提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


ぐるり農政【119】

2017年02月27日

「2019年=1兆円」目標達成に黄信号

ジャーナリスト 村田 泰夫


 農林水産物の輸出が急減速している。2016(平成28)年の輸出額は、7503億円だった。4年連続で過去最高を更新したとはいえ、前年比ではわずか52億円、0.7%増えたにとどまった(図)。15年までの3年間は年率14~24%も増えてきたから、急ブレーキがかかったことになる。


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 安倍晋三政権はアベノミクスの成長戦略の一つに農林水産物の輸出を掲げ、「2019年に1兆円」という目標を設定している。あと3年で約2500億円上積みしなければならない。かなりの力わざが必要で、大目標達成に黄信号がともった。


 輸出額を分野別に見ると、加工食品を含めた農産物が4595億円で、前年比3.7%増えた。林産物も268億円で1.9%増と、わずかだが増えた。これに対し、農林水産物輸出全体の35%を占める水産物が2640億円と、前年より4.2%も減った。水産物が減ったのは、水産物輸出の中で大きな割合を占めるホタテ貝が7.2%も減ったことが響いた。14年末にオホーツク海を襲った低気圧の影響でホタテの稚貝が大量に死滅し、漁獲高が激減した。価格も高騰、輸出したくてもモノがなかったのだ。


 農産物に限ってみると悲観ばかりではない。先行き明るい動きがみられる。牛肉(和牛)、緑茶、日本酒の輸出の伸びが大きいのだ。牛肉は136億円で前年より23%増えた。6年連続で最高記録を更新した。とくに香港向けは33%も増えた。米国向けも24%増えた。日本産の牛肉は富裕層の間でとくに人気で、今後の伸びも期待できる。

 和食ブームに乗る緑茶も、116億円と前年より14%伸びた。日本を訪れた外国人が緑茶の味を知り、帰国してから注文する例が目立つという。とくに「抹茶」など高級な緑茶に対する需要が増えているのが、近年の特徴だという。また、これまで市場としては未開拓だった欧州への輸出が増えている。健康志向の高まりも緑茶ブームを支えている。


murata_colum119_3.jpg もう一つ、気をはいているのが日本酒の輸出である。16年は156億円で、前年より11%増えた。海外に日本食レストランが増えているが、とくにすし屋などでは料理と一緒に日本酒を提供する店が増えている。

 一方、これまで主力商品だったリンゴは、133億円とがんばったが、前年比だと1%減った。太玉は日本の独壇場だが、小玉は米国産などと競合する。その米国が豊作で、小玉市場で苦戦を強いられた。また、北海道・十勝産のナガイモは26億円と3%減った。昨年夏に十勝地方を襲った台風と水害で生育が遅れ、輸出量が減ってしまった。リンゴとナガイモは、気象条件などが改善されれば、再び増勢に転じるものと期待される。


 輸出金額はまだわずかだが、今後、主要な輸出品目に育っていくのではないかと期待できる農産物がある。果物のブドウでありイチゴである。ブドウの輸出額は、まだリンゴの6分の1でしかないが、昨年は23億円と前年より50%も増えた。イチゴは11億円だが、前年比だと35%も増えた。日本産のイチゴは甘みが強く、とくにアジア地域の富裕層に大人気でブームを起こしている。ブドウは甘いのはもちろん、種がなく皮ごと食べられる「シャインマスカット」が人気で、とくにアジア諸国から引き合いが強い。


murata_colum119_2.jpg とはいえ、農産物全体の輸出額は4%しか増えていないし、農林水産物全体では、わずか1%足らずの伸びでしかない。主力商品としてもっと増えていいはずのコメは、前年比21%増えたといっても、まだ27億円である。高い伸びを示してきた農林水産物の輸出は「失速」したといっても過言ではない。

 改めて、輸出戦略を練り直す必要があろう。例えばコメ。香港市場で日本産米は1kg=900~1900円で売られている。国内のスーパーでは新潟コシヒカリは1kg=200円内外である。いろいろな手続き、費用、輸送費などがかかるとしても、輸出市場での価格は高すぎやしないか。しかも、今なお産地間競争が激しい。独自のブランをひっさげて、各産地が足を引っ張り合いながら輸出市場で競い合っている。日本産米を継続的に売り込む品目別輸出組織が機能していない。


 政府は昨年11月の「農業競争力強化プログラム」に、「戦略的輸出体制の整備」を盛り込んだ。現在は数の少ない国産牛肉の輸出用食肉処理施設を全国数カ所に増やしたり、空港や港に近い卸売市場を農林水産物の輸出拠点として整備したりすることにしている。ハード面の整備は進むだろうが、輸出増加のカギは農業者の意識改革である。市場の開拓には手間と時間がかかるが、開拓さえすれば輸出市場は安定的で魅力的であることを、農業者に知ってもらうことが大切である。(2017年2月20日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。