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2013年6月27日
高齢化著しい稲作経営
ジャーナリスト 村田 泰夫
農業白書の記事を新聞紙面で読むことがなくなったように思う。だいぶ昔のことだが、私が現役の新聞記者のころ、農業白書は農林省内の記者クラブで、1週間ほど前に事前レクチャーがあった。いまは前日である。なぜそんな前にあったかというと、各新聞社とも夕刊の1ページを使って農業白書の要点を紹介する特集面を組んでいたからだ。大部の報告書を読みこなして記事化するのに時間がかかるので、農水省は1週間前に内容をレクチャーしてくれたのだ。
平成24年度版の白書は、6月11日の閣議で決定され、公表された。新聞各紙の扱いは、いずれもベタ記事である。さすが、業界専門紙には大きな見出しがおどっていたが、1ページ使った特集面は組んでいない。
新しい基本法ができた1999年以降、農業白書は正確には「食料・農業・農村の動向」に変わった。その今年の白書だが、ていねいに読んでも記事になるような新味がない。ホーと思わせる分析を一つだけ見つけたので、紹介してみたい。農業に従事している人のうち、ふだんから主に農業を仕事としている「基幹的農業従事者」の年齢構成を、経営形態別に調べた数字が載っていた。
驚くべき数字が明らかになった。稲作では基幹的農業従事者の高齢化率が最も著しく(グラフ参照)、65歳以上が74%を占めている。60~65歳が13%、50~59歳が9%、40~49歳が2%で、39歳未満の「青年」は、たったの1%しかいない。稲作を経営している基幹的農業従事者の平均年齢は70歳になるという。10年後にはどうなるのだろう。いま70歳の人は、確実に80歳になる。平均年齢が80歳という稲作経営の姿を想像できるだろうか。
救いの数字もある。酪農、養豚、施設野菜を営む基幹的農業従事者は、稲作と違って若いのだ。65歳以下の割合は、酪農が26%、養豚が31%、施設野菜が40%と相対的に少なく、稲作経営と比べて、50~59歳の「壮年」層が手厚い。平均年齢は、酪農が55歳、養豚が57歳、施設野菜が60歳だから、まだ先の展望が開ける。
この原因について、白書では「酪農や養豚においては、経営規模の大きい農家が多く、農業所得も多い傾向にあることから後継者が確保されやすいこと等が背景にあると考えられます」と分析している。畜産や野菜生産など、土地に大きく制約されない経営形態では、構造改革は結構進んでいて、零細農家が残っているのは、稲作など土地利用型農業である。それにしても、稲作経営を支える担い手の超高齢化は気にかかる。
これまで、基幹的農業従事者の全体の年齢階層ごとの分析は明らかにされてきた。平成24(2012)年の統計だが、従事者の総数は178万人いる。20年ほど前には300万人もいたから、大きく減ったとはいえ、絶対数としては足りている。問題は年齢構成のバランスが大きく崩れていることである。65歳以上の高齢者は全体の60%(106万人)を占めているのに、49歳以下の「青壮年」はたったの10%(18万人)しかいないのである。
基幹的農業従事者の最多階層は、わが国の場合は「昭和一けた世代」である。昭和30(1960)年当時、30歳代のピークを形成していた昭和一けた世代は、その後、高年齢層にシフトしていき、平成22(2010)年では70歳後半にピークを形成している。あと数年で、そのほとんど全員がリタイアを迫られている。
高齢者がリタイアして、いなくなっても、それを埋める若年層が補っていけば問題はない。誤解を恐れずに言えば、むしろ望ましい姿かもしれないが、残念ながら、そうなってはいない。65歳以上の106万人がいずれいなくなった後、それを埋める若年層がいなければ、日本農業を支える絶対的な担い手不足に直面する。技術やスキルが求められる農業は、急に担い手を育てることはできない。そんな恐ろしい危機的な状況を予感させるのが、今回改めて明らかになった、稲作経営における超高齢化の現実なのである。(2013年6月25日)
朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。