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2007年12月27日
農業予算のバラマキ批判は正しいか
明治大学客員教授 村田 泰夫
新年度予算の政府案が決まった。
小泉政権時代から始まった「構造改革」路線を踏襲しているとはいえ、地域再生プロジェクトに手厚い予算がつけられるなど、これまでになく地方配慮型となった。一部のマスコミは「改革路線の後退だ」と厳しく批判する。
地域経済に元気がないのは、地域みずからの努力が足りないからだ。頑張った地域や自治体が報われるのならともかく、自助努力もしない地域に一律に助成策を講じるのは改革に逆行する。バラマキで地方は再生しない。--というのが、経済紙などに載る識者の見解である。そういう識者には市場原理至上主義者が多い。
地方や農業向け予算といえば、すぐ「バラマキ」に結びつける議論は乱暴すぎやしないか。
立派すぎる音楽ホールやスポーツセンター。地方に行くと、あまり利用されていない公共施設を見て、「予算の無駄遣いではないか」と私自身思うことはある。
また、来年度予算の目玉である「地域再生戦略」でも、目を凝らすとおかしな項目が見えてくる。「地方の元気再生事業」とセットで、従来型の国主導による補助事業がちゃっかり盛り込まれているのだ。「経済改革」の下でばっさり削減される対象だったはずが、「地域再生」という冠をつけることでよみがえらせた便乗予算だ。
こうした、いろいろな問題があることを認めた上での話だが、地方に配分する予算、とりわけ農業予算の果たしている役割について、国民にもっと認識を新たにしてもらいたいことがある。
なにをもってバラマキというのだろうか。
「効果のはっきりしない少額の予算を、みさかいもなく多くの人に与えること」であろう。民主党の戸別所得補償方式を経済紙はバラマキと批判しているから、すべての農家に一定の米価を保証しコストとの差額を支給する政策なんか、バラマキの典型に映るのだろう。
しかし、米国も欧州諸国も、農家の所得を支える「直接支払制度」を農政の基本に据えている。山間地など生産条件の悪い地域での営農や、環境を保全する農法の採用を条件に所得補填する仕組みである。
見方によってはバラマキといえなくもないが、その狙いは、その地で農業を続けてもらうことである。
そこでしか生産できない個性的な食料の供給だけでなく、国土の保全、景観の維持、さらには伝統的な文化を守っているのは、辺境の地で農業を営む農民たちである。そうした農業を国民みんなで守ろうという国民的合意が欧米にはある。
それが日本にはない。産業界は、地方や農業をお上に頼る甘ったれと見て、地方が疲弊している現実から目をそらす。一方の農業界は、「自由化で産業界の犠牲になっている」と財界批判を繰り返し、政府に保護を求める。
国論が二分されているわが国の現状は残念だし、悲しく思う。(2007・12・25)
朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。