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ときとき普及【2】

2018年8月31日

たらの芽の巻(その2)


やまがた農業支援センター 阿部 清   


 「タラノキの穂木は10本一束にして圃場から搬出し、資料のとおり管理してください」
 ある日、O農協生産部会のたらの芽の促成研修会の後半、作業の留意点を説明している最中に、会場が何やらザワついた。変な説明をしたかとドキドキする私。


「10本は重すぎて無理だな」(たぶん、農業者Sさん)
 Sさんの真意を測りかねたが、結束する本数は重要な問題でもないため、各自で判断してくださいと回答した。
 数日後、職場に見たこともないような太いタラノキが届けられた。その穂木の重量は5kgだった(普通は1kgぐらい)。
「Sさん、本当に重いですね。これだと10本1束では50kgになり、圃場からの搬出は確かに難儀です」(見たことがない太さにとまどう私)
「先生の栽培資料どおりにやると、この大きさになる。大き過ぎるのも問題だな」(太すぎる穂木に育ったことに疑問を持った私)
「Sさん、直径27mm以上の場合は、太さと芽の大きさに相関がなくなるのです」(いいわけする私)
 さっそく駒木に調整し、促成ベッドに並べたところ、ちょうど湯飲み茶碗を並べたような光景だった。正直なところ、Sさんが希望する、芽を小さくしないで、木を細くする理屈は考えもつかなかった。
「先生、木を細くする技術を考えて欲しい」
 あれから20年余。こんな贅沢な質問を私にしたSさんに、いまだ答えを返せていない。


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駒木の調整作業(左)と2段促成ベッド(右)


 当地域の気象条件は穂木養成に適していることに意を強くし、県外の視察者にこんな説明をしたこともあった。
「自生地のタラノキの太さはどのくらいですか? 私のところでは、こんなに太くなります」(両手で輪を作って大げさに説明する私)
「皆さんところでは、雪が少ないので細いのでしょうね。ほとんど積雪がない太平洋側の山でもタラノキを見かけますが、細かった記憶があります。それだけ、豪雪地はタラノキの養成地として有利だと考えています」(すっかり上から目線の私)
「雪が降らないとダメなのですか」(やや不満気な視察者)
「自生地のタラノキが大木になる理由は、積雪による株の保温効果だと考えています。それだけのことですが、プラスの要因として重要だと思っています。自然の贈り物ですね」(自信満々の私)
「それに、促成時期の当地の冬は、日射が極端に少ないため、促成室の温度管理が、実にラフに、しかし、正確にできるのです」(ダメ押しする私)
「そこそこの技術水準でも、たらの芽の品質は評価されているのだと思います」(いささか言い過ぎな私)


 こんな説明を受けた視察者のみなさん、申し訳ありませんでした。たらの芽の導入を断念した方々もおられたと聞いています。「適地のすすめ」をお話したかったのですが、真意が伝わらなかったと思います。


 さて、娘が幼かった頃、幼稚園から持ち帰ってきた「こどもの友」という小冊子を何気なく開くと、野山の昆虫を探すという記事があり、そのイラストに描かれていた植物がタラノキだったのには驚いた。昆虫が集まる木がタラノキということが本当かどうかはわからないが、ドキドキしながら冊子を見つめたのは事実だった。

 当地域でも、春先の若芽を食い荒らす、化石のように見えて動きが素早いヒメシロコブゾウムシ、夏の穂木養成圃場で見かけるセンノカミキリは割に目についた。しかし、他産地でよく問題になっていた立枯れ性疫病は確認できなかったことから、適地日本一の産地としての自信を深めていったものだった。


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紙ポット育苗(左)と定植初年目の養成圃場(右)


 適地適作は基本だと思う。これを踏まえて現場で農業者と試行錯誤しながら改良した技術力を持つ産地は、主産地になる可能性が高いとも思う。アスパラガスの全期立茎栽培(露地長期どり栽培)による産地プランを引き継き、東北を代表する産地まで伸ばしたKOさんの普及経過を見ていると、そのことを実感することができる。
 ある時、アスパラ農業者が県外の先進産地を視察した感想がKOさんに寄せられたという。
「当産地の方がより適地で、技術は進んでいると感じました」
 この話を聞き、これから進む産地化の将来は、間違いなく大丈夫だと感じた私だった。

あべ きよし

昭和30年山形県金山町の農山村生まれ、同地域育ちで在住。昭和53年山形県入庁、最上総合支庁長、農林水産部技術戦略監、同生産技術課長等を歴任。普及員や研究員として野菜、山菜、花きの産地育成と研究開発の他、米政策や農業、内水面、林業振興業務等の行政に従事。平成28年3月退職。公益財団法人やまがた農業支援センター副理事長(平成28年4月~令和5年3月)、泉田川土地改良区理事長(平成31年4月~現在)。主な著書に「クサソテツ」、「野ブキ・フキノトウ」(ともに農文協)等。

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