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2008年7月28日
G8サミットよりローカルサミット
明治大学客員教授 村田 泰夫
7月中旬、北海道帯広市で「とかちローカルサミット」が開かれた。「持続可能な社会をつくる元気ネット」などのNPO法人が主催し、地元の帯広商工会議所青年部が裏方を担った。全国から地域おこしや農業、環境に関心のある市民はもちろん、大学の先生・学生、産業界、中央官庁の若手官僚ら約160人が、手弁当で参加した。
その1週間前、同じ北海道の洞爺湖で開かれたグローバルな主要国首脳会議「G8サミット」の向こうを張って、「ローカル」と銘打ったのはいうまでもない。
とかちローカルサミットのキーワードは「持続可能な地域」であった。そのキーワードのもと、「食」「経済」「まちづくり」「金融」「環境」「教育」の6つのテーマに分かれて、熱心な討論が繰り広げられた。
私が参加した「持続可能な地域と食」をめぐるセッションの一部を紹介しよう。モデレーターは、農水省の若きエース官僚、長野麻子さんがつとめた。
いまの日本は「いのちと農」の循環の輪が壊れている。食料自給率39%という数字がそれを象徴している。低い食料自給率は、他国の食料を奪っているだけでなく、国内の地域資源を十分に使っていないことの表れである。また、地域資源を無駄にしていると、国内の地域社会が維持されなくなり、人と人、人と自然のつながりが壊れていってしまう。
そればかりではない。日本は海外から6000万トンもの食料を輸入して、世界一のフードマイレージを負荷することで、世界の食料危機と地球温暖化を加速してしまっている。
この問題に、グローバルサミットは有効な対応方針を打ち出せたのだろうか。
サミットは第一次オイルショック後の世界不況にどう対処するか、ディスカール・デスタン仏大統領の提唱で1975年に第1回目の会合が開かれた。その後の通貨危機、第二次オイルショック、国際的なテロ、地球環境問題など、この三十数年間それなりに取り組んできた。
いま世界は「第三次オイルショック」といわれている。原油価格と食料価格の高騰で、先進国はインフレの危機に悩まされ、貧しい途上国は飢餓の危機に直面していることから、今回の洞爺湖サミットでは「食料問題」が主要議題のひとつに掲げられた。
しかし、グローバルサミットでは解決の糸口は見つけられなかった。
トウモロコシ、小麦、大豆など穀物相場高騰の要因であるバイオ燃料生産の歯止め策も、原油や穀物市場に流れ込んで実需とかけ離れた高い相場を吊り上げてきた投機マネーの規制策も、米国の反対で打ち出せなかった。
そもそも、今回の世界的な経済的危機の根源は、米国のサブプライムローンの破綻をきっかけとした金融不安にある。こうした世界的な金融危機に有効な対応策を打ち出す場がサミットだったにもかかわらず、今回の洞爺湖サミットでは本格的な議論すらおこなわれなかった。
地球規模で考えて、地域で自分にできることを実行する―この「シンク・グローバリー、アクト・ローカリー」の考え方で、こつこつ積み重ねていくしかない。そこで、私たちローカルサミットに集まった人たちは「持続可能な地域と食」を考えるにあたって、次のようなアクション・プログラムを打ち出した。
●外国頼みとせず食料の国内供給力を高める
●市民と連帯して国内農業を維持する仕組みを創設する
●消費者として日本の農業、食を買い支える
●本物の味がわかる味覚教育、食品の値段の意味を知る教育をする
●市民それぞれが地域の資源を生かし、食と農林水産業のためにできることを実践し、失われたつながりを取り戻すことで、持続可能な社会を構築する
(2008.7.25)
朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。