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2010年3月17日
「6次産業化」って何?
明治大学客員教授 村田 泰夫
農林水産省が「6次産業化促進法案」をまとめた。農林水産業の6次産業化は、戸別所得補償制度の導入と並ぶ民主党農政の柱の一つとして、マニフェスト(政権公約)にも盛り込まれていた。農業界では結構知られている言葉だが、「第6次産業」という概念そのものがないので、「それって何?」と知らない人もいる。
産業分類の方法として、農業や鉱業などを「第1次産業」、工業、建設などの製造業を「第2次産業」、販売や流通、金融などのサービス業を「第3次産業」と呼ぶ。その1次と2次と3次を掛け合わすと6次になる。
農業はこれまで、農畜産物の生産に押し留められ、食材の供給者にすぎなかったが、それを農業生産者みずから加工分野や販売分野に乗り出すことによって、付加価値を取り戻すことができる。そうした農林水産業の総合産業化をあらわす言葉で、東大名誉教授の今村奈良臣さんの造語である。
野菜を野菜として市場に出荷していたのでは、買いたたかれて、あまりもうからない。野菜をその地域独特の方法で漬け込んだ漬物に加工すれば、利益率が上がる。さらに、その漬物を「道の駅」やインターネット販売で、みずから販売すれば、利益率はさらに大きくなる。6次産業化を実践してみて、その意義を実感する農家がふえてきている。
では、数年前から、経済産業省が提唱し、農林水産省といっしょになって政府が推進している「農商工連携」と、どう違うのであろうか。疑問に思う人も出てこよう。
農商工連携は、農業生産者や漁業生産者が、地域の中小零細な食品加工会社や商店などと協力し合って新製品や新サービスを開発し、地域社会を活性化させるのがねらいである。だから、農商工連携は、1次と2次と3次産業の連携であり、まさに6次産業化といいかえてもいい。
経産省がいい出したのが「農商工連携」で、農水省がいいだしたのが「6次産業化」。役所の縄張り争いではないか、という見方もあながち間違いではない。
しかし、そうした皮相的な見方で終わってしまっては発展がない。農商工連携は、農業者と中小企業の両者の連携を前提としているが、6次産業化は、農家や漁家単独の取り組みも支援や助成の対象としている点で異なる。こうした手続き面にとどまらず、この二つの政策は似ているようでいて違うところがある。
6次産業化は、農商工連携にとどまらず、農地や農業用水路などの地域資源をまるごと活用して、地域社会を活性化させようという考え方に立脚している。たとえば、農業用水路を流れる水を活用して小水力発電施設を設置し、そこで発電した電力を電力会社に売って水路の維持管理費に充てる事業も、支援対象とする。さらに、太陽光発電システムを設置し、その電力を直売所で使う事業、温泉熱を利用した温室の暖房システム事業なども支援する。
このように、6次産業化は、中小企業との連携による産業振興策であることにとどまらず、地域資源をまるごと活用することによる、幅広い地域振興策なのである。
この6次産業化が、うまく機能するかどうかは、支援措置次第である。いまのところ低利融資や農地転用手続きの簡素化などが盛り込まれているが、力強さにいまひとつ欠ける。農山漁村が元気になってはじめて社会は健全さを保つことができる。政策の方向性はいいのだが、それを実現する強力な支援策が待たれる。(2010年3月16日)
朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。