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ぐるり農政【121】

2017年4月24日

減反廃止後も生産量の目安

ジャーナリスト 村田 泰夫


 平成30(2018)年産米からいわゆる減反が廃止されるが、全国ほとんどの道府県でコメの「生産量の目安」が設定される。農林水産省は30年産米から、コメの生産調整(減反)の指針となる生産数量目標の設定と配分をやめるが、道府県や市町村の関与する組織が生産量の目安を示すとなると、減反の廃止は形だけのものになりかねない。

 これまで国は都道府県ごとのコメの生産数量目標を設定し、都道府県は市町村に、市町村は個別のコメ農家に、減反への協力を依頼してきた。現在の減反は強制ではなく任意の選択制で、減反に応じた農家には、メリット措置として10aにつき7500円の交付金を支払ってきた(民主党政権下では1万5000円だった)。それを30年産米から、政府は都道府県ごとの配分をやめ、交付金の支給もやめる。これが、いわゆる減反の廃止である。


 30年産米からどうなるのか。政府によれば、こうなる。「行政による生産数量目標の配分に頼らずとも、国が策定する需給見通し等を踏まえつつ、生産者や集荷業者・団体が中心となって、円滑に需要に応じた生産が行われる状況になるよう、行政・生産者団体・現場が一体となって取り組む」

 まわりくどい表現でわかりにくい。要するに、国は生産数量目標を示さず、減反に協力することへのメリットである交付金もなくし、今後は、主食用米の生産は需給が均衡するように、産地の関係者が一体となって取り組むことになった。その「関係者」とは、都道府県や市町村などの自治体と農協などで構成する農業再生協議会(再生協)である。


murata_colum121_3.jpg 全国農協中央会(全中)の調べによると、コメ生産の少ない東京、大阪、沖縄を除く44道府県のうち40道県の再生協が、30年産米の作付けにあたって、国の生産数量目標に代わる「生産量の目安」を設定することがわかった。さらに2府県が市町村段階の再生協が設定した目安を集計して示す。

 また、36道県では、都道府県段階の再生協が、市町村段階の再生協に目安の情報を流すという。現行の「配分」に当たる措置だ。ただ、地域の再生協から個別のコメ農家にまで目安の情報を示す道県は16にとどまる。いずれにしても、これまでの行政による「生産数量目標」が、産地組織による「生産量の目安」に代わっただけという見方もできる。

 しかも、主食用米の作付けを減らし転作を強力に推し進める「転作奨励策」を、農水省は打ち出している。それが家畜のエサとなる飼料用米への手厚い助成である。主食用米の代わりに飼料用米を作付けした場合の助成金は、収量によって異なり、標準収量(10a=531kg)だと8万円だが、収量が多いと最大10.5万円支給される。この助成金をアップした27年産米から飼料用米の生産は急増し、前年度比2.4倍の44万tにのぼった。28年度産も48.1万tと高水準を維持している。


murata_colum121_1.jpg さらに農水省は、減反廃止前年の29年産米から、市町村別のコメ作付け状況を5月から公表することにした。これまでは都道府県ごとだったが、よりきめ細かくコメの作付け状況を公表することにした。主食用米や飼料用米など転作作物の作付け状況を生産者に伝えることによって、主食用米の作付けが増えるのをけん制したいからである。

 コメの生産数量目標について、国による指示が30年産からなくなっても、手厚い転作助成金で生産者を釣れば、主食用米の過剰と価格下落を防げるというのが、農水省の戦略なのであろう。

 コメの減反廃止の狙いは、市場の自由で公正な価格形成機能を活用することで、資源の効率的な配分を期待することだった。つまり、農業生産者はコメの市場価格が上がればコメの生産量を増やし、逆に下がれば他の作物を作付ける。需要に応じた生産に生産者が励むことで、農地や労働力などの資源は有効に活用される。そして、生産者はみずからの経営力を磨くことができる。


murata_colum121_2.jpg ところが、30年産以降も、手厚い転作奨励金の支給で主食用米の生産が抑えられ、米価が高止まりすることになれば、どうなるか。米価は自由で公正な市場価格とは言えず、「減反廃止」の意義は薄れてしまう。

 減反つまりコメの生産調整は、政府による生産数量の配分という「規制」と、転作作物作付けに対する助成金の支給という「誘導」で実施されてきた。かつて、規制にはペナルティが伴い、減反面積や生産数量の配分をオーバーしている市町村や生産者に対しては、農業農村整備事業など政府助成策の対象から外された。それが、民主党政権時代に生産者の選択制となった。30年産からは、主食用米の生産数量の目安と配分は、政府から産地組織に代わる。これを規制の廃止と見るか継続と見るかは、判断の分かれるところだ。


 一方の、転作作物への助成という誘導策は、今後も継続される。その意味で、30年産以降の「減反廃止」は、完全廃止とは言い切れない。飼料用米への転作など、手厚い助成金の総額は年間3000億円を超える。持続可能な政策とは言えず、減額や制度の縮小を余儀なくされた時に、減反政策は終焉を迎える。(2017年4月24日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。

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