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2019年1月28日
ウルイの巻(その2)
山菜は、なじみのあるなしが消費行動を左右するケースが多いといわれている。例えば、ワラビを知らない消費者はほとんどいないが、地域限定の山菜は、購入意欲がわくことがない。かつて、なじみの程度と価格を、XとY軸にした分布図で山菜を比較したことがある。新春の三大山菜といわれるコゴミ、フキノトウ、たらの芽は良く知られている。ただし、花ウルイは山どころの人々でさえも食べたことのない、なじみの少ない山菜だ。
右 :花ウルイを収穫する農業者
・・・ホロ苦い思い出の花ウルイの話・・・
自生するオオバギボウシは、促成栽培には適しないが、山採りでは魅力的な山菜である。一般に、春の萌芽を採取するが、初夏の生育が進んだ株の葉柄の皮をむき、軽くゆでた後に乾物として保存し、炒め物などに調理されることもある。地域によっては、初夏に抽だいする花茎を食用にすることもある。この花茎はややほろ苦く、独特の食感がある。これを「花ウルイ」と名づけて商品化しようと、長年、温めていた時期があった。
オオバギボウシの露地栽培の魅力は、茎葉から花茎まで利用することで、春から初夏までの長い期間に収穫が可能なことにある。また、軽微な管理で20年以上も連年栽培ができるという魅力がある。促成山菜の産地としては、春、夏季に出荷できる山菜を模索していたこともあり、自信満々にオオバギボウシの露地栽培をJAに提案したのだった。早速、M農協が試作を開始することになった。ただし、この提案は、自身としては2回目の、異動の前年になってしまった。
左 :花ウルイ圃場
「阿部先生が普及センターから異動すると、我々は、地雷を踏まないように注意している」(笑いながら話すM農協I営農指導員)
「心当たりがあるとすれば、赤ミズ、花ウルイかな」(すでにJAの苦労を聞いていた私)
「花ウルイは作りやすく、畑でみばえがいいのですが、新しい食材として評判が芳しくなく、と て も 苦労しています」(I営農指導員)
「苦味についても、株ごとに結構バラツキがあるようです。先生の後任になったN先生にも相談していますが、頭を抱えていました」(I営農指導員)
「Nさんから相談があって、もしかすると花ウルイの商品化を断念するかもしれないと話していた」(私)
「花ウルイの商品化の見通しがたたないと産地化プランが成り立たない。茎葉は直売所で販売できるけれど、魅力半減になってしまう。ところで、乾燥物の見通しは?」(私)
「そこまでは至っていないのです。管内では、ウルイは乾物加工をやっていないから・・・・」(I営農指導員)
「マーケティングしての判断なので、中止せざるを得ないというのは、仕方がないと思う」(残念な私)
「先ほどの地雷のココロは、大変だけれど失敗できない覚悟で、という意味でした」(I営農指導員)
「JAは責任を果たしていると思う。そういえば、赤ミズの時も同じだったね」(私)
「赤ミズは、試作といっても大面積の栽培でしたから、とても苦労しました」(割とまじめに話すI営農指導員)
「赤ミズは、初秋にミズ玉も収穫できるから有望な山菜だと思っていた。葉が食用にならないから、廃棄する割合が多い山菜は市場性が厳しいという判断だったね。人気の山菜類は、廃棄する部分がほとんどないという共通点があるね」(私)
「地元の旅館業界にも働きかけましたが、結局商品化は断念することになりました」(I営農指導員)
二つの山菜の商品化の夢は頓挫してしまったが、花ウルイ、ウルイの乾物、赤ミズやミズ玉は商品性が高いはずだ。あの時は時代が悪かっただけ。機会があったら再チャレンジしようと考えている。負け惜しみになるだろうか。
昭和30年山形県金山町の農山村生まれ、同地域育ちで在住。昭和53年山形県入庁、最上総合支庁長、農林水産部技術戦略監、同生産技術課長等を歴任。普及員や研究員として野菜、山菜、花きの産地育成と研究開発の他、米政策や農業、内水面、林業振興業務等の行政に従事。平成28年3月退職。公益財団法人やまがた農業支援センター副理事長(平成28年4月~令和5年3月)、泉田川土地改良区理事長(平成31年4月~現在)。主な著書に「クサソテツ」、「野ブキ・フキノトウ」(ともに農文協)等。