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2013年4月23日
女性を活用した農業経営ほど高収益
ジャーナリスト 村田 泰夫
女性を活用している農業経営体ほど売上高や収益率の高いことが、日本政策金融公庫の調査で明らかになった。農林水産省の調査でも、同じような結果が出ている。もうかる農業のかぎは、女性が握っているようだ。
日本公庫の調査は、6次産業化や大規模経営に取り組む融資先を対象に実施した。「女性の能力を引き出し、活躍の場を広げているか」と聞いたところ、農産物を、みずから加工したり消費者に直接販売したりする6次産業化に取り組む農業者の62.5%が、女性を活用していた。一方、6次産業化に取り組んでいない農業者で、女性を活用している経営体は、39.4%にすぎなかった。
6次産業化に取り組んでいる農業者ほど、女性の能力を生かすことに熱心なことが明らかになった。その理由について、公庫では「女性の方が、食品加工や販売業務には適応能力が高いからではないか」と分析している。面談による聞き取り調査でも「女性はコスト意識が高いうえ、気配りができて接客業務に向いている」と答えた経営者が多かったという。
さらに、女性活用に熱心な経営体ほど、売上高や収益率が高いことが明らかになった。これは見過ごせない事実である。設備投資をしてから3年後の売上高の動向を聞いたところ、「女性の役員・管理職がいる」経営体では、3年間で売上高が23.0%増えたのに対し、「いない」経営体では9.4%の増加にとどまった。女性を活用しているかどうかで、13.6ポイントもの大きな差があることに注目したい。
また、売上高利益率の3年間の動向を聞いたところ、「女性の役員・管理職がいる」経営体では利益率が0.9%から2.9%へ2%上昇したのに対し、「いない」経営体ではほぼ横ばい(1.5%から1.4%へ)だった。
女性を活用している理由について農業経営者に聞いたところ、①女性に向いた仕事が多いため、②女性の感性や経験を事業に生かしたいため、③女性の能力を生かせる機会が増えてきたため、との回答が多かった。
もともと、農業経営に果たす女性の役割は大きい。農水省の調べによると、基幹的農業従事者に占める女性の割合は、近年下がる傾向にあるとはいえ、44.0%(平成22年)と4割以上を占める。しかも、女性の基幹的農業従事者のいる経営体ほど、販売金額が大きい傾向にある。農産物などの年間販売金額が300万円未満の経営体では、女性の基幹的農業従事者は41%しかいないが、1000万円以上では89%~92%の経営体に女性の基幹的農業従事者がいて、女性の活躍如何が農業経営の売上高を左右しているかのようだ。
また、農産物加工、観光・体験農園、海外輸出などに取り組んでいる農業経営体の7割から8割に、女性の基幹的農業従事者がいる。これは、日本公庫の調査とほぼ同じ結果である。経営規模が大きく、事業を手広くやるようになると経営者一人ではやり切れず、経営者の妻も手伝わざるを得ないという側面もあろう。でも、コスト意識が高く、経営の細部に気を配るきめ細やかさをもつ女性の経営への参画が、業績に反映していると見るべきだろう。
農業分野における女性の活躍にめざましいものがあるが、課題もある。育児休暇制度や残業の免除など、女性の働きやすい職場環境づくりの面で、依然としておくれているところがあるからだ。
日本公庫は、2011年に中小企業を対象に「従業員の雇用」についてアンケート調査をしたことがある。その結果の中から、女性にとっての働きやすさの項目をピックアップして、農業と中小企業を比べてみると――「短時間勤務制度」では農業58%=中小企業84%、「子供の看護休暇制度」では農業28%=中小企業63%、「残業の免除」では農業25%=中小企業84%、「フレックスタイム制度」では農業12%=中小企業69%というふうに、すべての項目において、農業分野での取り組みが立ちおくれていた。
農業、ことに6次産業化といわれる多角経営に果たす女性の大きな役割を改めて認識してもらうことで、農業分野や農村において、女性の働きやすい環境づくりに向けた取り組みが急がれている。(2013年4月18日)
朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。