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2020年4月 1日
農作業にも簿記は必須能力
最近、仕事のできる人とそうでない人の差に、「簿記」の知識の有無が関わっていると感じる場面が多くある。経理や幹部で管理に関わっている人であれば数値管理や簿記(管理会計)の知識があることは当然だが、実際に農場で作業をしている人でも、簿記の知識がある人とない人では作業の結果が違う。先日、これをあるコンサルタントに話したところ、「『数』という字は物事の因果、成り行きという意味がある。数学は因果を見つけ、物事の本質を見極める学問である」と教えられた。その話を聞いて、農業そのもののことだと思った。もちろん、農業技術の習得は必要だが、その技術も簿記の知識があって活かされるもので、厳しく言えば、簿記の知識のない農業技術はムダが多いと痛感している。
私たちの農場にW君という25歳の青年がいる。入社5年目の好青年だ。彼は高校時代から農業をめざし、普通高校を卒業してから群馬県にある私立の中央農業大学校を卒業し、わが社へ入社した。寡黙だが温和な雰囲気を持ち、誠実な姿は誰からも好かれ、仕事でも高い評価を受けている。彼の仕事は主に播種や管理作業である。有機小松菜や有機ほうれん草、有機青梗菜などの播種を行なうのだが、彼の仕事は常に畝がまっすぐで、まるでGPSが搭載されているのでは・・・と思うほどである。それだけでなく、時間や計画に対しての進捗もしっかりしていて歩留りも高く、動きやする事にムダがないのだ。将来の幹部候補である。ちょうど数字に強い人が仕事でも良い結果を出していて、そうでない人との開きが出ている状況を感じていたので、もしやと思い彼にたずねた。
「W君、簿記勉強したことある?」
すると、中央農業大学校在学時に日商簿記2級を取得していたと答えが返ってきた。同校から入社した後輩社員も良い仕事をしていたので合点がいった。
ある時、彼が卒業した学校の理事長に、なぜ農業の専門学校なのに日商簿記2級を取得させているのか? と聞いたことがあった。
理事長からは、「すべての仕事は簿記につながり、他産業では簿記ができる人財が良い仕事をしているという実績がある。農業もビジネスであり他産業と同じと考え、簿記を必須にしている」と返事が返ってきた。この中央農業大学校は開校して10年未満だが、農業以外の経理や美容、ビジネス、デザイン、医療歯科などの多くの専門学校を経営していて、簿記を大切にした教育方法を農業にも取り入れ、それが成果を出し始めている。
逆に最近危惧していることもある。私たちが農業高校に通っていた時には、授業に「農業経営」という科目があり、農業科のすべての生徒が簿記を学んだ。私は簿記が好きで、真剣に農業簿記を学んだ事を覚えている。私だけでなく私たちの年代の農業者は、家族経営でも少なからず簿記は知っていて、読める人が多いのはこの経験があったからだと思っている。しかし昨年、農業高校では現在、農業科の全生徒が農業簿記を学んではいないという話を聞いた。農業簿記を学んでいるのは、20%位の生徒だというのだ。なぜ、と不思議でならなかった。農業の基本的な技術は教えているが、それだけでは農業経営はできないし、農業法人の社員としても、簿記を知らなければ、今後は能力不足と判断される可能性がある。農業人材を育てるためにも農業高校で簿記を必修科目にすることが必要で、そうなることを願っている。
農業は経営である。農業経営者に簿記の知識は必須だが、社員であっても簿記を知るのと知らないとでは仕事の結果が違ってくるし、仕事の把握やスピードも違うのだ。数字からやるべき事、問題点や課題を抽出して、それに対する行動計画を立てることは必須である。漠然と農作業をして、その結果を感覚で良い悪いと言っているだけでは意味がないのだ。わが社でも簿記ができる人とできない人の結果がまったく違う事が分かり、現在幹部で管理会計の勉強をしている。現場で日々使えるKPI(重要評価指数)を導き出して管理をするようにして、結果も出ている。
仕事のできる人は、日々の仕事の進捗や出来高を数値で管理している。その数値がどのような行動から導き出されているかをしっかり把握して、その行動や作業のやり方を全員で共有するように教育し、常に改善をしてKPIによって成果を測っている。だから、作業員にも数字の意味が分かりやすく、やり方を考えて作業を改善して行く。その結果として業績が上がるのだ。しかしながら業績がなかなか上がらないところは、数字と行動や作業が結び付いていない。常に感覚と過去の体験が頼りなので、その結果がまぐれで良くても「みんなが頑張ったから」という抽象的な評価しかできない。これでは悪い時の結果も「頑張ったけど天気が・・・」という外部要因によるいいわけだけで、自ら改善できる真因にはまったく到達できない。真因が分からないから、その改善策も具体的に提示できないし、当然行動にも現れない。まぐれで良い結果は出せても、恒常的に良い結果を出し続けることは不可能である。
現場改善も、会計に結び付いて初めて業績向上になる。逆に言うと、管理会計に結び付いていない現場改善は右のものを左に置き換え、時間が経ったらその逆をしてこれを繰り返すようなもので、何の成果も生まないマスターベーションになることもある。良い結果や数字を出すためにはどうしていくのか。数字から考えた農業の数値計画をたて、それを実行するための行動計画をつくり、今までとまったく違うやり方に変えていかないと、農業が他産業以上の生産性を上げる事はできない。農業にも経営者や幹部だけでなく現場社員、作業員まで数値管理能力が求められる時代になってきたと感じている。
群馬県利根郡昭和村で農家の長男として生まれる。群馬県畜産試験場研修課程を終了後に就農。「野菜くらぶ」、グリンリーフ(有)設立に携わる。第47回農林水産祭において天皇杯を受賞。農業生産法人グリンリーフ(株)代表取締役、(株)野菜くらぶ代表取締役。(株)サングレイス代表取締役会長。