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きょうも田畑でムシ話【128】

2023年11月 9日

外来ハムシ――敵でもあり味方でもあり  

プチ生物研究家 谷本雄治   


 外来生物がなにかと世の中を騒がせている。農業との関わりでいえば、虫あり草木あり。しかも次々と新顔が現れるので、話題には事欠かない。
 現にわが家の庭にはアカボシゴマダラが毎年、当たり前のように飛んできて卵を産み、幼虫、さなぎの時代を経て大空へと飛んでいく。いつものようにご近所を散歩すれば、学校の桜の木の幹にはキマダラカメムシが張りつき、ヒロハフウリンホオズキが黄色い花を咲かせ、古くから見慣れたホオズキそっくりの実をつける。

 道のわきではマルバルコウがヨモギやセイタカアワダチソウの若い茎に覆いかぶさるようにしてつるを伸ばす。セイタカアワダチソウだって明治時代に入ってきた外来種だ。外来種ばかりを集めた公園もあるようだから、いちいち気にしていたら散歩も楽しめない。


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左 :赤い花が目立つマルバルコウ。いつの間にか、当たり前に見るようになってきた
右 :セイタカアワダチソウの黄色い花には、カマキリがよく似合う? この花の中央にはハラビロカマキリが潜んでいる


 ところがそれらの中には、興味をそそられる外来昆虫も混じる。数年前から気になっているブタクサハムシもそのひとつだ。
 体長は5mmあるかどうか。茶色のボディーに縦じまが入る。北米原産のハムシの一種で、1996年に千葉市で見つかり、その後、関東から全国に広がったと聞く。
 縦じまのハムシというとアブラナ科野菜の害虫になっているキスジノミハムシを連想する農家の人もいそうだが、あちらは黄色いすじが2本だけなので、ブタクサハムシとは大違い、すじ違いである。


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左 :外来雑草・オオブタクサの葉を食べる外来昆虫のブタクサハムシ。敵の敵は味方?
右 :すじのあるハムシというと、キスジノミハムシを思う人も多い。黄色のすじは背中の両側にある


 ブタクサハムシはブタクサ、オオブタクサを主たる食料にするが、それらを食べ尽くすとヒマワリにもかじりつくという。わが家の周辺に生えるのはオオブタクサだから、彼らにとっては主食のひとつである。
 オオブタクサも1952年に千葉県と静岡県で最初に定着が確認されたそうだから、千葉県民としては親しみをおぼえる。
 といっていいのかどうか......。


tanimoto128_7.jpg それはともかく、オオブタクサが名札付きで植栽されているならともかく、ふだん目にしていても、名前を知らなければただの大柄雑草でしかない。何を隠そう、ぼく自身がそうだった。
 しかも、注目するようになったのは海岸で得体の知れないタネを見つけてからだ。場所にもよるが、よく出かける海岸では当たり前のようにいくつも転がっていた。

 どう表現すればいいのか迷うところだが、よく言えば王冠、もっと言えば、オオブタクサ特有の形状だと思えてくる。ぷっくりしたおなかの上に、鬼の角だか爪を思わせる突起が3本突き出している。一度覚えたら、忘れようがない形だ。
右 :オオブタクサの種。海岸でたびたび目にしていたが、長いこと正体不明だった


 ところがそれだけ予習しても、野外では見のがすことも多い。タネができた時期でないと見られないのはともかく、2mにも3mにもなる背高のっぽなので、目の高さにないとタネも確かめにくい。セイタカアワダチソウは名前の割に草丈の低いものも増えたが、オオブタクサは看板通りでいつわりがないのだ。
 タネに興味がなければ、なんてことはない。「クワモドキ」の俗称もあるように、なんとなく桑の葉に似た背の高い草を探せば済むことだ。
 なんて言わずとも、密生していることが多いから、すぐに見つかるだろう。
 それなのに、ブタクサハムシをしっかり見たのは今年が初めてだから、お粗末な話ではある。
 ちょっと気をつけて見れば、ぼろぼろになった葉が何枚も見つかる。その虫食い模様をこしらえたのがブタクサハムシだ。

 ローガンのせいで卵は見のがした可能性が高いが、幼虫も繭も成虫も、それほど苦労せずに見つけられる。それほど大量に発生しているということだ。
「つまり、外来雑草と呼ばれるオオブタクサに、外来昆虫のブタクサハムシが寄生しているのだな」
 という事実にたどり着くのに時間はかからない。オオブタクサが日本で話題になってから6年ほどでブタクサハムシの存在も知られるようになった――という研究報告もあるように、外来雑草が外来昆虫を呼び込むのにそれほど時間はかからなかったということだろう。


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左 :ブタクサハムシの幼虫。食欲は旺盛だ
右 :ブタクサハムシに食べられてぼろぼろになったオオブタクサの葉。ダメージは大きいはずだが、翌年には何事もなかったように群生する


「してみるとこれは、相討ちなのか?」
 単純なぼくにはそう思えた。
tanimoto128_13.jpg アメリカザリガニやウシガエル、カミツキガメと外来種はやたらと問題視され、現実に被害も出ている。その憎まれ者同士が同士討ちになれば、自らの手を汚さずに済む。
 とまあ、理屈上はそうも言えるが、さてどうなのだろう。
 結論は、なんとなくわかる。葉がぼろぼろになってもすべてが枯れるわけではないから、草刈り機の出番となる。ご近所の生息地で見る限り、毎年スパッと刈られている。
 だが、外来雑草の強さは侮れない。翌年も同じ場所に大帝国を築いているからだ。
 ブタクサハムシも食いっぱぐれることはない。そうなるとどう考えればいいのか。
 せめてキラキラと輝く虫なら、虫好きに喜ばれ、殺虫剤以上の虫捕り効果が期待できるかもしれない。
右 :刈り払われたオオブタクサ。春には倒れた枯れ枝のようなのに、すぐに一帯を覆うように伸びてくる


 そう思っていたらなんと、そんな外来昆虫も現れた。
 南西諸島などにはもともといたようなので、国内外来種ということだろう。
「うちのサツマイモ畑にいるよー」
 友人から、ありがたい誘いがあった。
 畑作物に依存するということは、害虫だろう。喜んでいいのか悩ましいところだが、せっかくの情報だからと、さっそく出かけた。


 そいつは、評判通りの美しさだった。
 名をタテスジヒメジンガサハムシといい、金緑色という表現がぴったりくる。
 出かける前に写真を見ておいたのだが、実物は体長5mmほどしかなく、想像したよりも小さかった。


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左 :体色には個体差があるタテスジヒメジンガサハムシの成虫。これは緑色がやや薄い
右 :サツマイモ畑。葉は無傷だから、ここにはまだ飛来していないのだろう


「小さいですねえ」
「サツマイモの葉を食うけど、芋に被害はないからね」
 害虫であることに変わりはないが、友人はそれほど気にしていなかった。
「それよりはヨトウムシの方が大変だよ」
 ヨトウムシ対策で農薬をまいたらしく、タテスジヒメジンガサハムシも以前ほど目立たないという。農薬をまく前にはもっと目についたという。


「あ、そこ!」
 成虫しか見られないと思っていたのだが、さなぎも見つかった。もじゃもじゃっとした毛で覆われたような感じで、ぼろぼろになったわらじを思わせた。
 と思ったら、こんどは幼虫が見つかった。
 ジンガサハムシの幼虫は、成長する過程で自分の脱いだ殻を順番に、背中というのか、おしりのあたりにくっつける習性がある。この金ぴかハムシの幼虫も例にもれず、抜け殻タワーをこしらえていた。
 それがしっぽのようになっている。
 ところが何かの拍子に、高く掲げるようなポーズをとる。
 おもしろい。


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左 :タテスジヒメジンガサハムシのさなぎ。毛がぼうぼうで、傷んだわらじを想像した
右 :おしりのぬけ殻をピンと立てたタテスジヒメジンガサハムシの幼虫。ひょっとして威嚇のための行動なのかな


 サツマイモ農家の皆さんには申し訳ないが、こいつは美麗種でコミカルな害虫だ。農薬を散布する前にちらっとながめると、意外な話のネタになる。
 外来種の中にも、おかしなヤツはいるものだ。

たにもと ゆうじ

プチ生物研究家・作家。 週末になると田畑や雑木林の周辺に出没し、てのひらサイズのムシたちとの対話を試みている。主な著書に『週末ナチュラリストのすすめ』『ご近所のムシがおもしろい!』など。自由研究もどきの飼育・観察をもとにした、児童向け作品も多い。

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