと、前年産より1万6000ha増えた。減反廃止でコメの作付けが増えて、需給は緩むと当初見られていた。

 ところが、夏場の低温や日照不足などの天候不順で、コメの作況は、当初予想の「平年並み」から下振れした。全国平均では99の「平年並み」だったが、主産地である北海道で思いもよらない90の「不良」、コメどころの北陸で98の「やや不良」となり、一気に需要がひっ迫するのではないかとの見方が強まった。

 この結果、米穀機構が公表しているコメ取引関係者の意識調査によると、向こう3カ月先の需給見通しは、10月に「締まる」に転じた。実に7カ月ぶりである。8月調査までは需給が「緩む」との見方が強かったのに、収穫期の秋を迎えて今年産の供給量が下方修正され、気分が一気に変わってしまったのである。


murata_colum140_2.jpg このため、全国各地の農協は、農家からコメの委託販売を請け負う際の仮払金(概算金)を軒並み引き上げた。集荷を確実にするためである。地域や銘柄によってさまざまだが、おおむね前年産の概算金より1俵=60kg当たり500円程度引き上げた。しかし、前年産米のコメ代金の精算時に追加払いをしている農協が多いので、実質は小幅の引き上げにとどまっていると見るべきだろう。たとえば、新潟コシヒカリの場合、全農新潟が18年産米に示した概算金は1俵=1万4500円。17年産米で当初示した概算金と比べ700円高いが、17年産米の精算時に500円の追加払いをしているので、18年産の概算金の引き上げ幅は実質200円である。

 概算金の引き上げは、2015年産米以降、4年連続である。概算金の引き上げを受けて、全農など出荷業者は米卸業者との価格交渉で強気に出たようだ。新米である18年産米の9月時点の相対取引価格は、全銘柄平均で1俵=1万5763円になった。前月の8月は17年産米で、その相対取引価格は1万5683円だったので80円値上がりした。率にすると0.5%の上昇である。


 ところがである。18年産米の10月時点の相対取引価格は、1万5707円と、前月より56円(0.4%)下がってしまった。18年産米は、作付面積が増えたが作況がよくなく、主食用米の予想収穫量は当初見込みの735万tを下回る732万9000tにとどまる見込み。にもかかわらず、価格が上昇しないのは、小売り段階での売れ行きがよくないからである。

 18年産の小売価格は、新米が出回り始めたころまでは、やや強含みで推移していたが、9月に入ってから売れゆきが鈍り始めてきた。小売店の販売データであるPOS情報によると、5kg袋入り精米(消費税込み)で、9月は全取引平均で2029円と前月より0.5%下がった。大幅な下落とまでは言えず横ばいだが、4年連続の値上がりにストップがかかった。

 背景に消費者の「コメ離れ」がある。気になるのは、そのコメ離れが加速していることである。ダイエット志向の強い消費者の「炭水化物離れ」も一因だろうが、コメ離れの最大の要因は価格の上昇にある。生産者団体は「消費のテコ入れが必要だ」と言っているが、コメの値段を4年連続して上げておきながら、コメの消費拡大なんてできるはずがない。


murata_colum140_1.jpg コンビニのおにぎりが小さくなり、回転すしの「しゃり」の量が減り、牛丼屋のごはんに外国産米が使われるのは、国産米が高いからである。生産者の利益が減ってもいいと言っているわけではない。生産者の手取り収入を減らすことなくコメを安く供給することはできる。その一つが、多収穫米の作付けである。

 なのに、コメの産地では「特A米」の開発競争に血道を上げている。高い価格で売れると見込んでいるからであろう。おいしいブランド米を作りたい産地や生産者の気持ちはわかる。だが、コメを消費する弁当などの中食業者、牛丼屋や回転ずし屋などの外食業者、それに一般家庭の消費者が求めているのは、ブランド米ではない。味はそこそこでいいから、もっと安いコメが欲しいのである。市場のニーズにこたえる努力を怠ると、消費サイドからそっぽを向かれてしまう。(2018年11月23日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。

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