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ときとき普及【9】

2019年3月27日

ウルイの巻(その3)


やまがた農業支援センター 阿部 清   


「ウルイの促成栽培の手間が課題だな」(私)

「どういうことですか?」(O普及員)


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 Y先輩が専門技術員の頃に、普及員の私が受けたアドバイスを説明した。
 県の促成野菜の試験研究では促成率を数値化していること。これは、促成床への根株などの伏せ込み重量を分母に、収穫物を分子にした数値。促成率は、どのぐらいの手間をかけて、収穫がどの程度かを示す指標として使われていること。
 例えば、ウドや根ミツバの促成率は1.0を超えているが、促成アスパラガスは0.1程度である。指標の評価は、促成物の販売価格によっても異なるが、一般に、0.5以下の場合は、手間をかけても割りが合わず、農業者の現場での実感と促成率は関係が高い場合が多いこと。促成率が1.0を超えていても、注意しなければならないことなどを説明した。


 つづいて、農協婦人部(現在の女性部)に同行して、根ミツバの促成栽培の産地研修を行った際の話をした。
 彼女達は、産地の農業者が工夫した、冬に根を洗浄する作業工程を感心しながら眺めていたはずなのに、帰りの車中では、『根ミツバ農家には、娘は嫁にやれないね』と話をしていて、その反応にかなりショックを受けたのだった。


「農業労働に関しては、男性より女性の方が圧倒的に感性が高いということかな。農業労働の質を吟味しない普及はうまくいかないと感じたものだった。何しろ、決定権は女性にあることが多いからね」(私)

「促成率が1.0以上の根ミツバの促成栽培でも課題があるのだから、アスパラガスの促成は、洗浄工程がないといっても、促成率が低すぎる」(私)
「先輩がアスパラガスの、促成栽培に冷たかったのは、そういうことだったのですか?」(O普及員)

「ウルイやアスパラガスに限ったことではないが、日本海側は晩秋に雨が多く、掘り上げ作業が重労働になる。産地化の広がりが望めないのは間違いない。農業労働の視点を持たない技術は、現場での適応性が低いといえるかもしれない。」(私)


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「ウルイに話をもどそう」(私)

「雪うるいの話ですね」(O普及員)


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促成中の雪うるい(左)と収穫期の雪うるい(右)


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 促成ウルイの主産地であるY町での、数年前の研修の話をした。

「今日、一緒に視察した籾殻軟白のウルイは、籾殻を掘って収穫し、水洗して籾殻を除いていた。視察先の農業者に、一日で何ケースを出荷できるかと尋ねたところ、夫婦二人で15ケース程度だといっていた。大人二人分の稼ぎとしては物足りないと感じた」(M農協A営農指導員)
「今、手がけているトンネルフイルム軟白栽培は、どのぐらい箱詰めできる?」(私)
「夫婦二人で、日最大40ケース出荷することができる。籾殻軟白に比べ、販売単価は若干低めになるが、作業性は抜群に良い。悪い手間を良い手間に変えることかな」(A営農指導員)
「そうだな。ウルイはウドの促成と同じように、秋には根株の掘り上げがある。晩秋は雨が多いから大変だ。促成時の収穫作業も大変だと、促成栽培は悪い手間になるのでフイルム方式を提案したが、促成物としては、少々見劣りするのではないかと心配していた」(私)
「農業者は、手間と稼ぎの関係で良い手間であるかどうかを判断するから、農協では当然、この方式で促成することを組合員に提案していきたい」(A営農指導員)


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雪うるいの料理。スパゲッティ(左)と浅漬け(右)


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 家族労力の不足を、必要に応じて雇用労力で補えたのは「今は昔」になって久しい。
 ここ数年、機械化が難しい野菜の販売価格が高止まりしているように感じる。
 知り合いの園芸農家は、生産の制限要因が労働力になっていると話してくれた。外国人技能実習生を入れている農場も身近に存在するようになった。経営者は、コストの面では地元の方の採用と同じらしいが、彼らの労働意欲は非常に高いと評価していた。

あべ きよし

昭和30年山形県金山町の農山村生まれ、同地域育ちで在住。昭和53年山形県入庁、最上総合支庁長、農林水産部技術戦略監、同生産技術課長等を歴任。普及員や研究員として野菜、山菜、花きの産地育成と研究開発の他、米政策や農業、内水面、林業振興業務等の行政に従事。平成28年3月退職。公益財団法人やまがた農業支援センター副理事長(平成28年4月~令和5年3月)、泉田川土地改良区理事長(平成31年4月~現在)。主な著書に「クサソテツ」、「野ブキ・フキノトウ」(ともに農文協)等。

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