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2007年10月12日
下げ基調強める19年産の米価
明治大学客員教授 村田 泰夫
新米の出回る時期が来たが、米農家の気分は晴れない。米の販売価格が下げ基調を強めているからだ。
原因は一言でいえば「供給過剰」である。しかし、今年産米の値段がぐんと下がった要因のひとつに、全農による仮渡金制度の改定がある。「農協が米価下落を加速させた」と、米農家は不満をもらす。
10月10日に実施されたコメ価格センターの入札では、上場された銘柄米が軒並み下落し、加重平均では前年同期より8%安い水準になった。
それ先立ち、「全農にいがた」では、新潟産のコシヒカリ(一般)の卸への相対販売価格を、1俵(60キロ)当たり1万6000円程度とすることにした。これは前年度産の1万7800円より金額で1800円、率にして10%引き下げたことになる。
「新潟一般コシヒカリ」は、全国有数のブランド米であるだけでなく、米相場を左右する指標役を担ってきた日本を代表するお米である。その銘柄米の価格引下げは、他のお米の値段にも影響するのは必至。
「全農にいがた」はなぜ値下げに踏み切ったのか。消費者の低価格志向に合わせて、宮城県産や秋田県産など他産地の安いお米が出回るようになって、相対的に高い新潟コシヒカリの売れ行きがおもわしくなくなってきた。前年度産米が売れ残ってしまうような現状を改善し、今年度産米では全量販売をめざすことにしたもの。
すでに、首都圏のスーパーマーケットでは、5キロ詰め「新潟コシヒカリ」の新米が1980円で売られている事例もある。前の年より500円ほど安いという。
こうした米価下落を加速させた一因に、全農が8月に打ち出した「仮渡金」制度の見直しがあるといわれている。
仮渡金とは、農協に販売委託した米農家に対し、農協が支払う概算金のこと。集荷したお米の見込み販売価格の8-9割の水準で決めてきたが、ここ数年、米価下落のスピードが速く、仮渡金が最終的な販売価格を上回る事態(過払い)が発生することもある。農家から返金してもらえばいいのだが、農家の抵抗もあって実際には農協が手数料をおまけして精算せざるを得ない例がある。
過払いをなくすため、全農は今年度産米から「内金+追加払い」方式に改めることにした。従来と仕組みはそう変らないのだが、内金の基本額を「1俵=7000円」と発表したものだから騒ぎが大きくなった。
実際の内金は、傘下の全農県本部や経済農協連に任せることにし、新潟、秋田、福島などの米どころでは「1俵=1万円」のところが多い。それでも、前年度方式と比べると5000円から2000円下回っている県が目立つ。
農協は「価格下落を加速させたのではなく実態に追随しただけ。生産調整に参加しない農家がいて生産過剰になっていることや、消費者の米離れが根本原因」と説明する。
1万円では生産コストをまかなえない農家も少なくない。ツケで買っている農薬や資材代を払えなくなるなど、農家の資金繰りが苦しくなるのは必至だ。
そんな米農家の不安に乗じて、米問屋の中には農協の決めた内金より高い金額を提示して米集めに走るところが出てくると想像される。これまで農協は、その高い集荷率を武器に米市場で圧倒的な価格支配力を保持してきた。
米価下落を加速させるだけでなく、農協の存在感を弱めることにならないか。今回の仮渡金制度の見直しは農協の転機をもたらす出来事となるように思えてならない。
(2007・10・11)
朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。