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2008年1月29日
食料危機と米の生産調整
明治大学客員教授 村田 泰夫
素人の指摘にハッとすることがある。居酒屋で一杯やっている時だった。米の生産調整の必要性について、私は訳知り顔で説明していた。その時、マスコミで働いている友人に、こう質問された。
「バイオエタノールにするためにトウモロコシなどの穀物が買い占められて、世界中が食料不足だというのに、どうして日本は米の減産に躍起になっているんだい」
19年度からスタートした農政改革の3本柱のうち、「米政策改革推進対策」の狙いは、「様々な需要に即応した生産を行う消費者重視・市場重視の姿を22年度に実現する」ことだった。そのための手段として、米については産地・品種別の販売価格を公表するなど、銘柄米ごとに市場の需給に応じて自由に価格が決まることを容認し、米の生産調整は農協など生産者団体が自主的に取組むことになっていた。
ところが、昨年夏の参院選の結果、農政は大転換を迫られた。一定の生産者米価を保証する「戸別所得補償方式」を掲げた野党・民主党が選挙で大勝したからである。それに対抗するため、与党・自民党は政府に対し米価下落対策を強く働きかけた。
これを受けた農水省は昨秋、政府備蓄米の買い上げの上積みに踏み切った。それまで下げ基調だった19年産米の相場は下げ止まり、結果的に生産者米価の下支え役を果たした。
さらに農水省は、20年産の米の生産調整の目標達成に「全力をあげる」ことにした。「米価下落の原因は生産調整を守らない一部農業者による過剰作付けにあり、生産調整を徹底させるには行政の介入が不可欠だ」という農協の主張を受け入れた形だ。要するに、政府は20年産から米の生産調整の目標達成へ締め付けを強化する。
農政に素人の友人によれば、国産米を減産して生産者米価の下支えに躍起になる農政に違和感を抱くという。世界の穀物需要は逼迫している。このままでは、8億人を超える飢餓線上にいる貧しい国の人たちがさらに数億人増えると国連は警告している。それなのに日本は、なぜ政府みずから生産調整の旗を振るのかというのである。耕作放棄地が増えていることも「世界の流れに日本だけ逆行」と映るらしい。
「自給率の低い大豆や小麦への転作を促す政策に、政府はきちんと取り組んでいる」と説明するのだが、友人は納得しない。「君の説では、米を作るなというふうに聞こえる。いまの世界の食料事情からすれば、日本はできるだけ米を作るべきだ。余った米は海外に輸出するなり、バイオエネルギーの生産原料にすればいいじゃないか」。友人はこういって一歩も引かないのである。
いまの米政策は、食用米の「減産」色が濃い。飼料用やバイオ燃料用といった非食用米の「増産」をもっと強調する政策にすると、同じ生産調整政策でも国民に与える印象は変わる。(2008・1・28)
朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。