ヒゲ親父が語る天敵の話 【6】
2008年09月22日
無視できない虫のカビ
山中 聡
生産者の集まり等で、さまざまな地域でIPM(総合的病害虫管理)の話をする機会があります。
その際に、「害虫の体にカビが生えて死ぬんです!」というと、以前は想像もつかない話だったようですが、最近は、施設園芸を行っている農家には通じるようになってきました。皆さんは、想像できますか?
写真 :白くカビが生えたアザミウマ
自然界では、いろいろなものを栄養にして生活している微生物が、無数に存在しています。
植物の葉を栄養とするカビは、病原微生物として、悪役で登場します。しかし、害虫の体を栄養とする昆虫病原性のカビ達を利用すれば、自然の力を利用した、生物的防除ができるのです。
種類の違いによって、害虫の体の成分はさまざまです。このため、アブラムシ類に繁殖するカビ、コナジラミ類に繁殖するカビ、コガネムシの幼虫に繁殖するカビ等、カビの種類にも違いが出てきます。
害虫を栄養とするカビに共通するのは、カビの胞子が害虫の皮膚に付着し、菌糸が皮膚から体内に侵入、そして栄養分を吸収して虫を殺すということです。このとき、カビの胞子が発芽するには、十分な湿度が必要となります。同様に、適度な湿度と温度が保てる条件であれば、昆虫病原性のカビを有効成分とする、微生物殺虫剤の効果は高くなるのです。
図 :昆虫病原性のカビの働き
生物農薬として効果が期待される昆虫病原性のカビには、ボーベリア菌、バーティシリウム菌、ペシロマイセス菌、メタリジウム菌などがあります。
特に、現在市販されているボーベリア菌(ボタニガードES)、バーティシリウム菌(マイコタール、バータレック)は、多くの作物栽培に利用されています。特に、捕食性カブリダニや、寄生蜂による害虫防除のときには、効果を補完するために、天敵昆虫に影響のない、これら微生物殺虫剤を併用することを推奨しています。
ただのカビも使いようです。このようにIPMに利用することで、化学農薬の使用を少なくし、害虫が薬剤抵抗性を獲得しないようにするのに役立っているのです。
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やまなか さとし
東京生まれ、横浜育ち。農学博士。
農薬メーカー研究所にて各種生物農薬の研究開発に従事。
現在、アリスタライフサイエンス(株) IPM推進本部 開発部長