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農業でうまくいく人いかない人【4】

2020年7月 3日

「目的に合った人の採用」を  

農業生産法人グリンリーフ(株)、(株)野菜くらぶ 代表取締役 澤浦彰治   


農業の人手不足は平成に入った頃から
 生産労働人口が減り、一般企業でも、人の雇用がなかなかできない世の中になってきた。学生は売り手市場になり、以前の就職氷河期とはまったく違った状況になってきた。しかし、人手不足と言われながら、一方で50歳代の人たちを大量解雇する企業なども、時々ニュースになる。こうした中、農業界は高度経済成長期から一貫して農業人口が減り、平成に入る頃からいち早く「人手不足」に陥っていたといえる。

 さらに農業だけでなく一般企業でも採用難に加え、業務とのミスマッチによる入社後早期の退社やトラブル、本来就業前に必要なスキル習得までもが就業に当たるという、間違った働き方改革の考え方による生産性の低下も増えてきた。与えられることが当たり前に育ってきた人たちには、自分で考えて失敗しながら学ぶことがストレスだと感じられるのだろうか。失敗しないことを教える教育の弊害もあるかもしれない。また、企業の教育システムがそのような人たちに対応できていないとも言える。


sawaura4_1.jpgほしい人材を明確にして採用する時代
 もう一つ、雇用について大きな変化があった。2019年4月に「特定技能」という枠ができ施行されたのだ。今までは、たとえ作業をしたとしても、「実習」という建前で労働ではないと位置づけられていたが、この法律によってはじめて「労働」が認められた。
 この法律の施行には賛否両論あるが、ひとつ言えるのは、外国人労働に頼っていない先進国の農業現場はないということだ。米国はメキシコ人、ドイツやフランスは東欧の国の人たち、オーストラリアやニュージーランドは周辺諸国の人たち、韓国、イスラエルは東南アジアの人たちである。中国でも、先日上海に行ってきたところ、上海の人口2500万人のうち1000万人が「外地の人」とのことだった。それら農村戸籍の労働者によって、上海の経済は支えられている。


 日本では、新たな入管法で外国人が労働者として入国を認められるようになり、遅まきながらとても良かったと思っている。これからは、自社の農業経営の中でどのような人財が必要なのかを明確にして、それに合った外国人を採用する時代になるだろう。日本人の採用でも同じことが言える。なんとなく良さそうな人や、やる気のある人を採用して教育していくという時代ではなくなってきた。良さそうな人にも裏面があるし、やる気は環境によって左右されるので、持続できる人はあまりいない。それよりも、その人の背景やそれまでの実績などが重視される時代になったと思っている。


sawaura4_2.jpg他産業同様に農業も分業化し人を採用すべき
 家族経営農家である場合、資本家=経営主=管理監督者=技術者=作業者という役割を一人ですべてこなすマルチ人間でなければ、経営は成立しなかった。しかし、それでは生産の限界があるし、数少ない人しか生活が成り立たない。また、たとえその人にすばらしい技術があったとしても、ケガなどで農作業ができなくなると、農業経営もできないことになってしまう。そこで、他産業と同じように分業化とともに階層化すれば、一人一人がすべての能力を持たなくても、それぞれの長所を活かして経営が成り立つことになり、それが本当の意味での法人化だと言える。

 自社で採用しようとする人は「作業者」なのか、「技術者」なのか、「管理・監督者」なのか、それとも将来の「経営幹部」なのかを明確にして、それぞれに求められる能力やスキル、経験や人間性、コミュニケーションスキルを重視するようになったのだ。


採用スタイルを元に戻し生産性と業績が回復
 私たちの会社では、設立当初、通期採用で必要な能力を持った人がいれば採用するというスタイルだったが、一時期、新卒に絞って採用をした。中小企業家同友会の中で学び、「新卒を定期採用して自社で育てていく」という他社の真似をして取り組んだのだ。しかし、それでは求める能力を持った人材は集まらず、ミスマッチによる退社や、「この会社は若い人が育たない」という雰囲気が社内で醸成されただけでなく、生産性の低下を起こすことになった。約5年前に方針を改め、新卒も中途も社内登用も年齢、国籍、性別に関係なく採用するように変えた。当初のスタイルに戻したのだ。
 その第一歩が、外国人社員の登用と外国人材の採用だった。これにより、嘘のように生産技術の向上がはかられ、生産性が回復し業績が元に戻ったのだ。そして日本人も、仕事に適した人を採用することができるようになった。


子育て中の女性や高齢者も採用
sawaura4_3.jpg 次に行ったのが作業者の採用で、その第一歩が子育て中の女性の働く場をつくることだった。農業や食品製造は、機械化が進んだとしても手作業に頼るところが多い。そういった中で、子育て世代の人たちの力はとても大きく、その人たちが働きやすい環境作りをしたのだ。

 具体的には託児所の建設であり、働き方を明確にして、子供の健康状態による当日欠勤をOKにした。現場の混乱はあったが、結果として女性たちが協力して仕事をしてくれる環境になり、派遣社員10名をすべて直接雇用することができた。また、将来はその女性の中から管理職になれる道を開いた。現在作業を中心としている子育て中の女性が、子育てから手が離れると同時に総合職や一般職として社員登用が可能となる道を明確にしたのだ。
 さらに、定年後の高齢者雇用や他社を定年退職した人の採用も進めた。仕事を辞めるのはその人が「もう体力が・・・」と申し出る時で、会社から年齢を理由に退社を迫ることはしないようにした(今まで慣例的にそうしていたことを明確化した)。そして、外国人実習生の採用も積極的に行い、外国人の人たちが働きやすい環境作りをしてきた。

 他業界がやっている新卒の一括採用にならって一時期、採用人事を失敗した経験から、してもらいたい仕事を明確にすることで的確な求人ができるようになり、求めるスキルがあるかどうかで採用を判断することで会社の生産性が高まると、最近、痛切に感じている。

さわうら しょうじ

群馬県利根郡昭和村で農家の長男として生まれる。群馬県畜産試験場研修課程を終了後に就農。「野菜くらぶ」、グリンリーフ(有)設立に携わる。第47回農林水産祭において天皇杯を受賞。農業生産法人グリンリーフ(株)代表取締役、(株)野菜くらぶ代表取締役。(株)サングレイス代表取締役会長。

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