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ぐるり農政【114】

2016年9月27日

国産米は家畜が食べ、輸入米は国民が食べる

ジャーナリスト 村田 泰夫


 わが国の農政は、どこかおかしくないか。優秀な官僚たちがいるはずなのに、腑に落ちないことが少なくない。最近首をかしげたことは、コメ政策である。国産米は家畜のえさになり、私たち国民は、海外から輸入されたコメを食べさせられるように仕向けられていることだ。こんなことがあってはならないのに、農協が後押ししているのだから情けない。


 農水省が9月7日に実施した、今年度最初の主食用輸入米の入札が実施された。コメは年間77万tが、ミニマム・アクセス米として政府の管理下で輸入されている。大半が米菓などの加工用米や飼料用米として消費されるが、10万tを上限に主食用に回される。年間、数回に分けて入札されるが、今年度1回目の入札では予定数量3万tに対して、落札量は1万416tだった。落札率は35%である。落札量、落札率とも2年7カ月ぶりの高い水準となった。


murata_colum114_1.jpg 主食用輸入米の落札数量は、上限が10万tと決められているだけで、需給関係を反映して年によって変動する。国産米が安く手に入るときには輸入米の落札数量は減り、逆に国産米の価格が高くなると輸入米が増える。主食用輸入米を買う業者は、牛丼チェーン店や回転すしなど主に外食産業である。コメを大量に仕入れるから価格に敏感である。国産米志向が強いが、価格が高くなれば、輸入米を混ぜて使うことになる。

 これまで国産米は海外産米より高いことが多かったから、上限の10万t全量が輸入されてきた。ところが近年、国産米の価格が下がるようになってきてから、「低価格」をうりものにしてきた輸入米の魅力が減り、10万tの上限に達しない年が出てくるようになった。国産米価が下がった2010(平成22)年度の主食用輸入米の落札数量は3.1万t、13年度は6.1万t、14年度は1.2万t、そして昨年度(15年度)は2.9万tだった。それが、今年度に入ってから国産米の価格が上昇してきたため、輸入米の魅力が増してきて、1回目の入札で1万t以上も落札された。


 16年産米の国産米価格が上がったのは、政府と農協が総力を挙げて取り組んだ「飼料米への転換」のいわば成果である。主食用のコメを作ってきた水田に、家畜の飼料として食べさせる飼料用米を作付けるように、手厚い助成策を講じた。主食用米の生産を減らし麦や大豆などへの転作を呼びかけたが、なかなか進まず、主食用米の過剰作付けが減らないことが国産米価格下落の原因だとして、いわゆる「減反」の推進に、官民挙げて取り組んでいるのである。


murata_colum114_2.jpg 飼料用米を作付ければ、収量に応じて10a当たり5.5万円~10.5万円の交付金を政府が支給する。さらに飼料用米の裏作に麦を作付けるなどの二毛作には1.5万円加算し、畜産農家と連携する耕畜連携には1.3万円の加算、多収穫品種を取り入れた場合には1.2万円の加算といった大判振る舞いである。

 これにより、15(平成27)年産の飼料用米の作付面積は4.6万ha増の8万haにのぼった。生産量は前年産より2.4倍増の42.1万tを見込んでいる。コメが余る一因である主食用米の過剰作付面積は、15年産米で初めて1.3万haのマイナスとなった。つまり、減反目標を過剰達成したのである。これでコメが足りなくなるわけではないが、増えぎみだったコメの流通在庫が減り、市場で取引される米価が高めに推移する大きな要因となった。


 この結果、「国産米は家畜が食べ、輸入米を国民が食べる」現象が起きているのである。飼料用米の生産について政府は、「2025(平成37)年の努力目標110万t」を掲げている。現在の2.6倍もの増産であり、「国産米を家畜が食べる」動きが広がることになる。そうなった場合、私たち人間の食べる国産米の価格はどうなるのだろう。

 生産者米価の値上がりは農家の手取りの上昇につながり、一見よさそうに見えるが、米価の値上がりは必ず消費の減退につながる。「コメ離れ」を加速させるのである。実際のところ、農協と卸業者との間の取引価格の基準となる相対取引価格は、前年産米より10%前後上昇しているが、スーパーなどで売られている消費者米価は、ほとんど上がっていない。下がり気味だった価格が下げ止まっている程度である。「価格を上げると、途端に売れ行きが落ちる」と、スーパーの売り場責任者は語る。消費の減退が怖く、ギリギリのところで踏みとどまっている。


murata_colum114_3.jpg 減反政策によって耕作放棄地が増えるなど、せっかくの農地が使われないのはもったいない。家畜の飼料は大部分が輸入されており、転作作物の一つとして飼料用米の作付けを奨励することは理にかなっている。飼料米の価格は主食用米のざっと10分の1といわれるから、手厚い助成策も必要だろう。

 しかし、現行の飼料米生産奨励策は実質的な減反強化策である。政府によるコメの価格形成への介入は、市場からの反撃を招く。水田の有効利用という目的から逸脱し、主食用米の価格つり上げのために、行き過ぎた助成策で飼料用米の生産を奨励し続ければ、実需に基づいたコメの価格形成を阻害する。業務用米を求める外食産業だけでなく、一般消費者のコメ離れも招いては元も子もない。(2016年9月26日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。

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