MENU
2025年
2024年
2023年
2022年
2021年
2020年
2019年
2018年
2017年
2016年
2015年
2014年
2013年
2012年
2011年
2010年
2009年
2008年
2007年
2013年10月31日
雪害・寒波対策のための気象情報の利活用
(株)ウェザーニューズ 梅田 治
1.冬期の天候の特徴
施設栽培農家は、冬期に思わぬ気象現象の影響を受けることが珍しくない。「雪害」「寒害」がその代表で、それらをもたらす気象現象は「積雪」「低温」「日照不足」などである。いずれも作物はもちろん、施設や農作業の安全性に大きな影響を与えることがある。
一般的に、冬期は大陸に優勢な高気圧と、オホーツク海~北太平洋にかけて発達した低気圧が位置する、典型的な「冬型の気圧配置」により、日本付近は北西季節風が卓越する日が多い。これにより、日本海側各地の大雪のほか、日本各地で寒波をもたらし低温に見舞われる地域が多くなる。ここ数年、暖冬傾向が続いた日本列島であったが、2011~2012年の冬期は、特に2月頃までは、前年に続いて典型的な「寒い冬」になり、各地で大雪・低温のニュースが相次いだ。
表1-1に2012年冬期の月別の日平均気温および日照時間の平年比較(速報値)を示す。特に平均気温は、札幌や盛岡など、北日本の各地でかなり低温傾向であったこと、日照時間は、3月を除いてそれなりにあったことがみてとれる。一方、熊本や鹿児島などの九州地方も低温傾向で、特に2月中旬頃までは、一時的に暖かい日はあっても、総じて寒い日が多かった。また、2月は前年を下回る寒さで、日照時間が少なかったこともわかる。
表1-1 全国4都市の、2012年冬期の日平均気温、日照時間の平年比較
加えて、北日本中心に日本海側の各地では、近年にない豪雪に見舞われた地点が多く、ハウスの倒壊など、農業用施設への被害が相次いだ。表1-2は東北・北海道3都市の、1~3月の各月別・積雪深データの比較である。2011年は寒い冬という印象が強かったが、2012年も、最も寒い2月には、3地点ともかなりの降雪があったことがわかる。特に盛岡市では、3月にかけての降雪量から、2012年の降雪の特徴がよくわかる。
そのほか、鹿児島市・長崎市などで10cm以上の積雪を記録した2011年ほどではないものの、鹿児島県や熊本県でも降雪を観測し、「寒かった冬」の印象を強く残した。このように、最近の冬は、世間一般で語られている「暖冬」が毎年のように続いているというわけではなく、年によっては今まで見られなかったような天候が影響して、想定外の対応を迫られる場合もある。
2.寒波による作物や施設への影響
寒波による直接的な被害の一つに「雪害」がある。特に寒冷地の農家はこの時期、農業用ハウスによる栽培を行っており、大量の積雪があった場合、雪の重みでパイプハウスが破壊されることがある。葡萄の棚など、果樹の栽培設備も同様である。ドカ雪の年ほど全国各地でこのような事象が多い。
表2-1はその一例で、農業を営むウェザーリポーターから送られてきた写真付きリポートである。積雪による、家屋や農業用ハウスの倒壊を伝える写真付きのリポートが多く届き、2012年冬の積雪量が、地域によっては記録的なものであったことがわかる。 また、積雪による根雪期間が長いと、光合成の停止に伴う生長障害や湿潤に伴う雪腐病や菌核病などの病害、果樹の枝折れ発生など、さまざまな影響が出る。
表2-1 農業用パイプハウスや家屋の倒壊を伝えるウェザーリポート
低温と日照不足も、果樹等の品質への影響や、栽培コストの上昇を引き起こす。晩柑類は通常の温州みかんに比べて果皮が厚く低温に強いものの、氷点下の低温に長時間さらされると苦みが増し、商品価値の低下を招く。
ハウスで野菜などを栽培する農家の多くは、ビニールなどの被覆資材を二重三重にしたり、内部に暖房施設を準備するなどして、寒波が襲来しても、ハウス内の温度を一定以上に保つための工夫をしている(表2-2はその一例のリポート。寒さが本番を迎える11月にその対策を実施)。しかし寒波が強い年は、このような対策にもかかわらずハウス内の温度低下が著しく、ストーブや暖房などによる人為的な加温を余儀なくされる。2012年の冬は、特に燃料費高騰によるコスト面での負担が農家を圧迫した。
また表1-1の熊本や鹿児島の事例で示すとおり、2012年は2月の日照時間が少なく、気温も低かったため、ハウス内部の温度が上がらず、暖房費用を押し上げ、農家に多大なコストを強いる結果となった。
表2-2 ウェザーリポートとして報告されてきた寒波に対応するための設備対策
さらに、表2-1のリポートコメントに、ハウスの倒壊が「積雪」だけではなく「強風」によるものである旨も記載されている。「積雪」「強風」双方のリスクをもたらす「暴風雪」には最大級の注意が必要である。
3.冬の農作業あるいは農業施設対策への気象情報の利活用
最近は農業用ハウスの性能が上がっており、基礎固定や被覆資材の質的向上により、強風や積雪による被害は以前より少なくなってきた。ただし従来型のパイプハウスの場合、強度は盤石とは言えず、多くの気象現象に対する備えが必須である。また、大量の積雪が予測される場合、果樹の積雪加重による枝折れを防ぐには、定期的な雪おろしが必要となる。
【積雪対策への参考情報】
冬期の雪は、北海道・東北の日本海側のように、毎日のように降るところもあれば、東日本~西日本の太平洋側のように、南岸を低気圧が通過するような状況でなければ滅多に降らないところもある。少雪地域で湿った雪が大量に降る場合、重みに耐えきれずに、ハウスが倒壊することがある。また、多雪地域でも、豪雪となればその可能性は高まり、そこに強風が加われば、さらにリスクは高くなる。降雪データ専用観測機の設置地点が限定されているため、実況データの配信箇所が少ない。よって、以下を活用すると便利である。
(1)ライブカメラやウェザーリポートによる雪に関する実測データ
農地周辺に設置してあるライブカメラ映像や、ウェザーリポーターが全国各地から送ってくるウェザーリポートをみながら、降雪の現況を把握し、ハウスへの積雪の可能性を逐次判断する方法。(表3-1参照) ただし、「すでに降り始めた段階」での発見になるため、対応行動が遅れる可能性が高い。確認した場合でも、夜間就寝中などは対策が難しいため、取れる対策は限定されやすい。
表3-1 天気予報Ch中のピンポイント天気メニューコンテンツ画面
(2)降水有無と気温の予想データの組み合わせ
積雪観測のデータが周辺にない場合、田畑など農地周辺の観測所における降水の有無(あるいは降水量)と気温の予測データを参考にしながら、積雪の可能性を判断する方法。具体的には、降水が観測され、かつ予想気温が0度に近づくような場合は、降水が雪になる可能性を考慮し、雪おろしや融雪などの対策措置をとる。対象となる予測データ自体は、「天気予報Ch.」のピンポイント天気メニューから、近隣の駅や住所などを入力することにより検索できる。(表3-2参照)
表3-2 天気予報Ch中のピンポイント天気メニューコンテンツ画面
【低温および日照不足対策への参考情報】
冬の低温や日照不足は、冬期の気温の推移や晴れ間がでる期間が地域で違うため、各地で、その気象特性にあわせた設備の工夫や対策を行っている。特に日本海側では、海を渡ってきた水蒸気を多量に含んだ空気が、陸地にぶつかることによってもたらされる降水(雪や雨)や、その周辺の雲の影響により、日照時間が短いことが多い。よって、無加温の農業用ハウスでは、さほど気温は上昇せず、暖房用燃料を多く必要とする。このため、単に気温の予想データだけではなく、日照の有無や継続時間などを参考に、暖房の稼働を決定する農家も多い。
気温は、表3-2で示すようなデータや市販の気温計の利用など、実況・予想データとも広く得られることが多い。ただし日照は、アメダスの日照時間などで大まかな実況確認ができるものの、局地的な日照状況を把握することは難しく、限られた日照に関する観測データから、数kmのメッシュ単位で推定値(解析値)を計算し、提供している営農指導機関や、統計的に活用している農家もある。
このように冬期に作物を順調に育てる上で、コストを抑えながら、施設内の生育環境を少しでもよくしていくことは、農家にとって大きなテーマの一つである。発表されている気象データをうまく活用するほか、自らさまざまなデータを観測し、経験則とあわせて的確に判断することで、有効な農作業を行ってほしい。(了)
(株)ウェザーニューズ 栽培気象グループ 気象予報士 1989年入社。予報センターなどを経て、2010年より栽培気象グループ。生産者向けコンテンツを携帯電話などで提供中。