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ときとき普及【37】

2021年7月28日

農村の風景(その2)


やまがた農業支援センター 阿部 清   


 先日、ある市の国土利用の会議に出席した。担当者からは、「少し前まで、諸計画は右肩上がりだったが、人口減少が著しく、計画策定のモチベーションが上がらない」という説明があった。人口減少はいまに始まったことではなく、かなり前から分かっていたことだ。

column_abe37_01.jpg 私の住む集落も、10年スパンで見ると戸数の減少が著しい。高齢世帯の病気、住宅の改築やリフォームが契機になっているが、子の就職などの理由もある。概して、健康面での課題が最初にあり、次に経済面と続く。農業の担い手も然りで、すでにかなりの比率で、集落外の担い手が耕作するようになっている。

 人口減少をマイナスの側面から考えるのは当たり前。事例は少ないだろうが、プラス面の要素を積極的に考えたらどうだろうか。こんな思いを抱きながら、自分なりに考えを巡らせた。


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 集落営農が華やかだった20年前。農業経営の法人化を計画していた農業者からの、「集落の合意形成を待っていては経営がもたない。そうでなくとも、農業情勢は刻々と変化している。少なく見て10年、もしくはそれ以上待ち続けることはできない。その頃にはリタイヤする年代になっている」という問いかけに、「集落の合意にこだわることはない。合意のない道もある。集落へのサービス提供という形、また、経営成果でアピールすることは可能だと思う。"合意のない集落営農"とでも呼んだらどうか」と返したことがあった。


 補助・支援の制度は合意形成を前提としていて、合意のない集落営農は難しい時代だった。知り合いの農業者は、集落のしがらみが薄い、園芸部門の法人化を選択していた。
 「水田の基盤整備でさえ、地域で営農を担っている5、6人の方向性が一致すれば、その地域全体の合意形成が済んだものと考えられる。実質的な担い手はそれだけ減少していて、農地の担い手(耕作者)の意見に従わざるを得ないのだ」とは、ある農業者の話である。
 基盤整備は最短でも十数年先のことで、ほぼ次世代の取り組みという側面があるものの、行政の支援の水準がかつてないほど高いことから、合意形成がスムーズに進む事例が多くなっているという。これは、人口減少、農業の担い手減少のプラスの側面が影響しているのだと思う。もちろん、一方から見た場合で、農業・農村の多くの仕組みは、担い手視点に変わっていないという悩みがある。


column_abe37_2.jpg 農業が縮小するときの楽しさを以前コラムに書いた。これも縮小の効果であるが、農業経営では、拡大を考える農業者がほとんどで、経済情勢の変化で縮小を選択した時、農業者は敗北感を味わうのかもしれない。東北の農村地帯では、水田の大小が豊かさの目安になっていたからでもある。


 今年度産の米の価格が不透明だという声を聞くことが多くなった。このことで、農地の賃借を解消する農業者が増加するかもしれない。水田は借り手市場になっているため、経営戦略上、不採算農地を解約する農業者が増加するのは至極当然のことだが、農地中間管理事業からすれば、いよいよ恐れていた事態になるのではとの不安が募っている。
 農業経営もまた、拡大・縮小を繰り返しながら維持されるのが普通だが、そのための心の準備ができないでいる。これからは「地域農業の縮小」は、「地域農業の集約」と言い換えなければならないかもしれない。


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 さて、多くの関係者が、人口減少する地域農業の行く末を形にできないでいる。人口減少や担い手減少そのものをイメージすることはできるが、状況や将来を受け入れることはできないのではないか。
 法律を含め多くの諸制度が、人口減少に適合したものではないという理由もある。人口が集中する都会と過疎に悩む田舎をゼロサムゲームのように考える議論には、ため息が出る。右肩下がりの状況では、仕方のない側面もあるが・・・。

column_abe37_3.jpg 普及員は、現状や背景を考慮し、効果的な手法や方法を提案してきた。もちろん、視点は農業者や地域にあった。今になって思えば、これは"普及員的思考"で、これから先の時代も、大変役立つだろうと思っている。それでも、ベテラン普及員でさえ、具体的な形にするのは難しい。限られた資源を特化することになるから、有利な分野や得意分野に集約することにならざるを得ないだろう。

 これからも私は、生まれ育った中山間の過疎集落に住み続けると思う。この快適な農村ライフが、どのようにすれば持続できるのかを最優先に考え、時には具体的な行動に移すことにしている。


●写真上から
・当地域に植栽事例が多いサンパチェンス。新庄市に大規模な生産拠点がある
・手間いらずに生育するルピナス、中山間地域で見かけることが多い
・中山間地域の宿根花き見本園

あべ きよし

昭和30年山形県金山町の農山村生まれ、同地域育ちで在住。昭和53年山形県入庁、最上総合支庁長、農林水産部技術戦略監、同生産技術課長等を歴任。普及員や研究員として野菜、山菜、花きの産地育成と研究開発の他、米政策や農業、内水面、林業振興業務等の行政に従事。平成28年3月退職。公益財団法人やまがた農業支援センター副理事長(平成28年4月~令和5年3月)、泉田川土地改良区理事長(平成31年4月~現在)。主な著書に「クサソテツ」、「野ブキ・フキノトウ」(ともに農文協)等。

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