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育苗法のいろいろ

(2020年8月 一部改訂)
(2014年6月 一部改訂)

苗作りの大切さ

「健全苗の重要性」
●苗半作と言いますが、苗作りでその年の作柄の大所が決まります。苗のよしあしは、収量や品質への影響が大きいのです。 
●稲作では、昔から健全苗の重要性が叫ばれています。これは、特に気象が厳しく、作期が短い寒地、寒冷地での話と思われがちですが、温暖地・暖地でも同様に重要です。

「植え傷み」
●苗質のよくない苗を植えると、目立つのは低温、風などによる「植え傷み」です。
●また、根の伸張、分けつの発生が遅れ、活着、初期の生育、生育揃いなどにも影響します。最終的には、欠株、穂数や穂重の減少、出穂の遅れなどにつながります。
●同じ圃場でも、苗質がよくない苗と健全な苗の混在で、生育ムラが出てしまいます。適切な栽培管理の障害となり、収量、品質の低下をきたします。

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移植後の冷風による植え傷み (提供 :九州沖縄農業研究センター)

育苗法の現状

「育苗法の発展」
●稲の育苗法は、水苗代、畑苗代、折衷苗代、保温折衷苗代、ビニール畑苗代等での育苗から、施設・資材を利用した育苗へと発展してきました。 

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 :育苗センターにおける大量育苗のようす (提供 :九州沖縄農業研究センター)
 :畑苗代、水苗代、保温折衷苗代における育苗 (出典:【農学基礎セミナー】新版 作物栽培の基礎 堀江武編著 農文協より)


●現在は、機械移植に対応した箱育苗が一般に普及しています。 
●育苗の場所(置床)は、ハウス、トンネル、露地(水田、畑)などさまざまです。 

「出芽法」
●出芽法には、電熱育苗器利用、育苗箱の積み重ね法、平置き法などがあります。 
●積み重ね法では、ハウス内ではビニールシートなどでくるみ保温します。
●平置き法では、ハウスやトンネル内に置き、保温資材や遮光シート類で被覆します。
●温暖地・暖地では折衷水田、均平にした水田への直接の平置きも多くみられます。

●おもに出芽法、置床場所などで区別される育苗様式は、当地の作期や育苗時期の気象条件で異なり、地域的な特徴があります。
●また、生産現場における詳細な育苗法も、播種量や保温資材の使い方などでさまざまです。

苗の種類と特徴 

●寒地・寒冷地ほど成苗に近い苗を用い、中苗が多く、温暖地、暖地になるほど稚苗が多い傾向にあります。それらの特徴は以下の通りです。

「高密度播種苗」
●育苗期間がやや短く、稚苗の約半分の育苗箱数ですみます。
●植え付けの適期幅が狭いのが欠点です。
●播種量300gの場合は専用の田植機が必要です。

「稚苗」
●育苗期間が短く、面積当たりの育苗箱が少なくてすみます。
●植え付けの適期幅が狭いのが欠点です。
●稲の生育にとって、気象的に余裕のある地域で多く普及しています。

「中苗」
●育苗期間がやや長く手間がかかりますが、本田での生育期間が短く、早く出穂します。
●移植期の幅が広く、労働ピークを緩和できます。
●苗丈が大きく、水害時や田面が低く冠水する場合などに対応しやすいです。

「成苗」
●育苗期間は長いですが、本田の生育期間が一番短く出穂が早い、植え付け適期幅が広い、などの特徴があります。
●一般の育苗箱や枠型利用のすじ播き、成苗ポット利用などにより育苗ができます。
●北海道のほか、東北や中山間地、温暖地などの一部で普及しています。 

「育苗法の動き」
●最近は苗箱数が少なくてすむ高密度播種苗が注目されています。
●全国のデータからみた苗の葉令、播種量と施肥量の目安については、表1の通りです。

 表1 苗の種類、播種量と施肥量の目安
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注)
葉令は、不完全葉を除いたもの。播種量は乾籾。ポット成苗は、みのる産業の成苗ポット使用の場合。
成苗については、北海道の基準である。上の数値は、地域、作期によって多少の変動がある。
ポット成苗以外は60cm×30cm×3cmの育苗箱利用である。

最近の育苗資材、育苗法 

 育苗作業は、稲作の全労働時間の12%を占めています(平成30年度)。そこで、育苗の省力、低コスト化の必要性から各種の新しい資材、育苗法が開発されています。

「省力機械」
●播種機 :土入れから、灌水、消毒、播種、覆土を一貫して行えるタイプが普及しています。
●育苗器 :中の温度分布が均一になる、加湿方式のものが普及しています。
●種子の予措用機器 :1台で種子の浸漬、薬剤消毒、温湯消毒、催芽に利用できる機器が開発され、利用されています。

「資材」
●培地・マット資材 :軽量化や保水性、通気性等を工夫した、各種培土や人工床土、ロックウールなどの各種成型培地、籾がら成型マットなどが開発され市販されています。
●被覆シート類 :出芽や育苗管理に適当な温度が確保しやすい、各種シート類が出てきました。晴天時に温度が上がりやすい資材や上がりにくい資材など、特性をよく理解して、自分の育苗に適したものを使いましょう。

「肥効調節型肥料」
●育苗中の追肥の手間を省くため、床土への肥効調節型肥料の混合利用法が実用化されています。
(目的が育苗とは異なりますが、本田の生育期間に必要な分を全量混合する方法もあります)

「温湯消毒法」
●60℃のお湯に10分つけるのが基本ですが、より効果を高めるために生物農薬処理を追加したり、種子を水分10%未満にして65℃、10分処理の方法が開発され、特別栽培を中心に、農薬を使わない種子の消毒法として行われています。

「プール育苗」
●特に灌水の省力化を可能とするため、最近、プール育苗が普及を広げてきました。
●本法では、液肥による追肥も可能です。
●苗箱をプールに浮かべてプールの均平や苗箱運びを省力化する浮き楽栽培法が開発されています。
●育苗ハウスがいらない露地プール育苗もひろがりつつあります。

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プール育苗による育苗のようす (提供 :群馬県農業試験場作物部)

稲編「プール育苗の実際」はこちらから 

執筆者
堀末 登
農研機構 フェロー
白土 宏之
農研機構 東北農業研究センター 水田作研究領域 水田作グループ長

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