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ぐるり農政【38】

2010年8月13日

食料自給率を考える

                      ジャーナリスト 村田 泰夫


 平成21(2009)年度のカロリーベースの食料自給率が、前年度より1%下がって40%となった。カロリーベースの食料自給率は、平成10年度から8年間連続して40%を保ってきたが、平成18年度に39%に下がってしまった。ところが、その後2年連続して1%ずつ上昇し、前年度は41%になっていた。今回また、40%に下がってしまった理由について、農水省は小麦やテンサイの生産量が不作などで減ったのと、お米の消費量が減ったためだという。


 一方、生産額ベースの食料自給率は、平成21年度は70%と、前年度より一気に5%も上昇した。畜産の飼料として輸入する穀物価格が国際的な相場下落で下がったのと、輸入した魚介類や油脂類の価格が下がって、輸入金額が減ったことが主な要因だという。


 食料自給率とは分母に国内消費量、分子に国内生産量を置いて、百分率にした数値である。食料輸入国である日本の国内消費量は「国内生産量+輸入量」であるから、輸入量が減れば自給率は上がる。また、分子の国内生産量が増えれば自給率が上がる。だから、国民が口にする食料のうち、国内で生産される割合はどのくらいなのか、言葉を替えて言えば、国産食料の充足度はどのくらいなのかを示す数値である。いわば、国内農業の「成績簿」ともいえる。当然、自給率は高い方が望ましいが、毎年の数字に一喜一憂してもしょうがない。今回、カロリーベースで下がり、生産額で上がったのを機会に、食料自給率とは何かを改めて考えてみよう。


 食料は人間が命をつなぐために必要不可欠なカロリー源であり、私たちは食料から健康を保つミネラルとエネルギーを得ている。であるから、食料のカロリーに着目した自給率が意味をもつ。しかし、人間が食べ物から得るカロリーは、農畜産物によって大きく異なる。100g当たりのカロリーは、米だと356kcalだが、野菜だと29kcalしかない。畜産物も意外とカロリーは少なく、肉類で213kcal、牛乳で64kcalしかない。農産物であっても食べ物ではない花卉に至っては、当たり前のことだがゼロである。


 したがって、カロリーベースの自給率を見ただけでは、国内農業の生産活動を正しく把握することはできない。花卉はもちろん、野菜の生産活動が正当に評価されないばかりか、畜産の生産活動も過小評価されてしまう。海外から輸入した穀物飼料で牛、豚、鶏を飼育する「加工畜産」の形態をとっているわが国では、国内生産比率が96%の鶏卵であっても、カロリーベースの自給率はそのわずか1割の10%にとどまってしまう。ちなみに、牛肉や豚肉の国内生産比率は、それぞれ43%、55%だが、カロリーベース自給率は11%、6%に過ぎない。配合飼料の約9割を輸入しているからである。


 国内農業の生産活動を正当に評価するには、生産額ベースの自給率の方がより実態に近い。その数値が21年度の場合70%だった。これが、日本農業のいわば「元気度」をあらわしている。家庭の主婦が抱く疑問のわけは、カロリーベースと生産額ベースの自給率の差にある。よく、主婦はこういう。「スーパーで買い物をする際、なるべく国産を選んで買っているのに、なぜ自給率があんなに低いのか実感がわかない」。その自給率とはカロリーベースのことで、40%である。たとえば、ハムやソーセージに加工される豚肉は輸入物が多いが、テーブルミートと呼ばれる生の肉は、スーパーの店頭にも結構、国産が並んでいる。主婦は国内で飼育、生産された豚肉を買っているつもりなのだが、カロリーベースの自給率を計算するうえでは、豚肉は「6%」とでしかカウントされないのだ。


 食料自給率は、国民の食生活の状況を示す有力な指標のひとつである。であるから、ないがしろにしてはならないが、カロリーベース自給率は、国内農業の生産活動の現状を必ずしも正しくあらわさないなどの制約もあり、「自給率至上主義」に陥ることには疑義がある。国民の食の嗜好にマッチした生産が国内でおこなわれ、結果的に自給率が向上する農政が求められている。(2010年8月12日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。

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