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ぐるり農政【105】

2015年12月24日

歯止めがかからない耕作放棄地の増加

ジャーナリスト 村田 泰夫


 耕作放棄地の増加に歯止めがかからない。ちょっとがっかりさせる統計数字が農水省から公表された。平成27(2015)年11月27日に発表された「2015年農林業センサス」結果によると、27年2月1日現在の耕作放棄地の面積は、42万4090haで、前回調査(5年前)より7.1%増えた。前回の調査まで「耕作放棄地の増加傾向が鈍化してきた」と期待をふくらませてきた。それが後戻りしているのである。


 まず、耕作放棄地の推移(図)を見てみよう。5年ごとにおこなわれる農林業センサスによると、平成7年から12年までの5年間は9.9万haも増えていた。それが、17年までは4.3万ha増、22年までは1.0万ha増と増え方が鈍ってきた。これは喜ばしいと思っていた。ところが、27年までの5年間では2.8万ha増と、再び増え方が大きくなった。


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 ちょっと気になるのは、販売農家の所有する農地で、耕作放棄が再び増えていることだ。27年は前回調査より3000ha増えてしまった。販売農家の耕作放棄地は平成12年をピークに、ずっと減り続けてきた。それがわずかであるが、逆転してしまった。


 これまで、販売農家で耕作放棄地の増加ペースが減ってきたのは、中山間地域等直接支払制度の成果が現れているからであろう。中山間直払いは、傾斜地など生産条件の悪い中山間地域で農業を営む農家に、助成金を支給する制度。「耕作放棄地を出さない」ことが助成金支給の前提条件になっている。中山間地域では耕作放棄地が発生しやすいが、この制度が発足した平成12年度以降、発生が鈍化している。


 農林業センサスで調べる耕作放棄地とは、「以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付けせず、この数年の間に再び作付けする考えのない土地」のことである。いわば所有者の主観(自己申告)による放棄地だ。これに対し、市町村職員らが客観的に調べる放棄地に「荒廃農地」という概念がある。その定義は「現に耕作されておらず、耕作の放棄により荒廃し、通常の農作業では作物の栽培が客観的に不可能となっている農地」である。

 荒廃農地面積は、平成26年現在で27.6万haと、耕作放棄地より少ない。その荒廃農地を対象とした調査によると、荒廃農地の発生要因で、最も多いのは「高齢化・労働力不足」で23%、次いで「土地持ち非農家の増加」の16%、「農産物価格の低迷」の15%だ。高齢化で農業を続けていけなくなったり、高齢農業者の死亡が原因であったりすることが多い。


murata_colum105_1.jpg 耕作放棄地の推移の図で明らかなように、耕作放棄地増加の主因は、「土地持ち非農家」にある。27年は前回調査より2.4万ha増と、増加傾向に拍車がかかっており(図)、耕作放棄地の48.6%を占める。土地持ち非農家とは、文字通り、農家でない人が所有している農地である。

 農地法で、農家以外の人は農地を所有できないことになっているはずだ。しかし、相続した場合は認められる。高齢の親がなくなって都会に住む子息が所有することになった場合、その子息たちが「土地持ち非農家」となる。彼らは相続したものの、その農地を耕す意思がなく、耕作放棄地となってしまうことが多いのだ。


 食料自給率の低いことがわが国農業の問題とされているが、それ以上に問題なのが食料自給力の劣化だ。わかりやすく言えば、農業の基本的な生産手段である農地の減少である。わが国の農地面積は、ピーク時の昭和36(1961)年には609万haあった。それが平成26年には452万haと、4分の1も減っている。耕作放棄地と農地転用の増加が原因である。農地さえあれば、天災や戦乱など万が一の事態が起きても何とかなる。


 農水省によると、現状を放置しておけば10年後の平成37(2025)年には、今より32万ha少ない420万haに減ってしまう。それを「荒廃農地の発生抑制」や「荒廃農地の再生」によって12万ha減にとどめ、440万haの農地を確保したい考えだ。

 そのために、耕作放棄地の再生に取り組む農業者や農業法人、それに農地中間管理機構(農地バンク)に対して助成金を支給するなどの事業を実施している。幸いにも、新たに農業に参入しようとする若者や企業が出てきている。新規参入のハードルを下げるなどして、農地の有効活用を進める必要がある。(2015年12月24日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。

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