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ぐるり農政 【2】

2007年9月12日

食料自給率39%のインパクト

     明治大学客員教授 村田 泰夫


 2006年度の食料自給率が、カロリーベースで39%と前年度より1%下がった。1998年度から8年連続でかろうじて守ってきた40%の大台割れは、農水省に大きな衝撃を与えた。たかが1%だが、40%を割ったインパクトが大きいのは、これで「2015年に自給率45%」という公約がほぼ絶望的になったからである。


 新しい農業基本法制定後、最初につくった2000年の基本計画で、農水省は「2010年に45%」という自給率向上目標を策定したが、40%で足踏みが続いたので、5年後につくった第2期基本計画では目標達成を5年先送りしてきた。「ベクトル(方向)が逆さを向いていては、達成は無理」という挫折感が農水省をおおっているのである。


 06年度の自給率が下がった原因について、農水省は、北海道の甜菜が日照不足で減産したこと、米の作況指数が96と「やや不良」だったこと、ミカンが不作の年に当たっていたことなどを挙げているが、それらは根本的な問題ではない。

 「自給率40%割れ」を契機に、政府は農政の抜本的な見直しに取り組むべきではないか。つまり、「弱い国内農業を守るために高い関税で障壁を設け、主要穀物である米については価格維持のため生産調整をする」という途上国型・一国主義的な農政からの決別である。


 国内農業の保護策が国境措置(関税)だと、関税の引き下げで価格競争力を失った国内農業は壊滅的な打撃を受ける。わが国の国内農業が衰退してきたのは、なし崩し的に「自由化」してきたことと無関係ではない。世界第二の経済大国であるわが国は、相手国に対し工業製品のみ市場開放を求め、農産物の市場開放を拒否し続けることはできなかった。


 現在残っている高関税品目は、米、乳製品、牛肉など畜産物、こんにゃくなど一部のコアな品目に限られている。これらの品目が、FTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)交渉で常に問題になる。

 高関税を守り切れる時代だったらまだしも、それが許されないのなら、関税は下げるが、それで国内農業が立ち行かなくならないように、農業者の経営を下支えする政策に、きっぱり転じるべきではないか。すでに、農水省は今年度からスタートした「経営所得安定対策」でその方向へ農政転換した。しかし、対象品目が麦、大豆、甜菜、でんぷん原料用バレイショという北海道の大規模畑作営農者に事実上限られていて、中途半端である。わが国農業の基幹作物である米も対象とすべきであろう。


 米の関税を下げ、その下げ幅に見合う直接所得補償をすると、高関税で海外市場と隔絶した一国市場主義を前提とする生産調整(減反)は成り立たなくなる。生産調整をやめて過剰になった米は、海外に輸出したり、飼料米など食用以外の需要先を開拓したりする努力が求められる。そうした努力が実って、減反せずに国内の水田が有効に活用されるようになれば、自給率は格段に上昇する。


 自給率が下がった要因の3分の2が、日本人の「食生活の欧風化」である。要するに「米離れ」である。日本食への回帰の勧めや、魚食文化の推奨は健康にもいいので大賛成だが、荒れ放題で遊休化している農地という地域資源の活用が根本的な自給率向上対策であるべきだと思う。(2007・09・08)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。

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