農業のポータルサイト みんなの農業広場

MENU

ときとき普及【5】

2018年11月22日

良い手間、悪い手間の巻(その2)


やまがた農業支援センター 阿部 清   


 先日、M農協の役員と意見交換をおこなった。


***


「今年は野菜類の単価が高い。出荷量は昨年と変わらないが、販売額は5億円以上も増加している。気象災害で、競合産地の収量が減少したのだろうか?」(A組合長)


column_abe5_5.jpg「全国の野菜産地は人手不足ということなので、今年に限った現象ではないと思う。管内の農家は比較的手間があると感じるので、労力面からは競争力があると見ている」(私)

「当JAは後発の野菜産地だから、まだまだこれからだ」(A組合長)

「先発の産地との比較では、人口と農業従事者の減少が、当地の場合早めに出現していて、気がついたら周回遅れの先頭に位置していたのかもしれない。気象条件などの立地条件の中では、労働力が優先条件になっていて、結局、手間がかけられる地域ほど、競争力が高い状態が続いていくことになりそうだ」(私)


「管内の農家でも人手不足が話題になる。家族の手伝いは難しい。まして、夜仕事は最も嫌われる農作業になっている。そのために共同選別施設を建設したけれど、当時は栽培面積がほとんどない段階だったので、農協としては決断が難しかった。現在は、ある程度の産地に成長したから安心しているが、産地が計画どおり伸びなかったら、私は責任をとって退任していたと思う」(当時を思い浮かべるA組合長)

「組合長のところは、アスパラガスやネギの共同選別施設、トマト、ミニトマトやキュウリの選果施設を導入するたびに産地が拡大している。選別・選果作業は単純労務だから、個別作業では悪い手間になると思う。その作業を集約化することで、良い手間に変化するわけだ。組合長のところはラッキーなのかな」(私)


column_abe5_1.jpg  column_abe5_2.jpg


「当農協で取り組んでいる産地化品目は共同選別しているから、高齢者も参加できる産地づくりが可能なのだと思っている。アスパラガス(露地全期立茎栽培)の場合、一旦定植した場合に、約15年すえ置きして収穫を継続できるため、60歳で退職した人が30aの農地に新植する事例が多い。このような方々が産地の仲間になってもらえると、産地に厚みが出て助かる。これは多様な人材活用だから良い手間かな」(A組合長)

「農協のサービスとしては新しくはないけれど、やる、やらないの差は大きい。販売単価が低迷している時は、選別・選果施設利用料が目につき、評判が悪いけれどね」(私)


column_abe5_3.jpg「アスパラガスは当初、M支店から始まった産地化だったが、現在は各支店で新植が進んでいる。近いうちに栽培面積は100haを越えると思う」(A組合長)

「最初の産地プランは、100ha、10億円の販売額で関係者に提示したので、遅ればせながらのことですね」(私)


「集落から担い手が急速に減少していて、コミュニティの維持ができるのかが一番の心配になっている。水田は数少ない担い手が維持できるだろうが、水路などの土地改良財産を維持することは難しいとみている。定年退職者には、水稲以外の農業でもがんばってもらって、農業者として集落に留まってもらいたい」(A組合長)


「水田を集積・集約化した大規模な農業法人が地域の農業を牽引していくのは間違いない。一方で、多くの住民が農業で活躍できる場があることが前提なのだと感じていた。JAには、そのためのサービスを組合員に提示してくれることを期待したい」(私)

「県内のS地域とは比較にならないが、今年は、中山間地域のM町H集落やO村K集落に集落単位の農業法人が誕生した。農地を集約しても、園芸作物の産地があることから、出し手の農業者が農業で活躍できる、魅力あるプランを提示できると思う」(A組合長)


「担い手の多い・少ないはあるにしても、耕作放棄地のような、条件不利地の農地を担うのは限界に近いと思う。積極的に農地から除外する必要があると考えている」(M専務)

「市町村長、農業団体代表者や担い手との意見交換でも、同様の意見が出る。担い手が多かった昔と同じ面積の農地を、基盤整備などの条件整備をしないで担うのは、厳しいと答えている」(農地中間管理機構の役員でもある私)


***


 人口減少は問題だ。中山間地域ではさらに深刻になっている。
 地域を離れた人や農業をやめた人が無条件で幸せではないように、農業にとどまった人や地域に残った人が、取り残されただけで不幸でもない。また、農業とは現状を受け入れる産業であり、変化に柔軟に対応できる産業でもあると思う。
 次の一歩を考えるためにも、ないことを嘆くだけでは建設的ではない。
 M農協のように、一つの作物導入や技術導入が地域の農業の将来を決定づけることがあるのなら、関係する普及員の一層の奮起を継続して欲しい。その普及事業の切り口は、昔も今も、「良い手間、悪い手間」だと思えて仕方がない。

あべ きよし

昭和30年山形県金山町の農山村生まれ、同地域育ちで在住。昭和53年山形県入庁、最上総合支庁長、農林水産部技術戦略監、同生産技術課長等を歴任。普及員や研究員として野菜、山菜、花きの産地育成と研究開発の他、米政策や農業、内水面、林業振興業務等の行政に従事。平成28年3月退職。公益財団法人やまがた農業支援センター副理事長(平成28年4月~令和5年3月)、泉田川土地改良区理事長(平成31年4月~現在)。主な著書に「クサソテツ」、「野ブキ・フキノトウ」(ともに農文協)等。

「2018年11月」に戻る

ソーシャルメディア