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農業でうまくいく人いかない人【3】

2020年6月 3日

私が考える「農業の働き方改革」とは  

農業生産法人グリンリーフ(株)、(株)野菜くらぶ 代表取締役 澤浦彰治   


「人時生産額」の考え方とは
 農業は労働基準法の適用外になっていることから、残業時間の制限も割増賃金の発生もない。しかし、その条件の通り経営をしていたら、働く人は農業という仕事やその会社からは去って行くだろう。今や、季節や天候に左右される農業でも、他産業並みにしようとしている農業経営者は多くいる。

 私たちの会社でも残業時間を減らすように、さまざまな努力をしている。しかし、単に残業を減らして作業量が減ることで、収入も減ってしまっては何の役にも立たないし、経営は成り立たない。そういった中で今、わが社で重要視しているのは『人時生産額』である。『人時生産額』とは限界利益(売り上げから変動費を除いた額)を総投下労働時間で割った金額で、一時間あたりいくら稼いだか? という指標である。

 改善の効果が出るのに時間がかかる農場部門の人時生産額はまだ低い状態であるが、日々の改善効果が早く出る加工部門は、取り組み始めてからその効果が出て、4,400円を超える月も出てきた。これは小売業と同じくらいの生産額になる。目標は工業平均と同じ5,400円にしている。これは、計算上農業で実現可能な数字で、人手のかかる労働集約型農業でも小売業の数字は達成可能である。


生産性を上げる目安が人時生産額
sawaura3_1.jpg 人時生産額の平均は日本の工業で5,400円、黒字小売業で私が知っている会社で3,800円や4,800円というところもあり、小売りで4,800円という金額は高い数字だと聞いた。労働集約型産業は人時生産額が低く、設備産業は高くなっている。そういった意味では労働集約型の農業は低く、畜産やハウス園芸などの施設型農業は高くなる。

 今と同じ人時生産額のまま時間を短縮してしまったら、単純に売り上げは下がり、社員の所得も下がってしまう。所得を下げず時間短縮をして行くには、今と同じ量の仕事を短い時間でこなすようにしなければならない。つまり、生産性を上げなければならないのだ。その時に重要になる目安が人時生産額だと言える。私たちのところでは、この人時生産額を重要評価指数(KPI)として管理して時間短縮をしている。


生産性を上げるには
 では、この生産性を上げるために、どのようなことをしたら良いだろうか。
 1つ目は機械化、システム化である。人手で行わなくて良い作業は、機械やシステムに置き換えていく。そうすることで人がやらなくて良い仕事が発生し、人がやるにしても1時間あたりの生産量は増え、人時生産性は高まるのだ。また、機械のスピードに人が合わせるので、誰でも標準的な時間で作業が進むようになる。2つ目は人の能力アップである。作業面では動作経済4原則(※)を徹底するだけでも相当な改善になり、また、作業員が熟練化することで生産性は向上する。そのほかにも、良い作物を生産するための技術や能力を高め、良い野菜を栽培することで生産性は高くなる。3つ目はやる気(モチベーション)のアップと維持である。実はこれが一番難しいし、これに成功すれば生産性はとても高くなっていく。


sawaura3_2.jpg たとえばこんなことはないだろうか。経営者が現場で一緒に作業している時には仕事がはかどるが、経営者が現場にいなくなった時に生産性が落ちてしまうということだ。働く人のモチベーションの要因は人によって異なるが、共通して言えることは、正しい評価をしてあげることで維持できるということだ。経営者が現場にいるときには、常に経営者がすべてを見ている。だから正しい評価ができるので、働く人は頑張れるのだ。しかし、経営者や責任者が現場からいなくなると評価をされなくなるので、モチベーションと一緒に作業性も下がってくる。


やらされている感から自主管理へ
 25年前に初めてアメリカの農業視察に行ったときに目にしたのは、白人がメキシカンを管理している姿だった。その時のメキシカンは「働かされている」というやらされ感がにじみ出ていて、管理者の仕事はさぼらないように監視することだった。しかし、ここ数年、アメリカの農業視察に出かけて目にする風景は全く違った。メキシカンが生き生きとして楽しそうに働いていた。管理の仕方が変わったのだ。聞けば、チームで成績が良ければ割増賃金を払うようになり、メキシカンが自発的に作業のやり方や進め方を工夫して生産性を高めていた。以前のような白人が管理するというスタイルではなく、自主管理ができるようになっていたのだ。

 管理者が居るか居ないかに関係なく、いつも同じように作業する人もいるが、そうでない人がいた場合、全体に波及して、生産性は落ちてしまうのだ。つまり、経営者や管理者が現場にいてもいなくても、主体的に働ける仕組みを作り上げることが大切である。昨年から独自でその仕組みを開発してきたが、その結果、農場の生産性は約1.5倍になり、月によっては経常利益率を20%まで上げることができた。


技術や能力は自分の時間を使って磨く
sawaura3_3.jpg もう一つ、農業における働き方を考える上でとても重要なのが、「仕事をする時間は結果を出す時間」と定義づけることである。裏を返せば、農業を行うための基本的なスキルや能力は、自分の時間を使って身につけるということである。会社は学ぶ機会を与え応援はできるが、技術や能力は自発的に自らの時間で身につけていく。本来であれば、そのようなことは学校で学ぶべきことである。海外では就職をする人はすべて即戦力であり、入社してから会社のお金と時間で勉強する人は、そもそも採用されない。私は戦前の日本もそうであったと考えている。戦後の高度経済成長の時に「金の卵」と言われる15歳くらいの未成年が会社に入ったときに、全人格的な教育を会社で行ったのが日本のシステムとして今まで残ってきたが、多くの人が高校・大学まで進学する現在と働き方改革とともに、それは崩れたと思うのは私だけだろうか。
 そう考えたときに、即戦力を育てるという意味で、農業法人が大学や専門学校、農業高校と連携してデュアルシステムを展開していくことはとても重要であると考えるし、学校教育も変わっていくことが求められている。


 動作経済4原則
動作単位の視点で改善を検討する時に参考になる基本動作。1)両手を同時に使う、2)動作の数を減らす、3)距離を短くする、4)動作を楽にする。


さわうら しょうじ

群馬県利根郡昭和村で農家の長男として生まれる。群馬県畜産試験場研修課程を終了後に就農。「野菜くらぶ」、グリンリーフ(有)設立に携わる。第47回農林水産祭において天皇杯を受賞。農業生産法人グリンリーフ(株)代表取締役、(株)野菜くらぶ代表取締役。(株)サングレイス代表取締役会長。

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