MENU
2025年
2024年
2023年
2022年
2021年
2020年
2019年
2018年
2017年
2016年
2015年
2014年
2013年
2012年
2011年
2010年
2009年
2008年
2007年
2018年9月25日
「ふるさと納税」もう一つの視点
ジャーナリスト 村田 泰夫
「ふるさと納税」制度をめぐる議論が沸騰している。野田聖子総務相が制度の見直しを表明したからである。過度な返礼品を送る自治体については税制優遇の対象から外すとした。「創意・工夫で寄付金を集めてきたのに、国が一律に規制するのは納得できない」として、高価な返礼品で寄付を集めていた自治体からは強い反発の声が出ている。
ふるさと納税制度は、都市と地方との税収格差を埋める方策の一つとして、10年前の2008年から始まった。自分の出身地(故郷)や応援したい自治体に寄付をすると、寄付額から2000円を引いた金額が所得税や住民税から控除される仕組み。各自治体が返礼品を送ることで寄付集めに狂奔するようになり、高価な牛肉や水産物、さらにはパソコンなどの家電製品、海外のホテルの宿泊券や金券まで揃えるなど、エスカレートしていった。
寄付金に対する返礼品の金額の割合が5割を軽く超えるところも珍しくなくなった。納税額によって寄付金額の上限は決められているが、その上限が緩和されたこともあって、2014年度は総額388億円だったのが、17年度には3653億円にまで急増した。応援したい自治体への寄付という当初の趣旨から外れて、2000円で金額以上の見返りが期待できるカタログ通販の様相を示すようになってしまった。
総務省は17年4月に、返礼品の金額を寄付の「3割以下」とするよう要請した。さらに今年4月には、返礼品は「地場産品」に限るように通知した。しかし、総務省の通知には強制力がない。今年9月1日現在、全国の自治体の14%近くの246自治体が「返礼割合30%超」、11%近くの190自治体が「地場産品以外」の返礼品を送っている。そこで、総務省は「通知に従わない自治体は制度の対象外とする」という法改正を検討することにしたのだ。
「言うことを聞かないから、けしからん」ということだけが、強硬措置に踏み切った理由ではない。総務省の通知に従って返礼比率を下げた自治体の中には、寄付金額が激減したところがある。通知に従わず高い返礼比率を維持した自治体に「客」が流れたからだ。通知に従って見直した自治体から「正直者がバカを見る結果になっている」という苦情が出て、総務省は苦慮していた。
さらに、地方税収が流出している東京23区など都市部の自治体の中に新たな動きが出てきた。これまでは、税収の流出に苦々しく思いながらも静観してきた都市部の自治体の中に、「見過ごせない。われわれも返礼品競争に加わろう」と、参戦する動きが出てきた。税収の減少額が半端でない額にのぼるようになったからだ。世田谷区が40億円、港区が30億円というからすごい。参戦する動きとしては、東京都葛飾区が「限定版モンチッチ」や「東京三味線」を返礼品とする。また、東京都多摩市は「ちびまる子ちゃん」を手がけるスタジオ見学や、市内のテーマパーク「サンリオピューロランド」の入場券を用意する。
寄付金に対する返礼品の比率は限りなく上がり続ける。激しい返礼品競争の行きつく先は、混乱である。寄付金が集まったとしても、返戻品に経費が食われ、自治体の手元に残る寄付金(税収)は名目ほど増えない。これでは趣旨に反するということで、総務省は強硬措置を検討することになったわけだ。
総務省の方針に賛成か反対か、議論が盛り上がった。論点は国による自治体への規制の妥当性にある。とくに「返礼品の割合を金銭換算で3割以下とする」ことと、「返礼品は地場産品に限る」という通達の是非である。
「自治体が知恵を出し合い、税収(寄付金)を増やす努力をして、どこが悪い」とか、「国は地方交付税で、国税の一部を地方自治体に配分しているが、ふるさと納税制度が増えると、官僚の財産配分権が侵されるので、それを取り戻す画策ではないか」という反発が噴出した。
総務省によれば、「おおむね3割としたのは、他に経費が2割ほどかかるので、コストが5割を超えると制度の趣旨に反するから」と説明している。「上限は3割」という妥当性については異論があるかもしれないが、限りない返戻品競争に歯止めは必要であろう。
私がもう一つの視点というのは、「地場産品に限る」という規制である。この規制は意味がある。地域活性化のテコとして、大きな切り札となるからである。ふるさと納税制度ができた当初、長野県内のある村で、寄付金1万円の返礼品として、村内の農家から仕入れたコメ(精米)を30kg送っていた(現在は20kgに減らしている)。生産者米価が1
俵=60kg(玄米)=1万5000円とすると、村は1万円の寄付金収入で、村内の農家に7500円を支払っていたから、返礼品率は3割を超えるし、諸経費を加えれば、村に残る寄付金(税収)はほとんど残らない。
それでも村長は「コメが高く売れるので農家は大喜び。やる気も出る。村が元気になれば、それでいい」と語っていた。今回の規制に対して「うちには地場産品がない」なんて言っている首長がいるが、コメなど農産物はあるはずだ。「やれない」理由をあげる前に、自分の村で工夫できることを考えるのが首長の役割である。ふるさと納税制度を地域活性化のきっかけづくりになるよう知恵を絞ってほしい。(2018年9月21日)
朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。