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2010年1月14日
がっぽり減らされた農業土木予算
明治大学客員教授 村田 泰夫
農道や農業用水路の建設・修理、水田の大区画化など農業基盤整備に充てられる農業土木予算が、来年度(2010年度)がっぽり減らされることになった。農業だけでなく、林業や水産関係の公共事業費も減らされ、10年度予算案によると、農林水産関係の公共事業費は6563億円と、前年度予算(9952億円)より34.1%も減った。農水省の予算総額に占める公共事業予算の割合も26.8%と、前年度の38.9%より大幅に小さくなった(右下グラフ参照)。
なぜ、農業土木予算が激減したのか。表向きは、「一点突破型で何としても成功させなければならない」と民主党政権が力を入れる、戸別所得補償制度のモデル事業に必要な財源、5618億円をひねり出すためである。
これまでの米の生産調整(減反)に支出していた2000億円余りをモデル事業に回したのは当然だが、それだけでは足りない。そこで、農水省予算の中で「時代遅れ」と指摘されることもある、農業土木予算に切り込んだわけである。
しかし、民主党農政は農業関係の基盤整備事業のすべてを否定したわけではない。農水省の公共事業予算の中でも、特に農業農村整備予算は2129億円と、前年度より3643億円、実に64.1%も減らしたが、一方で「自治体が農山漁村地域のニーズにあった計画をみずから策定し、農業農村、森林、水産各分野における公共事業を自由に選択し、総合的、一体的な整備を支援するため」として、来年度予算案で新たに「農山漁村地域整備交付金」を創設、1500億円を計上した。
この交付金は、国が都道府県に直接交付し、都道府県は、みずからの裁量で市町村に配分することができる。使途は、農地・農業用水などの農業農村基盤の整備など、これまで国(農水省)が主導してきた事業。つまり、今後は地域の特性に応じて、県や市町村などの自治体が、みずから事業計画を策定し、創意工夫を凝らして実施してほしいというメッセージを発信したのである。
公共事業予算を全体として削ったうえ、その執行も国から地方に移したといえば格好がいいが、理由はそれだけではない。民主党による自民党の票田つぶしの一環であるといわれている。
農業土木予算の受け皿である土地改良区の全国団体、全国土地改良事業団体連合会(全土連)の政治団体は、これまで参院選で自民党から公認候補を出していて、今年夏の参院選でも元農水官僚を候補者として擁立、選挙準備を始めようとしていた。民主党の選挙を仕切る小沢一郎幹事長が「自民党を公然と支持する団体」に不快な思いを抱いたとしても不思議ではない。そこで、農業農村整備予算は6割カットということになったといわれている。
鳩山由紀夫首相は、来年度予算の編成に当たって「コンクリートから人へ」をスローガンに掲げた。国土交通省の公共事業費を減らす半面、子ども手当や高校授業料の実質無料化など、個人のふところを潤す政策をとっている。国民の生活が苦しくなってきており、家計を救済することで個人消費が増えて景気対策にもなるという触れ込みである。農政予算の配分においても「コンクリート(農業公共事業)から人(農家所得)へ」の政策が貫かれたといえよう。(2010年1月12日)
朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。