飼料作・畜産編【1】 飼料用米
品種・栽培
●収益性を上げるために、10a当たり800kg前後の玄米収量が期待できる多収性品種を選択します。次のような品種があります。
・きたあおば (北海道向け)
・たちじょうぶ (北海道の上川および留萌以南向け)
・みなゆたか (寒冷地北部の冷涼地帯、その他寒冷地の山間地および関東以西の山間冷涼地向け)
・べこごのみ (東北中部以南向け)
・ふくひびき (東北中部以南向け)
・べこあおば (東北中部以南向け)
・夢あおば (東北中南部、北陸および関東以西向け)
・ゆめさかり (東北中南部、北陸および関東以西向け)
・オオナリ (関東以西向け)
・ホシアオバ (東北南部、関東以西向け)
・もちだわら (関東以西向け)
・北陸193号 (北陸、関東以西向け)
・ミズホチカラ (九州の平坦地および温暖地平坦部)
▼(参考)地域に適応した飼料用米の多収性品種
これらの多収品種は、多肥栽培に適しています。主食用と比べて粒が大きいことから、玄米千粒重を見て播種量を調整します。
●温湯浸漬法による種子消毒を行い、種子伝染性病害を抑制します。
●品種の特性を把握して、低コスト栽培に向け鉄コーティングなどの直播栽培や疎植栽培をします。
●栽培は食用水稲と同様に行いますが、玄米収量を高める肥培管理をします。
●窒素施肥量は品種の耐倒伏性に留意しながら、食用水稲の1.6~2.0倍程度とし、分げつ数、穂数をふやすため、3~4回に分けて追肥します。畜産農家と連携して堆肥等を積極的に活用します。
●籾米のまま家畜に給与する場合、出穂期に使用できる農薬が限られています。普及センター等で確認して使用します。
左上 :みなゆたか / 右下 :べこごのみ
左上 :北陸193号 / 右下 :ふくひびき(左)と夢あおば(右)
左上 :オオナリ / 右下 :ミズホチカラ
収穫から調製・加工まで
●収穫は食用水稲と同様に行います。
●収穫後はカントリーエレベータ等で乾燥・保管~籾すりを行い、配合飼料工場へ運びます。加工(破砕・粉砕)したのち、家畜用の配合飼料にします。鶏向けでは加工は必要とせず、乾燥籾、玄米のまま給与できます。
左から上から 籾米の収穫、籾すり、玄米
●牛・豚向けでは利用性を高めるため「破砕等の」加工処理が必須です。
「主な粉砕装置」
左上 :ダブルロールミル式飼料用米破砕機
右下 :破砕後の米(株式会社デリカ取扱い)
左上 :インペラ式籾すり機をベースとした飼料用米破砕機(写真提供:(株)大竹製作所取扱い)
右下 :破砕後の米
左上 :ライスカウンター (写真提供 :ウスイプロジェクト取扱い)
右下 :モミガラも細かく破砕される
左上 :ハンマミル(株式会社タカキタ取扱い)
右下 :破砕後の米
(農家集団で取り組める加工方法)
●乾燥籾、玄米を市販の破砕機で2mm程度に破砕もしくは粉砕して給与できます。
【籾米サイレージ調製法】
●籾米サイレージ(ソフトグレインサイレージ、SGS)は破砕もしくは膨軟処理後、加水して水分30~35%に調整し、乳酸菌添加後に密封します。約1カ月で発酵が完了すると給与できます。
●籾米サイレージは乳牛、肉牛に適し、豚向けにも直接給与、リキッド給与できます。
●鶏向けにも給与事例があります。
①大型破砕機(プレスパンダー)を用いた事例
左上 :籾米の搬入 / 右下 :原料籾のコンテナ投入
左上 :ホッパーへの原料投入 / 右下 :プレスパンダー処理
左上 :加水・乳酸菌添加 / 右下 :業務用掃除機で脱気
左上 :籾米サイレージ保管 / 右下 :利用農家への搬出
(写真提供:JA真室川町)
②小型破砕機(ダブルロールミル式飼料用米破砕機)を用いた事例
調製ラインの設置例(左右とも)
左上 :内袋入りフレコンバックに投入
右下 :加水・乳酸菌添加後の調製物
飼料生産の担い手としての籾米サイレージ移動式コントラクター
(写真提供:(株)ヤマシタアグテム)
【無破砕・無脱気法】
●籾米に水・サイレージ用乳酸菌「畜草2号」・糖蜜を添加後、無破砕・無脱気で調製し作業効率を高めます(一次貯蔵)。
●農閑期に一次貯蔵物を破砕機で破砕し、直接給与あるいは再貯蔵します(二次貯蔵)。
左上 :一次貯蔵の模式図/ 右下 :二次貯蔵(一次貯蔵物の破砕)の模式図
左上 :一次貯蔵後の籾米/ 右下 :給与あるいは二次貯蔵のために破砕した籾米
【フレコンラップ法】
●ハンマミルで籾米を破砕・加水後、内袋なしのフレコンバックに詰め込みます。
●フレコンバック全体をラップフィルムにより梱包し嫌気性を高めて貯蔵します(脱気処理不要)。
左上 :籾米の破砕/ 右下 :内袋なしのフレコンバック内の破砕・加水籾米
左上 :フレコンバック投入口を結束(脱気処理不要)/ 右下 :ラッピング処理
(飼料工場で行う加工方法)
●籾米もしくは玄米を圧ぺん機にかけて、圧ぺん飼料として使うこともできます。
左上 :圧ぺん機による調製 / 右下 :圧ぺん籾
左上 :ペレット化(圧ぺん機) / 右下 :配合飼料に加工
●籾米もしくは玄米をペレット化して、配合飼料原料にすることができます。
●その他、籾米もしくは玄米を膨潤化処理、エクストルーダー処理、エキスパンダー処理等を行うことによって、家畜による利用性を高めることができます。
利活用
●家畜への給与にあたっては、飼料用米を含めて飼料成分をよく把握したメニューを作成し、徐々に切り替えることが大切です。給与開始後は、家畜をよく観察しながら給与量を増やすことが基本です。
●乳牛への乾燥籾米・玄米給与は、泌乳前期で全飼料中10~15%、泌乳中期~後期は20~25%を給与でき、産乳性は市販配合飼料と同等です。
●肉牛への乾燥籾米・玄米給与は、肥育全期間を通じて市販配合飼料の25%程度を加工処理した飼料用米を給与できます。
●乳牛への籾米サイレージ給与は、泌乳全期間で全飼料中10〜15%程度(乾物当たり)を上限として給与でき、産乳性は市販配合飼料と同等です。
●肥育牛(黒毛和種)への籾米サイレージ給与は、肥育後期に濃厚飼料の20%(乾物当たり)を籾米サイレージに代替し発酵TMRとして給与した結果、籾米サイレージを使用しなかった対照の発酵TMRと比べて、同等の産肉性が認められた事例があります。
●繁殖雌牛(黒毛和種)への籾米サイレージ給与は、全飼料中30%程度(乾物当たり)を給与した結果、対照の市販配合飼料を給与した場合と比べて、同等の健康性や繁殖性(採卵)が認められた事例があります。
●豚への給与は粉砕玄米の場合、肥育前・後期を通じて飼料中50%、後期のみ75%、粉砕籾米の場合、肥育後期のみ30%で、エクストルーダー処理すると50%まで給与できます。また離乳子豚への玄米給与は、ふん便性状を改善することで増体が高まります。
●鶏への給与は、採卵鶏の場合玄米および籾米はトウモロコシを全量代替できますが、代替率が高まると卵黄色が薄くなります。肉用鶏の場合もトウモロコシの代替となりますが、飼料中脂肪の配合割合に注意します。
●飼料用米利用による飼料費変動に注意して、配合割合を決めることが大切です。
●飼料用米を食べさせることで畜産物品質は変化しますので、消費者や市場の声に耳を傾けることが大切です。
左上 :黒毛和牛への給与 / 右下 :肥育豚への給与
採卵鶏への給与
飼料米給与の優良事例
【牛】
●(株)和農産(山形県天童市)
●JA夢みなみ石川地区繁殖牛部会(福島県須賀川市)
●JA佐久浅間(長野県佐久市)
●岩切牧場(宮崎県宮崎市)
●(株)ヤマシタアグテム(コントラクター)(宮崎県三股町)
【養豚】
●(株)平田牧場 (山形県)
●(株)フリーデン (神奈川県)
【採卵鶏】
●農事組合法人トキワ養鶏 (青森県)
●(株)鈴木養鶏場 (大分県)
●ブラウンエッグファーム(長野県佐久市)
吉田 宣夫
山形大学農学部附属やまがたフィールド科学センター 教授
遠野雅徳
農研機構 中央農業研究センター 飼養管理技術研究領域 主任研究員
山口弘道
農研機構 中央農業研究センター 生産体系研究領域 上級研究員
松尾守展
農研機構 中央農業研究センター 飼養管理技術研究領域 主任研究員
井上秀彦
農研機構 農業技術革新工学研究センター 安全工学研究領域 主任研究員
嶝野英子
農研機構 東北農業研究センター 畜産飼料作研究領域 上級研究員
※本研究の一部は,農研機構生研支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロジェクト)」の支援を受けて実施した
(参考)
▼飼料用米の生産・給与技術マニュアル〈2016年度版〉
▼既存の穀物用施設を活用した籾米サイレージ調製技術マニュアル<第2版>
▼水田飼料作を基盤とする資源循環型牛乳・牛肉生産の手引き
▼フレコンラップ法活用マニュアル
▼須崎哲也,松尾麻未(2019),イネSGS(ソフトグレインサイレージ)の給与水準が黒毛和種繁殖雌牛の生産性に及ぼす影響について,畜産の情報,2019年12月号,53-65.
(文中の画像をクリックすると大きく表示されます)
◆飼料作と畜産に関するその他の情報はこちら