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ときとき普及【14】

2019年8月29日

農地バンク(その1)


やまがた農業支援センター 阿部 清   


 農地バンク事業(「農地中間管理事業」は、平成26年から開始し5年後を目途に所要の見直しを行うことになっていた。
 関連法案はこの4月に成立し、国会での参考人質疑の内容が報道されていた。ある参考人は、農地バンクは市町村エリアがふさわしく、現行の道府県エリアでは課題が多すぎるとの意見を陳述していた。記事を読みながら、農協の営農指導と普及事業の関係と、根っこが同じではないだろうかと感じた。


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【昭和の時代の、ある農協の営農指導員との会話】

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column_abe1_01.jpg「先生ら(普及員を三人称で使用している)は気楽だ。自分達は常に、顔の見える範囲(限定されたエリアでという意味)で組合員と付き合っていかなければいけない。縁が切れないのが悩みかな」(農協O営農指導員)
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「それは、普及員は転勤があるということかな? 確かにそうだ」(私)
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「先生らは2、3年、長くて5年間で異動するから、農業者と強制的に縁が切れる(?)という良さがある。自分達は辞めるまでその関係を引きずることになるから、業務で失敗すると大変なストレスになる」(O営農指導員)
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「農協事業は、『ゆりかごから墓場まで』というフレーズで宣伝しているね。この濃い関係は、農協の基本理念と密接に関係しているから理解できる。
 普及事業でも、技術指導だけではなく、総合指導活動と題して、構造政策もやるようになっている。村づくりなどのようにね。普及でも、農業者との信頼関係を築くのが最初の普及手法になる。普及員は第三者的な関係だけれど、仕事上で築いた人間関係の方が、農業者と合理的な距離感を保てると感じることが多いと思っている」(私)
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「営農(農協)指導は、組合員の生活が見えるからこそ悩ましい。それが原因かどうかは分からないが、体調を崩し、中途退職せざるを得なかった先輩もいた」(O営農指導員)
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「適当な濃度の付き合いが普及の良さなのかもしれないな。それに、県内すべての普及所でやっていることも魅力の一つかな」(私)
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 山形県では、JAが農地利用集積円滑化事業を担っていることが多い。取り組みに温度差はあるものの、農地中間管理事業の5年後の見直しに合わせて、JA支店の担当者との意見交換を行った。


【JA支店担当者との会話】

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「通常、農業者の農地に関する相談は、支店(JA)の担当者が窓口担当です。農業者の事情に合わせて、農地中間管理事業を優先していますが、円滑化事業、場合によっては、農地法3条の相対契約のために農業委員会を紹介することにしています。要するに、JAの窓口業務で農地の利用集積を支えているという自負があります。それは、JAの円滑化事業勘定がよりどころになっているからです」(T農協支店担当者)
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column_abe1_02.jpg「農地中間管理事業は、あくまでも手段として考えて欲しいと説明しています。農業者が農地を手放す場合に、選択肢の一つとして利用してもらいたいと。当然、窓口業務は人件費や経費が伴いますが、JAにとって、当然必要なサービスであり、今後も日常業務として対応していただきたいと考えています」(農地中間管理機構担当者:以下「機構担当者」)
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「担当者からは厳しい。役員はどのように判断するだろうか?」(T農協支店担当者)
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「県内各地で、担い手農業者が減少しています。地域農業の将来を考えると、県全体で同じようなスキームで農地集積を進めるべきだと思います」(機構担当者)
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「しかし、農業者が農地関係で農業委員会に相談に行くと、JAの支店に回される事が多いと思います」(T農協支店担当者)
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「確かに、そういうケースがあることは知っています。窓口業務は、地域の実情に明るいJAや市町村が担うべきです。しかし、農地集積の状況が、県内市町村やJAで集積の進捗程度に差があるように、市町村やJA管内においても、地域によって差があることが、特別のことではなく普通のことではないでしょうか?
 地域によって農業事情が異なること、多くは担い手の地域農業への取り組みの差が大きいのが要因になっていると理解しています。だからこそ、農地集積のスキームは、県内一律で実施すべきだと思いませんか?
 担い手の多い・少ない、水稲・園芸農業の違い、平場と中山間地域農業の違いはありますが、担い手が見込めなかった地域であっても、基盤整備によって劇的に地域農業が生まれ変わった事例もあります。
 このように業務は、県一律のスキームでも、まんざらではないはずと、また、そうであればこそと、機構は考えています。県内のすべての地域に、公平に可能性を提示していくためでもあります。それに、農地バンク事業と円滑化事業の統合は、農業者側から見れば、制度の違いに対する特別な思いは少ないだろうと推察しているからです」(機構担当者)
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 本当のところ、機構は、時間軸も相当に意識している。なぜなら、山形県の農村地帯の人口減少が下げ止まる2035年まで、15年しか残っていない。担い手の減少も同じで、絶対数の不足は厳しい課題となっているからでもある。人間のことだから、急いでも仕方のないことも多い。結局、地域の醸成を待つ、手段を講じて醸成をすすめる・・・。同じような意味で「水脈とか耕脈を探る」というのも・・・。これって、若かりし頃に受けた普及手法の研修にあったな、と思い出した。

あべ きよし

昭和30年山形県金山町の農山村生まれ、同地域育ちで在住。昭和53年山形県入庁、最上総合支庁長、農林水産部技術戦略監、同生産技術課長等を歴任。普及員や研究員として野菜、山菜、花きの産地育成と研究開発の他、米政策や農業、内水面、林業振興業務等の行政に従事。平成28年3月退職。公益財団法人やまがた農業支援センター副理事長(平成28年4月~令和5年3月)、泉田川土地改良区理事長(平成31年4月~現在)。主な著書に「クサソテツ」、「野ブキ・フキノトウ」(ともに農文協)等。

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