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農家の相続を考える【4】

2018年8月23日

農家の事業承継、中小企業の事業承継のポイント


ランドマーク税理士法人 代表税理士 清田幸弘   


■事業承継対策は早めに着手しましょう
 農家の方や町工場、商店などの中小企業の社長の多くが悩んでいるのが、事業承継問題です。事業承継には後継者の育成の期間も含めれば、5~10年を要するとの調査結果もありますので、円滑な事業承継を行うための対策は、早めに立案・着手する必要があります。


seita4_image0.jpg■承継対策において考慮すべき点
 事業承継対策は、次の点に注意し、実行に移していくことが必要です。

(1)後継者をどうするか
 まず、悩むのは後継者選びではないでしょうか。誰に引き継いでほしいのか、後継者、関係者を含め、話し合う必要があるでしょう。

(2)経営の実態、資産の把握

 売り上げや経費、販路先を確認しましょう。どのくらいの土地や機械設備、現金、預金があるかの資産の確認や、借入金などの負債があるかを、しっかり把握することが重要です。
 農家の方の場合、現在の作付作物なども把握しましょう。国などからの給付金などを受けている場合が多いと思いますので、こちらもしっかり確認しておきましょう。


(3)社長からの「借入金」には注意が必要
 会社の業績が悪くなり、支払いのために社長のポケットからお金を出すことがあります。また、景気が良いときに社長の給料を上げたものの、景気が悪くなって給料を支払っていなかった場合、会社には社長からの「借入金」が発生してしまいます。
 逆に社長から見れば、会社に貸しているお金であり、借用書がなくても、社長個人の資産となりますので、万が一相続が発生した場合、相続する人に相続税の負担が起きます。
「そもそも会社の状況が悪いから会社が社長に借入をしたのに、会社が借入金を社長に返せるわけがない!」といった声をよく聞きます。
 対処法としては、相続税が発生する前に、社長の借金を、会社に税金がかからない赤字の範囲内で債務免除すると良いでしょう。つまり社長から会社に、「借金は返さなくていいよ」と言ってしまうことです。
 ただしその場合、注意しなくてはならない点があります。債務を免除した社長は損失ですが、免除を受けた会社にとっては利益となり、欠損金以上の債務免除は黒字決算となり、所得税が課税される場合があります。


(4)株式を発行されている場合
 株や出資金が分散してしまうと、経営支配権が不安定になりますので、後継者へ、経営権を集中した方が良いでしょう。一定割合以上の議決権や株式を、後継者が確保できるようにする必要があります。
 生前贈与や黄金株(※1)を利用して、後継者への権利の集中をしましょう。
(※1)黄金株:株主総会や取締役会での決定事項について拒否する権利が付与された株式。例えば、普通株を買い占められた場合でも、黄金株を所有する株主によって、合併や取締役の解任などの重要事項の議決を拒否できる権限が与えられた株式


(5)借入金の資本金への振り替え(DES)
 社長が会社に貸し付けを行っている場合、貸付金は相続財産になります。会社の状態が悪く、株価がほぼない場合でも貸付金は債権であるため、相続財産になってしまうのです。
 そこで、社長から貸付金を現物出資し、新株を発行することにより債権を減らし、相続税を圧縮することができます。この手段をDES(デット・エクイティ・スワップ、債務の株式化ともいう)といいます。つまり、社長の貸付金を会社の資本金に付け替えてしまう方法です。
 会社にとっては負債が減少し、資本が増加するため、銀行からもお金を借りやすい状況に改善されます。平成18年度の税制改正により、債権の評価が時価による評価となりました。債務消滅益が発生し、課税されることがありますので、十分な注意が必要です。
 また、債権者から株主に対する贈与に該当する場合がありますので、実行する際には専門家にご相談ください。


■税金面では?
seita4_image1.jpg (1)贈与税の納税猶予の特例
 農業を営む方の場合は、「贈与税の納税猶予の特例」の適用を受けることができます。
 具体的には、農業を営んでいる人が、農地や採草放牧地などを、農業を引き継ぐ推定相続人の1人に贈与した場合、その贈与を受けた人に課税される贈与税については、その贈与を受けた農地などについて、子どもが農業を営んでいる限り、その納税が猶予されます(猶予される贈与税額を「農地等納税猶予税額」といいます)。
 平成30年度の税制改正により、貸し付けた生産緑地への農地の納税猶予の適用が可能になりました。

①贈与者の要件(例:父)
・農地などを贈与した日まで、3年以上農業を営んでいる個人であること。
②後継者の要件(例:子)
・18歳以上であること
・3年以上農業に従事し、速やかに主として、農業経営を行うこと
・認定農業者などであること
右 :贈与税の納税猶予の特例


(2)申告の手続
 この特例の適用を受けるためには、贈与税の申告書に一定の書類を添付して、その申告書を贈与税の申告書の提出期間内に提出するとともに、農地等納税猶予税額および利子税の額に見合う担保を提供する必要があります。


(3)納税猶予期間中の手続
 この特例の適用を受けた人は、3年目ごとに「継続届出書」を提出する必要があります。

(4)打ち切られる場合

 農業をやめた場合、納税猶予の土地を売ったり、貸したり、耕作の放置があった場合は、贈与税の全部または利子税を納税することになります。


(5)いずれかが死亡した場合
 この農地等納税猶予税額は、受贈者または贈与者のいずれかが死亡した場合には、その納税が免除されますが、相続税が発生します。
「贈与を受けた場合の農地の納税猶予の特例」から「相続した場合の農地の納税猶予の特例」に移行しますので、手続きが必要です。
*贈与者が過去に農地を相続人に贈与し、相続時精算課税が適用されていた場合、相続人全員が贈与の納税猶予を受けられないため注意が必要です。


【補足】対象地となる農地などについて
◇農地など
 農地、採草放牧地、並びに準農地をいいます(特定市街化区域農地等、その他一定の物を除く)
◇特定市街化区域農地など
 市街化区域内に所在する農地又は採草放牧地で、平成3年1月1日において首都圏、近畿圏および中部圏などの区域内に所在するものをいいます(※2)
◇都市営農農地など
 生産緑地地区内にある農地または採草放牧地で、平成3年1月1日において首都圏、近畿圏および中部圏の特定市の区域内に所在するものをいいます(※3)
◇準農地
 農用地区域内にある土地で農業振興地域整備計画において用途区分が農地や採草放牧地とされているもののうち、10年以内に農地や採草放牧地に農業の用に供するもの

(※2):三大都市圏(首都圏、中部圏、近畿圏)の特定市の市街化区域に所在する農地、採草放牧地などをさします
(※3):特定市街化区域農地のうち、生産緑地の指定を受けた農地、採草 放牧地をさします。(ただし、生産緑地法により買取りの申し出がなされたものは除かれます)
注:細かい条件などありますので農地政策課などにご確認ください

せいた ゆきひろ

神奈川県横浜市に農家の長男として生まれる。明治大学出身。横浜農協に9年間勤務した後、税理士に転身、1997年に清田幸弘税理士事務所を設立。ランドマーク税理士法人に組織変更し現在では、東京・丸の内の無料相談窓口『丸の内相続プラザ』、横浜ランドマークタワーを始め、首都圏に12の本支店を展開している。

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