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2007年5月 9日
3.農村地域での加工とは
青山浩子(農業ジャーナリスト)
「加工場を作ろうと思っているんです」――。農村を取材すると、行政の人からこうした話をよく聞く。市場出荷の場合、規格からはずれる農産物はまともな値段がつかない。また、好天候が続き豊作になると、途端に売り先に困るというケースもある。こんな時、加工部門を持っていれば農産物を無駄にすることなく活用できる。
一方、農業以外の産業からも、加工への関心が高まっている。最近、“農工連携”あるいは“農工商連携”という言葉を耳にする機会が増えたが、地域内の産業の枠を超え、新商品を提供していこうという動きが活発化している。いままで他産地から原料を調達していた食品加工メーカーが差別化を図るために、地元の食材に着目し、新商品を開発したというケースもある。
そうした背景もあって、取材中も加工のことが話題によくのぼる。「どんなものを加工したらいいか」、「どうしたら成功すると思うか」などと逆に質問されることもある。コンサルタントではないので的確な答えはできないが、実際に取材した事例から、産地が加工に取り組むポイントとしてこんなお話をさせてもらう。
まず一点目が、質の高い原料を使うことだ。
かつて「加工用に回す」というと、青果用に出荷できないものを加工に使うというイメージだったが、加工メーカーにいわせると「その商品が売れるかどうかは原料の質で決まるといってもいい」という。
農事組合法人和郷園(千葉県香取市)は、2003年から野菜の冷凍工場を運営している。
工場を建てるにあたっていちばん時間をかけたのが、素材選びだったという。
多くの消費者は「冷凍野菜は便利だが、まずい」という印象を持っている。「これを払拭するには生食用ほうれん草と同じぐらいおいしくないとまず買ってくれない」。こう考えた和郷園は、冷凍・解凍という過程を経ても味のいい品種選びから始まり、生産者には土作りをしっかりしてもらうなど質の高い原料づくりをもっとも重視した。その結果、生協や外食で支持される冷凍野菜を提供できるようになったという。
二点目は、安全性への配慮である。
生食用であろうが加工品であろうが、消費者にとって食の安全は普遍的なニーズだ。一定期間保存するには商品によっては保存料、添加物を使わざるを得ないだろうが、最小限にとどめたい。原料の段階でも安全性が求められることはいうまでもない。
三点目に、自ら加工場を運営するなら、稼働率を上げる方法を最初から考えておくということだ。
和郷園の場合、工場を年間稼働できるようにするにはどういう作物を作ったらいいかを考え、ほうれん草、小松菜、枝豆、スイートコーン、ヤマトイモなどでリレーするようにし、工場が休まないように組み立てたという。つまり、生産計画と同時に販売計画も立てていくことになる。「この時期しか出荷できません」となると、売る側も売りにくい。稼働率を上げることは、産地にとっても販売先にとっても不可欠な要素である。
こうしてみてみると、加工部門への進出は事業拡大のチャンスでもあるが、同時にリスクを背負うということでもある。できるだけリスクを減らすにはどうしたらいいか。
こんな事例がある。熊本県山鹿市の(株)パストラルは、地元の野菜、果物を原料としたアイスクリーム「産地アイスクリーム」を製造する企業だ。直売所や生産者から「この野菜でアイスクリームを作って」という依頼を受けると、最低75個という小ロットから製造している。
パストラルの市原幸夫社長は「中小企業と生産者が連携すれば、新たな市場ができる」と話す。つまり、酪農家が自らアイスクリームを作るケースが多いが、一度に作れる個数は限られている。一方、大手メーカーは大工場、施設を持っているだけに、大量のロットでないと製造ができない。実際にパストラルが作ったアイスクリームは、地元のホテルやレストラン、観光施設で好評だという。
鳥取県八頭町の(有)田中農場は米、豆類を中心に作る法人だが、地元の老舗のメーカーと組んで作ったみそ、餅が消費者に好評だ。最近では豆腐メーカーと組んで納豆、豆腐、豆乳づくりにも乗りだした。田中正保代表は「加工のプロの手にかかるとさらに商品が磨かれる」と話す。
どの地域にも高い技術力やアイデアを持った企業、加工場が存在している。原料の製造から加工、販売まですべて産地が責任を負うのではなく、そうした企業の力を借り、まずは実験的に加工品を作ってもらってどうか。その上で生産者自らが加工施設を持つかどうかを決断しても、決して遅くはない。(了)
(月刊「日本の農業」2006年12月号(全国農業改良普及支援協会発行)より転載)
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1963年愛知県岡崎市生まれ。京都外国語大学卒業。JTB勤務、韓国留学後、(株)船井総合研究所等で農業コンサルに携わり、99年フリーに。著書に「『農』が変える食ビジネス」(日本経済新聞社)など。