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ぐるり農政【39】

2010年9月14日

農業就業人口22%減の260万人

                      ジャーナリスト 村田 泰夫


 わが国の農業就業人口は、5年前と比べて22%減り260万人になった─農水省が9月上旬に発表した「2010年農林業センサス」(速報値)で、農業に携わっている人の数が急速に減っている現状が改めて明らかになった。この結果を「日本農業の衰退」のあらわれととらえることは簡単だが、明るい兆しもちょっぴり見えてきたと分析することも可能である。なお、センサスは5年ごとに調査し、2010年の結果は2月1日現在。


 まず、農家数や農業就業人口。農地30a以上か年間50万円以上の売り上げのある「販売農家」は163万1千戸で、5年前と比べて33万2千戸(16.9%)減った。農業就業人口は260万人で、75万人(22.4%)減った。平均年齢は5年前の63.2歳から65.8歳になり、ついに65歳を超えた。販売農家の減り方は、これまでのトレンドとほぼ同じだが、就業人口の減り方は加速度がついている。これは、昭和ひとけた世代75歳以上の「後期高齢者」になり、農業をやめる人が増えているあらわれであろう。高齢化による農業就業人口の急速な減少は、なおしばらく続くのではないか。


 次に、経営耕地面積。販売農家に農作業受託組織を加えた「農業経営体」の経営耕地面積は364万haだが、そのうち借入耕地は107万haにのぼり、5年前と比べて24万ha(29.6%)の大幅増加となった。また、1経営体当たりの平均耕地面積は、5年前の1.9haから2.2haになり、初めて2haを超えた。また、耕地規模別に農業経営体をみると、5年前と比べて、5ha未満層では規模が小さい層ほど減少率が大きく、5ha以上層では規模が大きくなるに従って増加率が高くなっている。つまり、農業経営体の規模拡大が着実に進んでいる。


 一方、耕作放棄地はどうなったであろうか。耕作放棄地とは、「以前耕作していた農地で、過去1年以上何も作付けせず、今後も作付ける意思のない農地」をいうが、耕作放棄地は40万haと、5年前と比べて1万ha(2.6%)増えた。しかし、平成12年から17年までの5年間には、5万ha(14.7%)増えて39万haになったことと比べれば、22年までの5年間の耕作放棄地の増加ペースはぐんと鈍ったといえる。


 こうした農業センサスの数字を、どのように評価すべきなのだろうか。「高齢化が急速に進んで、農業をやる人も農家も減ってしまっている。耕作放棄地も引き続き増え続けている」として、日本農業の衰退論が裏付けられたと見ることもできよう。一方、「小規模零細農家ほど廃業する割合が多く、わずかながら経営規模の拡大が進んでいる。耕作放棄地は増えているものの、その増勢は鈍り、歯止めがかかった」として、日本農業の将来に希望をつなぐこともできよう。


 この5年間に農村で起きている前向きの変化が、今回のセンサスの結果にもあらわれている。たとえば、「農商工連携」や「6次産業化」の流れである。農業生産関連事業の取組状況についての調査によると、「農産物の加工」に取り組む経営体の数は3万4千で、5年前と比べて42.6%も増えた。また余暇関連の事業では「観光農園」が9千で16.9%増、「貸し農園・体験農園」が6千で44.8%も増えた。


 また、農業経営体のうち「法人化」している数は2万2千経営体で、5年前と比べて3千経営体(16.0%)増えた。さらに、「産地直売所」の数は1万7千施設で、5年前と比べて約3千施設(24.3%)も増えた。その8割が生産者個人や生産者グループが運営している。


 デフレの影響は農業や農村にもおよび、農産物の販売金額は伸び悩んでいる。しかし、農業生産者の中には、単なる農畜産物などの食材供給者の立場から、生産した農畜産物をみずから加工、販売まで担う事業者になることで、付加価値を自分のものにしようとする動きが広がっている。そうした積極的な経営者に変身した農業者の姿が、センサスの結果から読み取れる。


 今回のセンサスから「日本農業に再生の兆し」を読み取るには無理がある。しかし、多くの困難に直面しながらも、たくましい農業経営者たちが出てきていることは確かであろう。そうした農業経営者を見殺しにすることなく、支え育てる農政が求められている。(2010年9月13日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。

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