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品種

新しい技術「DNAマーカー選抜」から生まれた品種

(2021年 1月 一部改訂)
(2014年 6月 一部改訂)

DNAマーカー選抜とは

●水稲には病気に強くなる、冷害に強くなる、などの有用な遺伝子が見つけ出されていますが、これらの遺伝子を持っているのかどうかは、見た目からはわかりません。そのため、有用な遺伝子の近くにあるDNAの違いを基に、目印(DNAマーカー)が作られています。
●DNAマーカー選抜とは、DNAの違いと目印として目的の遺伝子を持っているかどうかを判別し、優良なイネを選抜する方法のことです。
●DNAマーカー選抜は、DNAの違いを目印として良い遺伝子を持つイネを選抜する方法であり、遺伝子組換えとは全く異なる技術です。

DNAマーカー選抜の方法

●病気に強い親と弱い親を交配してできた子供たちは、病気に強いイネと弱いイネが混在しています。見た目では区別できないため、通常は病原菌などを接種して病気に強いか弱いかを判別しますが、大きな労力がかかります。
●DNAマーカー選抜は、病気に強い遺伝子を持っているかどうかを、遺伝子の近くにある目印の塩基配列を使って直接調べることができるので、接種などにかかる労力を削減できます(図1)
●葉や種子からDNAを取り出して調べるので、季節に関係なく一年中選抜が可能です。また、病気に強い、冷害に強い、高温に強いなどの遺伝子を同時に調べることもできます。

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 図1 DNAマーカー選抜の原理と方法

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  図2 交配とDNAマーカー選抜を利用した遺伝子導入方法

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 写真1 出穂期改変「コシヒカリ」シリーズ

DNAマーカー選抜で生まれた品種

【耐病虫性を改変した品種】
「ともほなみ」
●陸稲品種「戦捷」のいもち病圃場抵抗性遺伝子(pi21)を「コシヒカリ」に導入した品種です。
●陸稲由来のいもち病抵抗性を持ちながら、「コシヒカリ」並の極良食味を実現しました。
●「ともほなみ」が持つpi21は、いもち病の改良を目的とした水稲育種に積極的に使われています。

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 写真2 いもち病激発圃場での抵抗性品種「ともほなみ」

「コシヒカリ愛知SBL」
●縞葉枯病抵抗性遺伝子と穂いもち抵抗性遺伝子を「コシヒカリ」に導入した品種です(写真3)
●出穂期や食味などの形質は、「コシヒカリ」と同じです。

「コシヒカリ近中四SBL1号」
●陸稲から縞葉枯病抵抗性遺伝子を「コシヒカリ」に導入した品種です(写真3)
●出穂期や食味などの形質は、「コシヒカリ」と同じです。

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 写真3 DNAマーカーを用いて育成された縞葉枯病抵抗性品種

「はるもに」
●トビイロウンカ抵抗性遺伝子(bph11)、縞葉枯病抵抗性遺伝子(Stvb-i)、穂いもち抵抗性遺伝子(Pb1)を集積した品種です。
●九州地域での栽培に適した良食味品種です。

「たちはるか」
●いもち病圃場抵抗性遺伝子(Pi39)、縞葉枯病抵抗性遺伝子(Stvb-i)、穂いもち圃場抵抗性遺伝子(Pb1)を集積した品種です。
●九州地域での栽培に適しています。
●耐倒伏性に優れるなど直播適性も有しており、低コスト生産による業務用・加工米用としての利用が期待されます。

【出穂期を改変した品種】
「ミルキーサマー」
●「コシヒカリ」の突然変異から選抜された低アミロース品種「ミルキークイーン」に出穂を早生化する遺伝子(Hd1)を導入して誕生したのが「ミルキーサマー」です。
●関東での出穂期は「ミルキークイーン」よりも13日ほど早くなりますが、沖縄では日長の違いから逆に「ミルキークイーン」よりも晩生になります。沖縄県で奨励品種として普及されています。
●出穂期以外の特徴は「ミルキークイーン」とほぼ変わりません。

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 写真4 左から「ミルキークイーン」、「ミルキーサマー」、「あきたこまち」

「ミルキーオータム」
●「コシヒカリ」の突然変異から選抜された低アミロース品種「ミルキークイーン」に出穂を晩生化する遺伝子(Hd5)を導入して誕生したのが「ミルキーオータム」です。
●関東での出穂期は「ミルキークイーン」よりも8日程遅くなり、収穫期は15日ほど遅くなります。
●出穂期以外の特徴は「ミルキークイーン」とほぼ変わりません。

【食味を改良した品種】
「ゆきがすみ」
●「北海287号」の低アミロース性遺伝子(Wx1-1)の導入にDNAマーカー選抜を利用した北海道向けの良食味品種です。
●耐冷性にも優れた品種です。

「ゆきさやか」
●「北海PL9」の低アミロース性遺伝子(qAC9.3)の導入にDNAマーカー選抜を利用した北海道向けの良食味品種です。
●タンパク質含有率も低くなっています。
●気温によるアミロース含有率の変動が比較的少なく、気象条件にかかわらず食味が安定しています。

カドミウムを吸収しにくい遺伝子の導入

●「コシヒカリ」の突然変異を利用し、土壌のカドミウムを吸収しにくい「コシヒカリ環1号」が育成されています。
●この品種が持つ低カドミウム吸収性遺伝子を、DNAマーカー用いて既存の品種に導入する試みが進められています。

DNAマーカーを利用した育種の展望

●現在では、耐病虫性や出穂性などの遺伝子に加え、食味や加工適性に関与する遺伝子なども、DNAマーカーで選抜できるようになってきています。
●これにより、生産者・消費者・実需者のニーズに合わせてデザインした設計図をもとに、いくつもの遺伝子を組み合わせて品種にまとめ上げる「オーダーメード育種」も可能となってきています。
●今後は、AIなどの技術も活用しながら、生産者・消費者・実需者の要望に迅速に対応した品種を創り出すシステムの開発なども期待されます。

執筆者 
石井卓朗
農研機構 作物研究所 稲研究領域

前田英郎
農研機構 次世代作物開発研究センター 稲育種ユニット長

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