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2013年12月26日
「減反」は廃止されるのか否か
ジャーナリスト 村田 泰夫
政府は、米の「生産調整の見直し」を発表した。この「見直し」をどのように解釈したらいいのか、農業界はざわついている。「減反の廃止」と受け止める人もいれば、まったく逆に「生産調整のやり方を変えただけで、減反廃止ではない」という人もいる。どちらが正しいのか、わかりにくい。
そもそも、「減反」という言葉は、いまは正式には使わない。「反」とは、農地面積を表す昔の単位で、1反は10aのことである。米の減反政策を本格的にスタートさせた昭和45(1970)年当時、お米を作付ける水田面積を減らすという意味から「減反」という言葉が使われ始めた。いまは「生産調整」と呼んでいる。主食用の米の生産量を減らす(調整する)ことに変わりはないから、減反も生産調整も同じである。
今回の生産調整の見直しについて、安倍晋三首相は記者会見で「40年以上続いてきた米の生産調整を見直し、いわゆる減反の廃止を決定した」と明言した。これに対し、自民党農業基本政策検討プロジェクトチームの宮越光寛座長は「生産調整の手法の見直しであって、減反の廃止ではない」と言い張るのだ。
どちらが正しいのか判断するには、事実を検証するしかない。昔の「減反政策」はそれに協力しないとペナルティを課せられる強制的な制度だったが、民主党政権になって「選択性」になった。政府が米の需要量を計算し、それに見合う主食用米の生産数量を都道府県、市町村に割り当てられ、それが個別の農家に下ろされていた。
行政の示す生産数量目標に協力して生産数量を抑えた生産者には、国から10a当たり1万5千円の「米の所得補償交付金」(固定部分)が支払われた。さらに、その年の米の販売価格の平均が標準的な価格より下がった場合には、「米価変動補填交付金」(変動部分)が支払われた。
生産数量目標に協力せず、作りたいだけ米を作っても、ペナルティはない。昔は協力しないと罰が加えられたが、選択性になってからは、協力すればメリットがある方式に変わった。一方、主食用米以外の麦や大豆、飼料米、米粉米の生産を促すため、これらの作物を生産した場合には、いわゆる転作奨励金が出た。これが現行制度である。
来年度以降の新しい制度はどうか。5年後の2018(平成20)年度から、国が生産数量目標を示すのはやめ、生産調整を促すメリット措置も廃止する。このことをさして、安倍首相も一部の識者も「減反の廃止」と言っているのである。それでは、生産者は主食用米を作りたいだけ作ることができるのだろうか。それは建前で、あいまいなのである。政府の文章では以下のようになっている。
「5年後をめどに、行政による生産数量目標の配分に頼らずとも、国が策定する需給見通し等を踏まえつつ、生産者や集荷業者・団体が中心となって、円滑に需要に応じた生産が行われる状況になるよう、行政・生産者団体・現場が一体となって取り組む」
生産数量目標もなくし、協力することへのメリット措置もなくす。主食用米の生産は、需給が均衡するように関係者が一体となって取り組む──素直に読めば、減反廃止と受けとめるべきなのだが。
ただ、来年度から5年間は、選択性の生産調整を続ける。生産数量目標は、従来通り政府が決めて都道府県に流す。それに協力した生産者には交付金(固定部分)を支払うが、これまでの10a=1万5千円を半額の7500円に減額する。米価が下落した場合に補てんする交付金(変動部分)は廃止する。
一方、主食用米以外の作物を作った場合に支払われる、いわゆる転作奨励金のうち、飼料用米と米粉用米の生産には、奨励金の金額を増額する。しかも、これまでは10a当たり8万円というふうに、「面積払い」だったが、来年度からは、標準的な収量には従来と同じ8万円だが、収量をたくさんあげた生産者には、最大10万5千円の奨励金を支払う。「数量払い」にしたのである。これまで、8万円の奨励金目当てに、アリバイ作りに作付ける「捨てづくり」が横行しているためで、それを防ぐねらいがある。
新しい制度を「減反廃止」と言えるかどうかは、制度がうまく機能するかどうかにかかっている。生産数量目標を守ることによって支給されてきた固定部分の交付金が半減され、米価下落時の交付金がもらえなくなると、生産調整に協力するインセンティブが減殺される。それなら、主食用米を作ろうという動きが出てくれば、減反廃止で米価が下落するという理解が広がる。
しかしながら、飼料米など主食用米以外の作物を作ると支給される奨励金が大幅に上積みされたから、主食用米を作らずに飼料米を作る動きが全国に広がる可能性もある。すると、多額の転作奨励金目当てに主食用米の生産が抑えられ、米価は維持されるかもしれない。「減反廃止」は名ばかりで、米価は高値で安定することもありうる。どちらの状態になるのか、今後の生産者の行動を注意深く見ていきたい。(2013年12月26日)
朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。