提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


ぐるり農政【128】

2017年11月28日

安倍農政がまかり通るわけ

ジャーナリスト 村田 泰夫


 安倍農政は農協には評判が悪い。全国農協中央会(全中)を農協法上の組織でなくしたり、農業分野の総合商社である全農の業務の細部にわたって口ばしをはさんだり、コメの生産調整(減反)のやり方を見直したり、このところの農業改革のすべてが、農協の意向を汲まずに進められてきた。「怒髪天を衝く」と表現した方が農協の怒りの実態に近い。


 「安倍農政」とは、官邸主導でさっさと決めてしまう農政である。これまでの農政は、所掌官庁である農林水産省が中心になって企画立案し、食料・農業・農村政策審議会にはかり、その答申を経て、農政の根幹が決められてきた。ところが、「安倍農政」は、官邸に置かれた首相の諮問機関である規制改革推進会議が、いきなり問題提起し、数回の審議を経て規制改革案を閣議決定し、それを実行する形になっている。農水省は完全にスルー(通過、無視)されている。


murata_colum128_2.jpg 安倍農政に農協が反発するのは、その「急進的な改革案」の内容だけではない。「規制改革推進会議を構成するのは素人ばかりで、農業を知らない経済界や新自由主義学者たちだけで決めている」として、その政策決定過程にも異論をはさむ。

 これまでだったら、農水省の審議会の委員になっている農協の代表者が審議会の席上で徹底抗戦し、答申文を農協の不利にならないように書き換えることができた。改革の意思が農水官僚たちにあったとしても、農協の抵抗で腰砕けになっていた。しかし、安倍農政では、規制改革推進会議で農協の説明する機会が1度あるぐらいで、事実上、農協の意思はまったくと言っていいほど無視されてしまう。

 農協が怒る気持ちはわかるが、第2次安倍政権の誕生時、農政の政策決定の仕組みが官邸主導型に変更されていることに、私たちは注目しなければならない。


 2012(平成24)年12月の総選挙で自民党が勝利した。安倍政権の誕生直後、アベノミクスの成長戦略を担う産業競争力会議と規制改革会議(後の規制改革推進会議)ができた。TPP(環太平洋経済連携協定)への日本の交渉参加が認められたすぐあとの2013年5月21日、「農林水産業・地域の活力創造本部」が官邸に設置された。安倍首相を本部長とし、官房長官と農水相を副本部長とする、内閣挙げての組織である。農林水産業の振興は極めて重要なので、「政府一体となって包括的な検討が必要」というのが、設置の狙いである。

 このことに異論があるはずもない。創造本部の設置に反対する声は、当時の農協内には皆無だった。この創造本部が「農業政策改革のグランドデザインを決定」し、そのシナリオに沿って農水省が政策を実行することになったことに、農協はもっと注意を払うべきだった。農業改革のグランドデザインの決定権を官邸に奪われてしまったからである。


murata_colum128_4.jpg 2017年7月まで食料・農業・農村審議会の会長を務めていた生源寺真一氏(福島大学教授)は、同年1月に開かれた同審議会企画部会で、次のような趣旨の発言をしている。「報告のあった競争力強化プログラムは、この審議会と密接に関連する項目が含まれているが、こうやって決まったと今、聞いているだけで、われわれは責任を果たすことができなかった」「強化プログラムの項目で、われわれが策定した基本計画にも書かれているのは飼料用米だけで、あとはまったく書かれていない」


 1999年に制定された食料・農業・農村基本法は、5年ごとに基本計画を策定し、それに基づいて農政を推進することとしている。米国の農業法はおおむね5年ごとに改定されていて、わが国でも基本法を5年ごとに変える案があった。でも5年ごとの基本法改定は現実的でないということから、当面の重要な農政課題を5年ごとに策定する基本計画に盛り込み、農水省がそれに沿って取り組むことにしたのである。だから、基本計画が極めて重要で、それを策定する食料・農業・農村審議会も格上の審議会と位置づけられてきた。

 ところが、全農改革、コメの生産調整の見直し、収入保険の創設、食品の原料原産地表示の全面義務化、加工原料乳の補給金の支給対象の見直しなど、これまで懸案とされながら審議会では手を付けられなかった問題が、官邸主導で決められた競争力強化プログラムの中に盛り込まれ、審議会には事後的に報告されたのである。


murata_colum128_1.jpg 農水省の審議会には農協など利害関係者が名を連ね、改革すべきことも既得権益を守る利害関係者の強い発言で前に進まない。つまり審議会が機能不全に陥っているという側面もあることだろう。であるなら、審議会から利害関係者を除くのも一案である。審議会会長が「責任を果たせなかった」と発言したのは、自虐なのか、それとも官邸への当てつけなのか、わからないが、無念であったことは間違いないだろう。


 官邸主導の安倍農政の内容についてきちんと検証する必要があるが、それはともかく、その決定過程に不透明さが残る。このことが禍根を残さないか気にかかる。一連の農業改革案は短時間で成案を得ている。規制改革推進会議の委員や事務局である内閣府の担当者だけで、まとめられるとは考えられない。おそらく農水省の担当部局と事前に調整していることであろう。どういう考え方で、どういうやり取りを経て成案を得たのか、きちんと情報を公開すべきであろう。(2017年11月24日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。