普及指導員が現場で活躍する日々をレポート
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blog_hukyu_kasahara2_f.jpg青森県
笠原 均

笠原 均

青森県の農業改良普及指導員(普及員)です。普及員歴はすでに20数年となるのですが、お話し好きが高じて、農業の担い手育成を担当していることが多いです。 プライベートでは、「気分はプロフェッショナルカメラマン」、「YouTube再生回数が伸びないけど作曲家とウインドシンセサイザー奏者」です。 加えていうと、15年前から音楽の秘められた力をフル活用して地域おこしをやっています。そんな活動のお陰で町内会役員から目をつけられ(勧誘され)、町内会の理事なんかやっています。もちろん、町内の草刈りやしめ縄づくりも、町内会最年少として参加しています。

夏のレタスは、夜明けにて(連載第2回)

2014.09. 8

【前回までのあらすじ】 ▼前回ブログはこちら


 「どうしても、夏場のレタス収穫を写真に収めたい!」

 そう思った普及指導員の私は、有限会社サニタスガーデンの代表、山田広治さんの協力を得て、青森県八甲田山の標高750mにある開拓地、沖揚平地区のレタス収穫風景の撮影にこぎつけました。山田さんと、約束した時間は、なんと夜明け前の午前4時。
 暗闇の中、なんとかレタス畑にたどり着いたものの・・・


【夏でも高原は寒い
 夏でも標高750mのレタス畑は、肌寒いです。普段着の上にジャンパーをはおってきて正解でした。
 重いカメラと三脚をかつぎながら、私は、良い撮影ポイントを探そうと畝間を歩きまわり、腰を落としては、ベストアングルを探します。畑に入ってまだ5分も経っていないのに、すでにズボンはぬれて、まるで水たまりにしゃがみ込んだようで、とても冷たいです。
 生産者のみなさんが、星が降るような晴天に、雨合羽を着ているのがよーくわかります。

 
 さて、気を取り直し、まずは風景を一枚。
私を案内してくれた山田さんのトラクターです。


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朝焼けをバックに、サニタスガーデンのトラクター。でかい!


 続いて、ヘッドライトの光を頼りに収穫するサニタスガーデンのみなさん。
 私の知っている昼間の畑は、誰も居ない静かな畑ですが、収穫作業中は、こんな感じ。10人近くの方が作業してました。


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【来てみて感じたこと】
 レタスの収穫作業って、かなり体系化されているんですね。とても効率的に作業が進んで見えます。


 まず、収穫を担当する人達が、レタス畝に向かって横数列に並ぶと、まっすぐ畝間に入っていき、スカスカとレタスを地面から切り離しています。
 その後ろには、レタス箱を準備する人、箱詰めする人、芯が渇かないように霧吹きで水をかける人が控えていて、次々と出荷用のダンボールが畑を埋めていきます。その光景は、まるで工場の生産ラインのようにも見えますし、一つの大きな生き物が、レタス畑の上で食事をしているようにも見えました。


 途中、レタスを生まれたての赤子のように抱き上げるシーンが見られました。
「おっ! これぞ、シャッターチャンス!」
とばかりに、その人に近づくと、
「あ! ダメダメ! 私、化粧してないの~。」
とのこと。あぁ、女性でしたか! それではということで、シルエットで撮影しました。


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 さぁ、夜明けです。
八甲田山から、朝日が差し込んできました。気がつけば、出荷を待つ、たくさんのレタスの箱が、畑の此処(ここ)彼処(かしこ)に見られます。


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【幸せを感じる瞬間】
 最初に書いてますが、私は大の野菜好き・・・特にレタスが好きです。もちろんレストランや自宅で食べるレタスもおいしいのですが、やっぱり、鮮度に一番をつけるなら、収穫直後のものに軍配が上がるでしょう!


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 外葉は、まだ葉露でびっしょり。外葉を外せば、滴(しずく)がキラキラと宝石のように飛び散ります。さらに、レタスを一口サイズにちぎってかめば、バリッ、シャキッと音がした後、さわやかなレタスの香りと、ほのかな苦みが口の中に広がります。

 世の中には、お金を出せば手に入る、たくさんの「贅沢」がありますが、夏の夜明けに畑で食べるレタスの味は、まさに格別! 贅沢そのものでした。


 ささやかな贅沢を楽しませてくれたサニタスガーデンのみなさまに感謝を込めて、ブログにて、報告させていただきました。

「ごちそうさまでした。」m(_"_)m

夏のレタスは、夜明けにて(連載第1回)

2014.08.28

【サラダは、好きですか?】
 唐突ですが、みなさん、サラダは好きですか? 
 私は、温野菜も好きですが、夏場に冷えたサラダをバリバリと食べるのが大好きです。私的にサラダに欠かせないのは、なんと言ってもレタスです。あのシャキっとした歯ごたえと、ほろ苦さ・・・サラダには、絶対欠かせない存在です。

 今回は、そんなレタス収穫の撮影に行った際の話を、みなさんにご報告したいと思います。


【畑が見つからない】
 今回は、有限会社サニタスガーデンの代表、山田広治さんの協力を得て、青森県八甲田山の標高750mにある開拓地、沖揚平地区の撮影に臨みました。
撮影に当たり、山田さんに「何時頃、収穫してますか?」と、問い合わせてみると、朝4時には畑にいるということです。

 もう、ここまで来ると「普及」ブログというより、完全に私の趣味の世界なのですが、朝3時に起きてサニタスガーデンの畑へ向かいました。どうしても、収穫風景が見たい!


 さて、昼間は、こんな感じで、さして迷うような所ではないのですが・・・・


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 実際に夜明け前に収穫しているレタス畑を探してみると、まったく検討がつきません。


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 収穫作業をする際のライトの明かりで、山田さん達を簡単に見つけられるだろうと思ったのは甘い考えで、深い茂みと原生林に囲まれて、光らしいものはまったく見えません。どうしよう?


 トラクターの音でも聞こえないかな? と耳をそばだてても、聞こえるのは、コオロギの合奏とフクロウらしき歌声、「ホー」。


 そこで、作業の邪魔になるかな~と思いながらも、山田さんに、
「集出荷場の前に来ています! 北側ほ場のどの当たりにいます?」
と、メールしてみると、「今、迎えに行きます!」と山田さんからの返信。

 趣味で来た割には迷惑な奴だな! と、自分の行動に反省しつつも開き直り、山田さんの案内で、深い森の・・・さらに奥の畑へと案内されました。静寂の中にも、微かに「モシャモシャ」とレタスを切ったり、外葉を取り除いたりしているような音が聞こえます。


【暗闇で作業している人に声を掛けにくいのですが・・・】


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 大きな畑の端に車をおくと、いくつものヘッドライトの明かりが蠢(うごめ)く畑へ歩いて行きました。作業をするみなさんは、無言です・・・。


 あまり静か過ぎて、声をかけづらいな~と思いつつも、みなさんに怪しまれないように、大きな声で、
「普及指導員の笠原と申します。今回は、山田さんのご厚意で撮影にやって来ました!」
というと、「お疲れさまでーす!」と複数の明るい声が返ってきました。どうやら、若い女性もいるようです。どうやら、安心して撮影に臨めそうです。

 ということで、さっそく、撮影開始!


 次回は、夜明けまでに撮影した、昼間では見られないシーンをご紹介します。

北国でも暑さ対策してるのです(番外編)

2014.07.14

最終話を載せたところ、なかなか興味を持って読んでいただけたようで、電話なんかで、「読んだよ~」とか、「うちでも(冷却)やってるよ~」とか言われます。


そんな中で、特に興味深かったのは、長野県の普及指導員から寄せられた情報です。
要約すると、
「最終話に載っている高温にやられたアルストロメリアの花は、実はホコリダニの被害ではないですか?」
というものでした。


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前回掲載した写真


もちろん、アルストロメリアが被害を受けたあと、私も原因を考えてみましたが、
(1)ダニの被害は、株元に集中することが多く、これまでの事例から花芽のダニを疑ってみなかった。
(2)気温が下がりだすと、被害が見られなくなったことから、私は高温障害と結論付けました。


 しかし、長野県からの情報と、被害を受けた写真をみると、確かに花のゆがみ方が酷似しています。
 さっそく花の関係者に連絡して、同じような症状が見られたら、すぐに花芽を確認してもらうように情報を伝えました。
 

 今回の長野県からの連絡を受けて、私が感じたのは、「普及指導員ブログを書いていて本当に良かった。」ということです。
なかなか多忙で、普及指導員が思うように活動ができないと言われて久しい中、こんな風に情報を共有できるのが、「普及指導員の底力」だと思います。


ご連絡くださった長野県諏訪農業改良普及センター平谷次長!
心から感謝申し上げますm(_"_)m

北国でも暑さ対策してるのです(最終話)

2014.06.30

 暑さ対策の話で散々ひっぱっておいて、本格的な夏を迎えてから最終話を書くってどういうことよ? とか言われる・・・・・ことはないと思いますが、暑い地域なら、どこでもやっているような対策に、青森県も最後は行き着くのです。
 まぁまぁ、なにはともあれ、最後までお付き合いください。


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咲き誇るアルストロメリア


【前回までのあらすじ】
 年々厳しさを増す夏。地面に井戸水を流して、暑さで夏場に咲きにくくなったアルストロメリアをガンガン咲かせようと奮闘する普及指導員の私。電気ケーブル用の管、CD管に井戸水を流して、なんとか予算内でほ場を冷却するところまでこぎつきました。
 効果は予想を上回り、冷やされた地面からピョコピョコとアルストロメリアの花芽がでてきます。


【ここから本題】
 「さぁさぁ、皆さん入ってください。」
 夏の暑い日、そういって私がハウスに招き入れたのは、管内のアルストロメリア生産者と関係機関の人々・・・。井戸水で冷却された地面から数え切れないほどのアルストロメリアの芽(シュート)が出て、高温にも関わらず、ハウス一面、まさにお花畑! 生産者からは、賞賛の声があがるはずです。


 ハウスへ入った生産者らの「言葉にならないような言葉」は、
「これは、まさに、すごい!」でした。
 そうです。すごかったのです。
花と蕾が高温障害で歪んで「グチャグチャ」なのです。


 井戸水で冷却され、「おっ! これは、快適な環境!」と勘違いして、顔を出したアルストロメリアの花芽は、開花する1m数10cmのところで、なんともすごい高温にさらされていたらしいのです。


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こんなのや・・・(左)こんなの・・・(右)。暑さで変形してます


 あわててハウス内の温度を測っていた「データ記録装置」からデータを抜き出して調べてみました。すると、なんと、花が開花する付近の気温は、時折40℃近くあるではないですか!
 実は、この年(平成24年)は7月の終わりから、青森県はかつてないほどの猛暑に遭遇していたのです。さらに、その後の地温のデータを追跡すると、想定していた地温20℃をはるかに越え、25℃を越える日が何日も出現しているではないですか!

 これでは、花がまったく売り物になりません。生産者も私も、がっかりです。


 実は、これまで青森県で「厳しいな」と思う暑さは、ネブタ前の数日くらいで、お盆前にいくらかの簡易な遮光をすれば十分暑さがしのげていたのです。この暑さは、まさに未体験ゾーンでした。


 肩を落としてばかりはいられません。
その場に居合わせた生産者と私達は考えました。


「熱くなった地面を冷やせばいいって考え方が、根本的に間違っているんじゃないか?」


 そうなのです。よくよく考えてみれば、青森県は、かつてないような猛暑に、今後も繰り返し見舞われることでしょう!


ですから、
「青森県は涼しい。だから熱くなったものを冷やせばいい」
という考え方は、根本的に間違っていたのです。


 そこで、こうなりました。

「地温も気温も下げきれないなら、始めから上がらないようにすればいい!」


 そんな訳で、ハウスの外側に、遮熱ネットを張ることにしました。
 最近の高温対策グッズは、進化しましたね。
「高い光反射効率」「過熱化を抑える」「涼しい栽培環境」とカタログに書いてます。
サンプルを透かしてみれば、熱は遮るものの、光は結構通しているようで明るいです。


 前年の失敗にめげず、平成25年は、幾種類かの遮熱ネットを、部会長のハウスに実際に張ってみることになりました。ハウス内の温度上昇を回避しつつ、さらに冷たい井戸水で地面を冷やすという作戦です。


 日本の南の方の産地では、遮熱ネットと地中冷却は、至極当たり前のことなのでしょうけど、青森県では、そんな対策をしなくても花が収穫できていたのです。
これまでの青森県の涼しい夏に、心から感謝です。


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生産者が遮熱ネットを検討するようす


 この後も、青森県に適した品種の試験や、収穫後の後処理剤の検討、害虫発生を予測するトラップの設置、予防に力点をおいた防除暦の作成等々、生産者、JA、試験研究機関と普及指導員が協力して、さまざまな改良・改善を行ってきました。

 みんなのそんな苦労と努力の積み重ねで、平成25年の販売額は、前年より3割も伸びました。そして、担当になった私が3年前からずっと願っていた青森県の農業専門誌「あおもり農業」の表紙を飾ることができたのです。


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こんな感じ・・・。みんな本当に笑顔です


【追記】
 今回のブログは、「暑さ」をテーマに限定して書いていますが、現場では、吹雪で凍り付いたヒートポンプ室外機の凍結対策やら、青森の気候に合った作型への変更、またまた、冬場のネズミ対策等々さまざまな対策を講じてきました。

 このテーマは今回が最終回ですが、生産の現場に終わりはありません。生産者の皆さん、試験研究機関、JAの皆さん、次は○○○億円を達成して、宇宙旅行へ行きましょう!


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イラスト出典:マイクロソフトWord2007


▼追加情報はこちら

北国でも暑さ対策してるのです(その2)

2014.06.12

前回までのあらすじ】
 年々、厳しさを増す夏。
 地面に井戸水を流して、暑さで夏場に咲きにくくなくなったアルストロメリアをガンガン咲かせようと奮闘する普及指導員の私。


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咲き誇るアルストロメリア


 井戸水という豊富な冷却媒体と、既存の配管、最安値の散水ホースを組み合わせて、「これは、絶対に普及する!」と、息巻いて農家さんに提案すると、予想外に険しい顔をされるのです。


 「普及員さん、そりゃあ、まねや~(ダメだよ)。」


 えっ!いったい何がいけないの?
Σ(゚д゚;) ヌオォ!? 
            

                              
【本題】
 「笠原さん(私のことです)・・・ビニールホースまねや(※)
まねや=津軽弁で「ダメだよ」


 そういって見せてくれたのは、昨年購入し、屋外で使用していたという散水ホースです。ホースが劣化し、ガチガチになってます。
 その農家さんが言うには、「3年というアルストロメリアの植え替えサイクルだと、散水ホースが地面の中で持たないよ」ということです。

 では、ということで、劣化しにくい高価なホースや上水道用管を使うとなると、75坪ハウスに敷設した場合でも、ゆうに10万円を越えてしまいます。試験的に入れるには、あまりに高額です。これでは誰も試してくれません。


 「やっぱり厳しいかな~」と、私は青空を仰ぎました。


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仰いだ青空のイメージ


 が、まだ、普及指導員の神様(そういうのは、いるのでしょうか?)は見捨てていませんでした。


 ある日、ある農家さんとお話をしていると、     
「前に山形(県)さ、視察に行ったばって(行ったのだけど)、なんか畝さ、オレンジの管使ってたばって、なんだべ?」と聞かれました。


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 「なに? 畝にオレンジ色の管!」


 さっそく調べてみると、山形県は非常に安価な冷却システムの普及が進んでいて、それを紹介するホームページを見てみると、なんと本当にオレンジ色の管を使っているじゃないですか!


 この管を調べてみると、なんと電気のケーブルを包むCD管という管です。
 電気コーナーに並んだパーツに水を通すなんて夢にも思いませんでした。これは、水を流すのに機能は十分な上、放熱性が高く、しかも単価が散水ホースの半分以下。


 「これは、いける!」


 そこで、このシステムの研究論文の筆頭となっていた山形県の職員にさっそく連絡をしてみると、とても親切な方でした。農業の国際化が進む現代、県を越えて普及指導員は技術を交流し、みんなで一丸となって日本農業を支える時代なんだなと、改めて考えさせられました。ご指導くださった山形県の職員の方、ありがとうございました。


 そんなこんなでさまざまな紆余曲折がありましたが、既存の井戸水ポンプを使ってアルストロメリアのほ場を冷やす準備はできました。山形県の実例や、私が独自に井戸水冷却の効果を計測したデータをもとに、JAの花き部会長にこの話してみると、さっそく試してもらえることになりました。


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これが敷設したCD管


 これで今年(当時平成24年)の夏には、アルストロメリアにとって最適な状態に地温を保ち、花芽が地面からピョコピョコ顔を出して、この夏は大儲けができるはずです。案の定、7月に入っても地温は最高でも20℃を切っており、ネブタの準備で汗だくで和紙を貼る津軽衆を尻目に、アルストロメリアの花芽は、ピョコピョコと地面から顔を出しています。うまく行くときは、本当にトントン拍子で行くモノです。


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左 :ピョコピョコと芽を出し・・・ / 右 :ちゃんと蕾が入っています!


 しかしこのあと、青森県のアルストロメリア生産者と普及指導員の私は、ビニールハウスの中で、


「トンでもない光景」


 に出くわすのです。


 と、いうことで、次回に続く・・・・


【お断り】
 このブログは、ノンフィクションですが、普及指導員である私の私見に基づいて書かれています。また、一部、イメージ映像を取り入れておりますのでご注意ください。

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