提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


ぐるり農政【118】

2017年01月24日

加工食品の原産地表示

ジャーナリスト 村田 泰夫


 昨年11月末に決まった「農業競争力強化プログラム」で、すべての加工食品の原料について、原産地表示が義務づけられることになった。農業資材の価格引き下げなど「全農改革」に世間の目が奪われ、加工食品の原産地表示問題は脇に追いやられていたが、すべての加工食品の原産地表示が義務化されたことは、画期的な政策転換である。

 消費者は、加工食品の袋などに印刷された原産地を確認して商品を選択できるようになる。食品の安全・安心に関心の高い消費者は国産品を選ぶ傾向にあるので、原産地表示の義務化によって、国産の農水産物や食料品への需要が高まるのではないか。そんな期待から、この政策転換は、TPP(環太平洋経済連携協定)によって安い外国産農水産物が国内に大量に流入するのを防ぐねらいから導入されることになった。TPP対策になるかどうかは別にして、消費者が食品を選択する際の情報が増えることはいいことだ。


murata_colum118_2.jpg 現行の制度によると、食品表示法により生鮮食品は原産地の表示が義務づけられている。しかし、加工食品については、乾燥キノコ、緑茶、こんにゃくなど加工度の低い22食品群と4品目について、重量割合1位の原材料の原産地名(国産品)や原産国名(輸入品)の表示が義務づけられているだけで、それは全体の約2割にとどまる。

 農水省と消費者庁の検討会や自民党内で、表示義務の拡大について議論されてきたが、なかなか結論が出なかった。対象商品の拡大を主張する消費者団体と、表示義務化によってコストが増えるとして消極的な食品メーカーとの調整が難しかったからである。


 そこに割って入ったのが、自民党農林部会長に就任した小泉進次郎氏である。「消費者は何を望んでいるかという観点から原産地表示問題に取り組んだ。その結果、すべての加工食品を対象とすることにした。党内に異論はなかった。みんながタブーだと思っていたことが、実際はタブーではなかったということだ」。そしてこうも言う。「農政の世界には、壊さないといけないタブーがいっぱいある。それが私の役割かな」


murata_colum118_1.jpg 小泉氏によれば、従来の検討の延長線上で考えれば、加工食品の原産地表示問題は、現行の22食品群+4品目に、あとどれだけ上積みするかといった数量の攻防に終始しただろうという。表示義務の対象品目は、当初は8品目だったが、それが20食品群に広がり、現在の22食品群+4品目になった。食品の一つひとつを検討していくと、難しい問題があって、いくら時間があっても足りない。

 そこで小泉氏は、まず「100%対象とする」ことに踏み切った。そのうえで「実行可能な表示方法を検討することにした」。こうしたやり方でないと、ブレークスルー(革新的な解決)はできないものだ。


 昨年11月末に決まった表示方法によると、個別商品の事情を棚上げして、「100%対象」を前提としたため、不都合なことが起きることになった。加工食品に使われる重量順位1位の原料は、1カ国のものを使っているとは限らない。たとえば、国産のものを主に使っているが、米国産を混ぜて使っていることもある。その場合は、重量順に「国産、米国」と表示する。


 たびたび産地を切り替えることだってある。たとえば、通常は国産のものを使っているが、価格が高騰した時は米国から輸入したものを使う場合である。そのつど、容器や包装の印刷をやり直すのはメーカーにとって大きな負担となる。そこで、たとえば「国産又は米国」とか「A国又はB国」と表示することを認めることにした。3つ以上の外国から輸入する原料を使い、しかも産地の切り替えがたびたびある場合は、原産地である国名を表示せずに、単に「輸入」でもいいことにした。さらに国産品も使う場合には、「輸入、国産」という大くくり表示も認めることにした。


murata_colum118_3.jpg 「『輸入』だけではどの国かわからない」、「『輸入、国産』という表示は、ひどい。輸入品かもしれないし国産かもしれないとは、表示していないと同じこと」。こんな反発と不満が消費者団体から噴出した。まったくその通りで、不満は理解できる。

 だからといって、事情のある一部の加工食品について、原産地表示の義務を外したら、食品メーカーから要請が殺到して収拾がつかなくなるであろう。ともかく「100%対象」とすることでスタートし、「実施可能な方法」ということで、かなり甘い表示方法でも認めてやってみれば、おのずと妥当な着地点が見えてくるのではないか。


 たとえば、「国産又は輸入」という表示。スーパーで食品を手にした消費者は「これではわからない」と、いぶかしがることだろう。どこの原料を使っているかわからないと思った消費者は、買い物かごに入れないかもしれない。そんなことで、売り上げが伸びなくなれば、食品メーカーは原料の調達方法を変更するなどの対応策を考えざるを得なくなろう。

 あるいは、商品の包装紙には「輸入」と印刷しても、自社のホームページ上で詳しい具体的な輸入先を開示するメーカーが出てくる。さらに、原料の原産地表示義務化は、食品メーカーにごまかしを許さないけん制効果を発揮する。スタート時には不十分な仕組みと言わざるを得ないが、今後の改善を期待して見守りたい。(2017年1月16日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。