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ぐるり農政 【9】

2008年3月25日

食料品の海外加工リスク

     明治大学客員教授 村田 泰夫


 中国製冷凍ギョーザの中毒事件は、海外で食料品を加工することの怖さを、私たち日本人に思い知らせた。

 日本のメーカーはなぜ、海外の工場に生産を委託するのだろうか。家電や自動車などの機械組立産業は、輸出先政府の輸入規制に対応するためかもしれない。現地生産化することで自社ブランドの市場を守るのである。


 化学メーカーの中には、日本国内で適用される厳しい環境規制を逃れるためというところもあるかもしれない。厳しい国内規制を逃れて、途上国で生産すれば、企業は公害対策コストを負担せずに「安く」生産できる。企業はまるで公害を日本から輸出しているようなものだから「公害輸出」である。

 では、食品加工メーカーはどうか。日本の冷凍食品メーカーや生活協同組合は、中国の工場に生産を委託する理由について、「生産コストの安さ」を挙げる。焼き鳥の串刺し、フィレ魚の骨抜き、ギョーザの包みなどは、手作業であることの優位性が生きている。


 中国における賃金水準は、日本の10分の1から20分の1といわれる。労賃の安さは、企業にとって何よりも代えがたい魅力である。


 工場を取り巻く経済社会環境が、国の内外で同じなら、労賃の安さだけが際立つ海外、ことに中国で生産することの優位性は確かである。

 ところが経済社会状況は国によって大きく異なる。

 たとえば農薬規制。中国では農薬についての規制がゆるい。現在は規制されていたとしても、最近まで広く使われていて、当局による取締りの効果は期待できない。つまり野放図なのである。


 いくら工場の機械設備を最新鋭のものに更新したり、工場内の衛生状態を日本と同じ水準に保っていたりしたとしても、中国の経済社会状況下で生産している以上、日本の輸入業者は「野放図な農薬管理もいっしょに輸入している」ことをきちんと認識し、それに対応した危機管理を講じておかなければならない。

 「公害輸出」ならぬ「農薬野放図輸入」に対するリスク管理である。労賃の安さだけに目を奪われていたとしたら、消費者の口に入れる食品を扱う食品加工メーカーの経営者として資質を問われる。まして、消費者の利益を守る生協としては、脇が甘すぎる。


 日本の食品加工メーカー、商社、生協にとって、中国にどのようなリスクが潜んでいるのか、全体像をつかむことは容易ではない。その国の経済社会リスクを負えないのであれば、海外に生産を委託することに、もっと慎重であるべきである。


 「それでは価格競争に負ける」というのであれば、次善の策として考えられるのは、ことのよしあしは別にして、日本国内の工場で、安い賃金で働いてくれる外国人労働者を雇うことである。


 「安さ」には理由があるのである。海外進出に当たって、特に食品加工メーカーは肝に銘じておく必要がある。 (2008・3・25)

※文中の画像は、EyesPic様よりお借りしました。

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。

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