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2013年4月18日
梅雨期の農作業への利活用
(株)ウェザーニューズ 梅田 治
1.梅雨時期の天候
6月~7月を中心に日本付近に停滞する前線の影響により、北海道など一部地域を除き、全国的に一年の中で雨の多い日が続く。この時期は梅雨(つゆ)と呼ばれ、1年の中で春夏秋冬の季節に準ずるような、特徴的な天候が現れる時期である。
梅雨は、オホーツク海方面に張り出す冷たく湿ったオホーツク海高気圧と、太平洋上の暖かく湿った太平洋高気圧の、それぞれの気団の境目に梅雨前線が形成され、両者の力の均衡の中で、前線が停滞して発生する。前線周辺の地域で、降水が継続的かつ多量にもたらされるのが特徴である。
梅雨が長引く年は太平洋高気圧が弱く、梅雨前線が本州の南岸付近に停滞し、北上しないことが多い。前線に向かってオホーツク高気圧からの冷涼な気流が吹き込んで、東北地方の太平洋側を中心に、低温をもたらす可能性も高くなる。東北地方では「やませ」と呼ばれ、梅雨期に限らず夏にかけても岩手県や宮城県、福島県の太平洋側を中心に、広範囲に大きな被害をもたらす。1976年、1980~1981年、1993年、2003年 などは冷夏が顕著な年であり、農作物に大きな被害が出た。
梅雨期の典型的な気圧配置図は、図1に示したとおりで、このような気圧配置が予想される場合には、梅雨前線付近では大雨に注意が必要である。また図2に示すように、日本の南海上に台風が現れた時は、湿った空気が太平洋高気圧の周りを時計周り方向に梅雨前線に向かって流れ込むことが多く、しばしば台風とは離れた梅雨前線付近の各地に大雨をもたらすことがある。梅雨前線が同じ場所に停滞し、強い降水を継続させることにより、田畑の冠水など農作物はもちろん、耕作地自体にも大きな被害をもたらすことがある。
一方、太平洋高気圧の勢力が強い年は、6月後半から西日本~東日本では暑い日が多くなる。梅雨前線が早々と北に押し上げられ、太平洋高気圧圏内に入り晴天をもたらすためで、2011年のように梅雨が早めに明ける年の特徴である。
図2 日本の南海上の台風が、梅雨前線付近に強い雨をもたらす例
2.作物への影響
梅雨の時期は、トマトやナス、キュウリやゴーヤなどの露地栽培の果菜類中心とした野菜の生長の時期と重なる。また稲作においても、田植えが終わり、苗が生長する期間であり、大豆などは植え付けの時期となる。天候が作物の病気の発生有無や、収穫時期・出来とも関わってくる非常に大事な時期であり、植え付け作物の種子や苗の大小によっては、降水強度が、順調な生育に大きく関わってくる。また、麦はこの時期に収穫を迎える地域も多く、作業の日はもちろん、その前後の雨の有無やその継続日数なども、品質に影響する非常に大きな要素である。農作業の計画策定上、当日および、向こう一週間程度先までの気象情報の収集は欠かせない。
この時期、最も注意すべきは、大雨による被害である。大量の降水や短時間の局地的な豪雨は田畑の冠水を招き、特に生長初期段階の野菜や水稲に大きな被害をもたらすこともある。冠水は長引けば作物はもちろん、畑の畝や水田など耕作地ごと流出の事態も考えられ、深刻な被害につながりかねない。
また、雨が続くと日照不足にもつながりやすく、加えて多湿の条件が多くの作物に影響をもたらす。稲の葉に病班を作り、穂首が黒褐色などに変色する「いもち病」が代表的で、古くから多くの米農家を悩ませている。
表1は、前号でも紹介した「ウェザーリポート」(サポーターと呼ばれる会員からの投稿)から抜粋した、2009年~2011年梅雨期の天候に影響を受けたことを伝える、全国各地から寄せられた野菜や米の被害リポートの一例である。
上段は2011年の大雨による畑の冠水被害のリポートである。ここ数年に限っても、梅雨前線の活発化により各地で豪雨被害が発生しており、その一例である。中段は梅雨期の長雨による葉イモチ病の発生を報告するリポート、下段は同じく長雨によるジャガイモやネギの被害を報告している。作物によって発生する病気の種類や現象はさまざまだが、長雨は病気の発生を促す要因であることがわかる。
表1 短時間強雨による冠水(上段)や梅雨の長雨による病気(中段・下段)のリポートhttp://weathernews.jp/
一方、適度な降水と晴天を繰り返す安定した日には、この生長期に日々変化する元気な作物の表情を報告するリポートが増え、楽しみを感じる時期である(表2は生長リポートの一例)。
表2 梅雨時期の野菜の生長リポート http://weathernews.jp/
3.梅雨対策への気象情報の利活用
適度な降水は、野菜や果樹・稲の生長に有効だが、梅雨期には、以下を対策の参考にしてほしい。
ア、短時間強雨
田畑の冠水をもたらすような、短時間に降る大雨のことである。梅雨前線や台風の位置である程度発現の予想がつくものと、「ゲリラ雷雨」と呼ばれる一見予測がしにくい局所的な強雨など、さまざまな要因によるものがある。前者は天気図の気圧配置型が、表1、表2で記載したようなパターンの場合が多い。居住地が梅雨前線周辺、あるいはその前線上を進んでくる低気圧の近隣にかかっていないかに注意することが必要である。
特に南海上の「台風」や、その卵である「熱帯低気圧」がある場合、大量の雨を継続的に降らせる可能性が高く、注意が必要だ。もちろん、梅雨時期に台風が襲来することもあり、その場合は強雨対策に併せて、ハウス倒壊防止や支柱の補強など、風への対策も必要である。
また「ゲリラ雷雨」は、天気予報で使われる以下の言葉に注目してほしい。
●湿った空気の流入
●上空の寒気
●日中の猛暑
これらの条件が揃う地域では、ゲリラ雷雨の可能性が高まる。また、田畑の周辺から見える雲の、次のような状況にも注目し、他の気象情報とあわせて、以後の強雨の有無を判断してほしい。
●底の色→黒いほど強い雨になる(雲が厚い=光を通さないので黒くなる)
●高さ→高い(厚い)ほどその直下では大雨。接近してくると注意
●鉛直方向への成長→著しいほど雨が強まる傾向
鉛直方向に急速に成長するモクモクした積乱雲は、直下で激しい雨を降らせ、かなり局所的な降水がもたらされることが多い。事前の排水路の清掃や整備はもちろん、各栽培施設の補強等の対策が望ましい。
次に、降水に関わる気象データの一例である。
表3 局地~広範囲で強雨に関する情報を把握することができる情報
いずれの情報も、インターネットや携帯電話で見ることができる。ゲリラ雷雨情報は盛夏期限定のサービスとなる(有料)。
イ、その他
梅雨時期によく見られる気象的特徴で、作物への影響を及ぼしやすい項目は次のとおりである。
○日照不足
○多湿
○低温(特に東北〜北海道の太平洋側)
表3で示した実況の地上観測点情報を見ながら、日々の対策はもちろん、これらの現象により、発生が予測される病害虫や生育不良を回避するため、事前に発表される中長期予想なども有効に活用する。これらの情報は、気象庁や民間気象会社から発表されており、自分の地域の予報を参照しながら、当該年度の農作業計画を策定することが望ましい。図3は、高温、低温など顕著な気象現象の発生が予想される際に、早期に発表される「異常天候早期警戒情報」の例である。ただし、中長期の予想については、まだまだ予測精度的な問題もあるので、最新の情報と組み合わせて活用したい。
図3 異常天候早期警戒情報<気象庁ホームページより抜粋>
田畑における対策の詳細は、国や県や地方など地域ごとの農業機関から発表される農作物の栽培技術対策なども参考にしてほしい。(つづく)
(株)ウェザーニューズ 栽培気象グループ 気象予報士 1989年入社。予報センターなどを経て、2010年より栽培気象グループ。生産者向けコンテンツを携帯電話などで提供中。