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2007年11月21日
食品の偽装表示と健康被害
明治大学客員教授 村田 泰夫
食品の偽装表示をめぐる事件があとを絶たない。北海道みやげのいわば定番といわれていた菓子の「白い恋人」や、3百年の歴史を誇る伊勢の名物「赤福」が、消費・賞味期限をごまかしていた。「へー、あの有名な老舗が」と驚き、あきれた。
それらの不祥事を上回る事件がおきて、あいた口がふさがらない。有名料亭「吉兆」のグループ会社である「船場吉兆」(本社・大阪市)の一連の不正である。
「黒豆プリン」の消費期限の張替えが明らかになったとき、「なぜ吉兆がプリンなのか」と私は思ったぐらいだった。その後、牛肉や鶏肉の味噌漬けの原材料を「但馬牛」や「地鶏」であることを売りにしていながら、実は別の産地のものを使っていた。これは、消費者に対する背信行為である。
さらに、消費期限などのラベルの張替えを、「現場のパートが勝手にやった」と社長みずから責任をパートに押し付けようとした疑いが出てきたことである。商業道徳にもとる行為といわざるを得ない。
日を追うごとに、怒りは高まるばかりだが、冷静になって考えてみると、興味深い事実が明らかになる。
これらの食の安全をめぐる事件で、「おなかをこわした」とか「健康被害を受けて入院した」とかいう話を聞かないのに、なぜ、事件を起こしたメーカーは強い非難を浴び、経営の存亡にかかわる危機に立たされているかである。
報道によると、最近になって消費・賞味期限のラベルを張替えたり、肉の産地をごまかしたりしていたわけではない。「数十年前からやっていた慣行」という事例もあるらしい。本当に、何十年もの間、健康被害が発生していなかったとすれば、ほっとする話である。
私たちはふだん、冷蔵庫の中に残った豆腐や牛乳、タマゴなどを取り出し、消費・賞味期限がとっくに過ぎていても、臭いをかぎ、色が変わっていなければ「大丈夫」と、ひとり合点して、食べてしまう。
それで、おなかをこわしたことはない。コンビニエンスストアで消費期限が1時間でも過ぎた弁当などの食品を廃棄処分にしてしまう。そんな話を聞くと、私たちは「もったいない」と思う。
食べるものがなく、おなかをすかせていた時代には、農薬がかかっていようが鮮度が落ちていようが、口にいれてしまっていた。安全であるか吟味することより、いまの飢えをしのぐことの方が優先されるからである。
その後、生活水準の向上とともに、「せめておなかをこわさない安全な食べ物」を人々は求めるようになった。
いまや、消費者の「安心」を求める水準は多様化・高度化している。どんな添加物を使っているのか、遺伝子組換え食品なのかなど、消費者は臭いや色で確認できない。どうしても、表示に頼らざるを得ない。
その表示がごまかしであったことを知った消費者は怒り心頭に達し、二度とその商品を手にしなくなるのである。(2007・11・19)
朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。