提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


きょうも田畑でムシ話【46】

2017年01月11日

ここ掘れワンワン?――アフリカマイマイ  

プチ生物研究家 谷本雄治   


 世の中にはマカフシギな出来事がある。しかも、農業に関連するものが。
 有名なのが山の芋がウナギになるという話だ。
 そんなことあるめい、と思うのは現代人だからで、むかしの人はそう思わなかった。だから、「山芋変じてウナギとなる」という表現が生まれた。めったにあり得ないたとえとして使われる。


 『徳島新聞』の前身である明治4年(1871年)発行の『普通新聞』は、前半分がウナギ、後ろ半分が山芋というウナギ芋が見つかったと報道した。150年ほど前のことだが、いまは100歳まで生きる人が珍しくない時代であることを考えると、つい最近といってもいいころのことである。

 仮にも新聞記事だから、信じる人も多かったのだろう。それを裏付けるように、記者が専門家にたずねたところ、当たり前のことで珍しくもないというようなコメントを出している。そのころの新聞記事は眉に唾しながら読むくらいのものだったから何割かは差し引かないとだめだが、それにしても、畑の山芋とウナギは密接な関係にあったといえる。


tanimoto46_1.jpg 同じように、カブがウズラになるとか、スズメが海に入ってハマグリになる、タカがハトに化けるといった例がいくつもある。なかでも有名なのが七十二侯のひとつにもなっている「腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)」であろう。科学的にはあり得なくても、古人の知恵として現代につながっている。
 だとすれば、山芋がウナギになるくらいなんでもない。
 漢字の「鰻」をよくよく見れば、魚へんに「曼」とある。曼の頭にくさかんむりをかぶせたら、「蔓」となる。
 蔓は長い、長いは芋となり、長々としたものを連想させる。山芋をすってとろろにすれば粘りが出て、ウナギ同様に精がつく食べ物とされている。だから山芋とウナギの合体したものがあってもなんら不思議ではなく、当たり前のことであったのだろう。
左 :掘り出したばかりの山芋。もしかして、ウナギの頭はちょんぎれた?


 ところが、まさにここからが本題ともいえるのだが、畑からヤドカリが出てきたら、それはなんとする。
 「山芋なら〝山のウナギ〟とも呼ばれるスタミナ食品だべ。しっかし、ヤドカリがなんで畑に生えるんだ? おかしいべ」
 ごもっとも。これこそ「山芋変じてウナギとなる」以上のミステリーだ。
 それが十数年前、本当に起きた。新聞記事になったかどうかは知らないが、生物を扱う研究者の間でちょっとした話題になった。

 仮にも専門家たちのやりとりだ。見つかったのが海から離れた福島県の農地で、しかも体長20センチもあったから、事は穏やかではない。
 「まさか海のヤドカリではあるまい」
 「だけど、南方系のオカヤドカリが寒冷地で生息できるとは思えないよ」
 などといろんな意見が出た。そして実物を見た専門家が最終的に、「アフリカマイマイの殻に入っていたムラサキオカヤドカリだ」という同定結果を下した。
 アフリカマイマイもムラサキオカヤドカリも、福島県のようなところで暮らせるものではない。
 ということは誰かが県内に持ち込み、持て余したか逃げ出したかして、くだんの畑に入り込んだものであろうということに落ち着いた。それにしても人騒がせな、いやいや愉快な事件だとぼくは思った。


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左 :いかつい? それともりりしい? 迫力あるアフリカマイマイの顔(といっていいのかな?)
右 :海岸で見つけたオカヤドカリ。これくらいならかわいいものだ


 畑―アフリカマイマイ―オカヤドカリ。
 この三つを結びつけるのは、沖縄県ならさほど難しくない。とくにアフリカマイマイは、畑と密接にリンクする生き物だ。
 名前から想像できるように、アフリカマイマイは外来種である。世界自然保護連盟(IUCN)が定めた「世界の侵略的外来種ワースト100」にも名を連ねる悪名高きカタツムリの一種である。べっこうにも似た模様を持つ茶色の殻に入り、殻高20センチにもなる世界最大級の種だから、初めて目にした人は一様に驚く。

 それが沖縄の畑には、それこそ当たり前のように生息し、夜な夜な現れては葉といい実といい、種子といい、手当たり次第にムシャムシャ、モシャモシャと食らいつく。農作物の畑は彼らにとっての特別なレストランと化し、その被害も甚大だ。
 そんなオソロシイものがいつから沖縄にいるかというと、1930年代初頭だという。いまでは広東住血線虫の中間宿主としておそれられる存在だが、当時は食用目的で、台湾を経由して移入された。戦後しばらくは貴重なたんぱく源として食べられたようである。


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左 :沖縄では当たり前のサトウキビ畑。ここにも当たり前のようにアフリカマイマイがいた
右 :サトウキビの葉陰で休むアフリカマイマイ。日よけのつもりだろうか


 しかし、こぶし大に育って肉の量としてみればけっこうなアフリカマイマイも、食用期間は短かった。かのエスカルゴでさえなかなか定着しないのが日本の食風土だ。ずっとあとになって入ってきた「「ジャンボタニシ」と呼称されるスクミリンゴガイやラプラタリンゴガイもやはり、和製エスカルゴになることはできなかった。
 その結果の畑の害虫化である。


 なんとかしないと、大変なことになるぞ!
 と植防関係者が考えたのはもっともなことであるのだが、現実にはいまも大きな問題となっている。「エスカルゴ」と称する缶詰の中身がこの巨大カタツムリであることも知られている。
 とはいうものの、どこかに天敵がいるはずだ。
 その発想もおかしくはない。誰もが思い浮かべるカタツムリの天敵といえば、マイマイカブリだ。カタツムリの殻の中に細長い頭を突っ込み、うまそうに(かどうかは知るすべもないが)食す。カタツムリをやっつけたい運動推進協議会なるものでもあれば、その会員が手をたたいて喜びそうな正義の味方である。がしかし、アフリカマイマイをやっつけるためにマイマイカイブリを大量増殖させたという話は聞かない。


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左 :カタツムリの天敵といえばマイマイカブリ。こいつはリンゴで飼いならされているようだが......
右 :3本筋の入ったオオコウガイビルとみられるコウガイビル。「オオ」というには小さいね


 ほかにはいないか?
 と思って調べたら、コウガイビルの仲間が食べるようだとわかった。コウガイビルというのは、髪結い用具の笄(こうがい)のような生き物だ。
 わかりやすくいえば、陸生のプラナリアである。しかし、普通にイメージするプラナリアよりはうんと長く、ぬめぬめしていて、おそらくはほとんどの人が嫌うであろう外見をしている。
 コウガイビルはわが家で見たこともあるものだが、沖縄でも目にする。黄色い体に3本の筋が入るところを見ると、オオミスジコウガイビルだろうか。コイツが頑張ってアフリカマイマイを食べてくれれば農家もいくらか安心できるはずなのに、「オオミスジコウガイビルの猛攻に、アフリカマイマイは絶滅寸前!」といったニュースは流れていない。


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左 :在宅中のアフリカマイマイの中に侵入した別種のカタツムリ。追い出されないところをみると、仲がいいのかもね
右 :アフリカマイマイの糞。まさにカタツムリのものだ


 アフリカマイマイは沖縄と同じ亜熱帯の小笠原諸島にも生息する。それを退治しようと放したのが、肉食性カタツムリのヤマヒタチオビだった。そして、いくつかある天敵導入の失敗例のひとつとなった。このカタツムリは父島のアフリカマイマイに打撃を与えながら、それ以外のカタツムリ固有種をも餌食にしてしまったのだ。陸産貝類の1固有種を除き、亡きものにした。

 これはいかんというので、新たに持ち込んだのがやはり陸生プラナリアの一種であるニューギニアヤリガタリクウズムシだった。ヤマヒタチオビを追いやる効果は確かに認められたが、唯一残った固有種も被害に遭うという予想外の事態に陥っている。
 だから天敵の導入は、慎重の上にも慎重でなければならんのだ。
 ――というのは簡単だが、関係者の努力も考えると、なかなかに難しい。


 ここで再びオカヤドカリの登場となるのだが、この冬に沖縄を訪ねた際、泊まったホテルの駐車場の暗闇にうごめく不審な生き物の存在を認めた。側溝の底、散り積もった落ち葉の下をごそごそと這うもの......。
 すわ、ハブか!?
 電灯をつけておそるおそる、おっかなびっくり確かめると、これが巨大なアフリカマイマイだった。
 と思ったのはまちがいで、巨大なアフリカマイマイの殻を背負ったオカヤドカリだった。
 しかも、すぐ近くにもう1個体。


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左 :「すわ、ハブか!?」とおっかなびっくり撮影したら、アフリカマイマイの殻に入ったオカヤドカリだった。それにしてもデカい
右 :アフリカマイマイの亡きがら。こんな殻がオカヤドカリに使われる......にしてはちょっとボロだ


 オカヤドカリがアフリカマイマイを襲うなら頼もしいが、おそらくは死んだものの殻を借りたのだろう。ということはつまり、貸家となるアフリカマイマイの殻があるということでもある。オカヤドカリには悪いが、貸家不足になるくらいが農家にとってはありがたいのだろうと感じたものである。
 苦労したまえ、オカヤドカリ諸君!
 うーん。ハタシテ、コレデイイノカナ?


たにもと ゆうじ

プチ生物研究家・作家。 週末になると田畑や雑木林の周辺に出没し、てのひらサイズのムシたちとの対話を試みている。主な著書に『週末ナチュラリストのすすめ』『ご近所のムシがおもしろい!』など。自由研究もどきの飼育・観察をもとにした、児童向け作品も多い。