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ぐるり農政【34】

2010年4月19日

「反省」から始まった基本計画

                      村田 泰夫


  3月末に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」の書きぶりが、ちょっとした波紋を広げている。「まえがき」で、これまでの自民党農政を総括し「反省」することから始まっているからである。

 たとえば、こんな書きぶりである。「農業・農村は、総じて農業所得の大幅な減少、担い手不足の深刻化、非効率な農地利用、農山漁村の活力の低下といった厳しい状況に直面しており、これまでの農政がこのような流れを変えることができなかった事実は重く受け止めなければならない」。自民党農政が今日の農業・農村の疲弊をもたらしたと、いわんばかりの書きぶりである。これには、自民党農林族の重鎮であった加藤紘一氏も怒った。「新たな基本計画は、これまでの農政批判に終始している。こんなことは許されない」


 当面の農政の基本方針を示す「食料・農業・農村基本計画」が5年ごとに策定されることになったのは、1999(平成11)年に制定された新しい基本法で義務づけられたからである。前の基本法は1961(昭和36)年に制定され、20年ぐらいたってから見直しの機運が出てきたが、なかなか改訂できなかった。時代を経ればそれだけ既得権益者も出てくるから、基本法を変える合意をとりつけるのが難しくなるのである。結局38年もの間改訂されず、時代にそぐわない農政がまかり通ることになっていた。


 そこで、アメリカの農業法が5、6年ごとに制定されていることにならって、わが国でも5年ごとに基本計画を作りかえる方式が、できたわけである。めまぐるしい時代の変化に対応した農政ができるように、5年ごとに農政の根底部分を見直すのはたいへんいいことだと思う。

 新しい基本法ができて10年。今回の基本計画は3回目となるから、いわば第3期基本計画である。第1期計画には中山間地域等直接支払制度が盛り込まれ、第2期には品目横断的経営安定対策が盛り込まれ、今回の第3期には戸別所得補償制度が基本計画の柱に据えられた。過去の農政を批判し反省するというのは、自民党から民主党に政権が代わったからであって、批判文が入っているかどうかということ自体に目を奪われては、基本計画の全体の方向を見失ってしまう。


 問題は、今後5年間、どういう考え方で農政を運営していくのかである。新しい基本計画は「戸別所得補償制度の導入」「消費者ニーズにかなった生産体制」「6産業化による農山漁村の再生」を3本柱にするという。


 戸別所得補償制度の導入もさることながら、もっと注目されていいのは、6次産業化による地域再生である。たとえば、かつて里山にはえていた雑木林を切って薪や木炭にして、私たち日本人は暮らしてきた。エネルギーを自給してきたのである。その後、便利で安価な石油が輸入され、国内の里山や森林は打ち捨てられ荒廃してしまったが、地球温暖化対策もあって、こうした地域資源がバイオ資源の活用という形で、再び脚光をあびるようになってきた。また、農山村には農業用水路がたくさんあり、小水力発電を開発する余地がある。このように、農山漁村には活用されていない資源がごろごろしているのである。

 一度は見捨てられた地域資源をうまく利活用できれば、地域のにぎわいを取り戻すこともできるのではないか。「田舎は何もない遅れた地域」どころか、「田舎は何でもあり、可能性に満ちた地域」なのである。米や野菜など農産物を生産する「第1次産業」が農業であるというふうに、農業を狭い分野に押し込めてしまう考え方が間違っていたのではないか。


 農業・農村の荒廃は、食材の供給がストップするだけではない。国土が荒れ、美しい農村景観が失われ、自然生態系が崩れてしまうことを意味する。それは、輸入で代替できない「かけがえのない価値」である。お金にかえられない「かけがえのない価値」を創造する農業・農村を、国民みんなで支える仕組みをつくれないか。新しい基本計画が追求する壮大なテーマである。(2010年4月19日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。

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