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「野菜ソムリエ」の元気を作るおいしい食卓【133】

2025年2月17日

野菜のおいしさ再確認。精進料理「三光院」


野菜ソムリエ・アスリートフードマイスター 田代由紀子   


 東京都小金井市に精進料理を楽しめるお寺があると知り、訪ねてきました。京都の嵯峨野にある「竹之御所(たけのごしょ)」と呼ばれる尼門跡寺院・曇華院(どんげいん)に由来する尼寺「三光院」です。門跡尼寺とは、皇女などの高貴な方が住職を務める尼寺を指します。三光院の精進料理は、京都嵯峨野の竹之御所で皇女様が日々召し上がる尼寺料理で、室町時代から受け継がれていると言われています。


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 精進料理は、かつて院内の幼稚園の体育館だった「十月堂」でいただきます。
 禅寺の和の雰囲気を保ちたいとの想いで作られたテーブルは、茶室をイメージした畳敷きのものです。
 「食べ物はつくりたてがいちばんおいしい」と、料理長の西井香春さん自らが一品ずつ料理を運び、それぞれのエピソードを説明してくれます。精進料理ですから、肉類や魚類は使いません。お吸いものなどの一部の料理を除いて昆布だしも使用せず、素材そのものの食感や味を感じることができます。


○ササリンドウ紋最中

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 はじめに運ばれてきたのは、小ぶりの最中です。
 最初に甘味? と意外に思いましたが、京都では、食事をするしないに関わらず、来客にはまずお茶(お抹茶)でおもてなしをする文化がある。甘味はお抹茶の味わいをより深めるために提供されるもの、とのことでした。
 最中の皮には、三光院のご紋である笹竜胆(ササリンドウ)の模様がつけられています。パリッと焼いた最中の中には大徳寺納豆が入っていて、甘みを引き立てていました。


○お煮しめ

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 お煮しめは、大和芋の海苔巻き、高野豆腐の含め煮、ごぼうの胡麻和え、南瓜の煮物。煮物というと「しっかり出汁で煮含めるもの」と思っていましたが、出汁を一切使わず、水、塩、砂糖だけで煮ています。素材に合わせた火加減や煮る時間を変えることで、野菜本来の味が引き出されています。口にした時には衝撃を受けました。


○蕪蒸し

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 寒い時季においしくなる、カブを使った一品。すりおろしたカブにしいたけ、にんじん、ぎんなん、お米などが入っています。カブの甘みと昆布だしのあんが、体に沁みわたりました。


○胡麻豆腐

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 もっちりとした胡麻豆腐を口に運ぶと、優しい胡麻の香りが広がります。一般的な胡麻豆腐は炒ったごまを使いますが、三光院の胡麻豆腐は皮を剥いだ生の胡麻で作るため、風味が穏やかだそうです。添えられたワサビと生醤油がよく合います。


○香栄とう富

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 三光院の二代目香栄禅尼が考案した一品で、西京味噌に漬けたお豆腐を軽く燻製にしたものです。小金井にちなんで、桜の木で燻製にしているそうです。


○木枯らし(ナスの田楽)

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 縦に切った茄子が楽器の琵琶に似ていることから、琵琶の名器にちなんで「木枯らし」と名付けられた一品。
 油で揚げることで、ほかの野菜では見られない美しい瑠璃色になるため、視覚でも楽しめるとして、古くから続いている料理です。柚子の香りさわやかな西京味噌の甘味噌が、トロリとしたナスとよく合います。


○一口吸い物
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 ゆっくりと時間をかけて昆布を煮だした出汁に、ナスのヘタを梅の形に抜いたものが浮かべてありました。


○蝋梅

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 揚げた生麩が蝋梅の花の色に似ていることから、この名前がつきました。弾力のある食感にしっかりとした味付け、辛子の辛みもよいアクセントになっていました。


○豆のおばん

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 おばんとは、御所ことばで「ごはん」を指します。ふっくらと甘い大豆の入ったごはんです。


 このように、肉や魚がなくとも、見た目も美しく、満足感のあるコース料理でした。三光院では毎月献立が変わるとのことなので、また、旬の野菜を味わいに行ってみたいと思います。

たしろ ゆきこ

野菜ソムリエ・アスリートフードマイスター。「楽しく、美味しく、健康な生活を!」をコンセプトに野菜についてのコラム執筆、セミナー開催、レシピ考案などを行っている。ブログ「最近みつけた、美味しいコト。。。」で日々の食事メニューを発信中。

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