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ぐるり農政 【19】

2009年1月13日

日本版グリーン・ニューディールに期待

     明治大学客員教授 村田 泰夫


 100年に1度の経済危機で、世界経済は青息吐息である。どうしたら経済を立ち直せるか。各国とも懸命だが、いわゆるグリーン・ニューディール政策を日本も掲げるべきではないか。すでに環境省が構想を練っているが、一省庁が取り上げる問題ではない。国を挙げて取り組むべき課題であろう。


 ニューディール政策とは、80年前の1929年の大恐慌の後、当時のルーズベルト米大統領が掲げたことで知られている。ダムなど大型公共事業を実施することで雇用を創出し経済を立て直した。
 グリーン・ニューディール政策は、従来型の公共事業ではなく、電機自動車、風力や太陽光発電などの再生可能エネルギーなど、今後必要とされる分野に巨額の財政資金を集中的に投入しようという考えである。米国の新大統領オバマ氏が、大統領選挙に向けた政策構想の中で、未曽有の経済危機からの脱却と環境対策を両立させる政策として、いわゆる「グリーン・ニューディール」を掲げていた。


 わが国の麻生内閣の当面の課題は、経済危機からの脱却であり、景気浮揚である。来年度予算案の中身をみると、財政出動の兆しは見えるものの従来型の公共事業が目につき、工夫が足りない。
 そうした中で、「環境省が日本版グリーン・ニューディール政策を検討」というニュースが唯一の救いだが、「今年3月末までにまとめる」というから、来年度予算には間に合わない。巷に失業者があふれ、政府の集計でも「今年3月までの半年間に、いわゆる派遣切りなどで職を失う非正規労働者が全国で8万5千人にのぼる」というのに、政府の政策には切迫感がなさすぎる。


 グリーンは環境を意味するのだろうが、農林漁業もグリーンである。しかも、環境と同様に農林漁業は今後、国として力を入れていかなくてはならない戦略部門である。環境省の事業にとどめるのではなく、首相が旗を振る国家プロジェクトにすべきではないか。


 幸い、農林漁業には雇用吸収力がある。農水省は農林水産業全体で5000人規模の雇用を創出する考えを示した。農業で2290人、林業で2300人、漁業で193人。
そのうち農業では、08年度の第2次補正予算で実施する「農の雇用事業」で新たに就農を希望する人に研修費を支給するほか、09年度予算案に盛り込んでいる農商工連携事業などで1290人の雇用創出を見込むという。


 農業生産者が、みずから就農を呼びかける動きも活発だ。日本養豚生産者協議会は、全国の養豚業者十数社が合わせて100人規模の従業員を募ることにした。また、全国の農業法人に呼びかけたところ、109農業法人がすぐにでも379人を雇用したいという回答を寄せた。すでに多くの問い合わせが殺到しているという。


 環境や農林漁業などの「グリーン」分野は、これから伸ばさなくてはならないし、伸びていく分野である。雇用のバッファー(緩衝装置)として、困った時の一時しのぎではなく、腰を据えて取り組んでもらいたいものだ。(09年1月13日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。

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