提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


大豆・麦

小麦後期重点施肥におけるICTを利用した省力機械化栽培体系の実証(滋賀県 令和3年度)

背景と目標

「背景」
 米価の低迷の中、担い手の経営安定には、さらなる麦の収量・品質向上が求められている。
 小麦増収の新技術として「後期重点施肥栽培」の普及が進んでいるが、2月の穂肥作業が多労であることから、省力機械化体系が求められている。
 そこで、収益性の高い農業経営を実践するため、小麦の後期重点施肥栽培でのICTを利用した省力機械化栽培体系の確立を目指し、他経営体への普及提案を行うこととした。

「目標」
1.「後期重点施肥栽培」における基肥無施用体系を実証し、基肥省略による省力化、低コスト化が実現できる。
2.乗用管理機を用いた2月下旬の穂肥作業が、省力的に施肥ムラを抑えて実施できる。
3.小麦「後期重点施肥栽培」で500kg/10aの収量が達成できる。

対象場所

●滋賀県犬上郡甲良町
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 甲良町の耕地面積は622haで、うち587ha(約94%)が水田である。
 令和2年の各品目の作付面積は、水稲348ha、小麦196ha、大豆186haで、小麦・大豆をブロックローテーションとした土地利用型農業が営まれている。
 甲良町の土性は埴壌土が広く分布し、土層は細粒質および中粒質である。透水性は一部やや不良だが、全般的には良好である。
 今回の実証調査場所である尼子地域では、細粒質普通低地水田土が分布しており、排水性は良好な地域である。
 総農家数は224戸で、うち販売農家数は166戸である。集落営農が盛んに取り組まれており、甲良町13集落のうち11集落(12経営体)にて農事組合法人が設立されている。

実証した栽培体系


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耕種概要等

●耕種概要
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●作業概要
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●圃場条件
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●暗渠等の施工状況
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●主な栽培基準
(1)播種様式
・条播:条間23.5cm
・基肥:側条施肥
(2)種子予措
・種子消毒:なし
(3)播種量および播種深(実際)
・実証区
  播種量:8.2kg/10a(播種粒数:207粒/㎡(種子千粒重より算出))
  播種深:3.5cm
・慣行区
  播種量:8.2kg/10a((播種粒数:207粒/㎡(種子千粒重より算出))

供試機械

●播種
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セミクローラトラクタ(97PS)+クリーンシーダ播種機(10条)
・基肥を施用しないため、種子ホッパー(5L)より容量が大きい肥料ホッパー(10L)に種子が投入でき、播種作業中の資材補給回数が3分の1ほど削減できた。
・補助員の作業負担の軽減、長期的な作業時間の短縮が見込まれる。

●ドローンによるリモートセンシング
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左 :リモートセンシング用ドローン
右 :リモートセンシングによる実証区ほ場内の生育状況


・リモートセンシングで小麦ほ場内の生育ムラを詳細に把握することができた。
・一方で、小麦におけるリモートセンシング事例がまだ少ないことから、得られたNDVIデータの活用方法に課題が残された。
・今後はNDVIデータの蓄積を重ねることで、測定したNDVI値をもとに適切な穂肥時期や穂肥量を判断できることが期待される。

●穂肥作業
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乗用管理機(KV2200)+GPS付ブロードキャスタ(GPSナビキャスタ:MGC201PN)
・作業速度:時速3.5km
・設定散布幅:10m
・設定散布量:尿素 34kg/10a

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GPSナビキャスタの散布精度調査のイメージ

・実際の散布量とGPSナビキャスタ側の設定量との誤差は5%未満で、ほぼ設定通りの肥料散布がオペレーター分の労力だけで実施できた。
・設定散布量34kg/10aに対し、10aあたりの実際の散布量は、32.4kg±6.2kgであった。
・一方、設定した散布幅(10m)を越えて肥料が飛散。散布幅の誤差を簡易に調整する機能が求められる。

成果

1.「後期重点施肥栽培」で基肥を省略した実証区では、3月までは茎数が慣行区(基肥あり)より少なく推移したが、4月以降は慣行区より多くなり、穂数も多くなった。

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 収量(坪刈り調査より算出)は、実証区で慣行区と同等以上の結果となり、目標収量を上回る531kg/10aが得られた。
 品質面では、実証区でタンパク含有率が慣行区より低い11.3%となったが、基準値内(9.7%~11.3%)と適正であった。

生育調査および収量・品質調査
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2.穂肥は乗用管理機に装着したGPSナビキャスタで実施し、地域慣行である背負式動力散布機との作業効率性を比較した。
 その結果、30a区画ほ場あたりにかかる作業時間は、慣行の背負式動力散布機は19分30秒であったのに対し、GPSナビキャスタでは9分54秒と、およそ49%の削減効果が確認された。

GPSナビキャスタによる穂肥作業時間
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※30a区画ほ場での作業時間を調査

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GPSナビキャスタを用いることで、1日あたり約11.6haの穂肥散布が可能となる

3.GPSナビキャスタの散布精度を調べるため、ほ場内に設置した0.5㎡の容器を用いて実際の穂肥作業時の肥料散布量を算出し、設定上の散布量と比較した。
 その結果、平均32.4kg/10a、標準偏差6.2kg/10aとなり、設定散布量34kg/10aとの差は5%未満であった。

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GPSナビキャスタの散布精度

4..経営面では、基肥省略により、肥料費で10aあたり1,384円が削減できた。これを本経営体の小麦栽培面積34haで換算すると約47万円となり、コスト削減の効果は大きいと考えられた。

5.乗用管理機+GPSナビキャスタを導入し、減価償却等の費用を計上したとしても、後期重点施肥技術による増収により、小麦栽培面積34haで1,300万円の事業収益となった。

経営評価
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実証した作業体系について

 今回の実証試験を通じて、小麦「後期重点施肥栽培」におけるICTを利用した省力機械化栽培体系の確立が図られ、収益性の高い農業経営の実践に近づくことができた。

当該技術を導入した場合の経営的効果

・基肥を施用しなくても収量への影響はなく、基肥をなくすことで肥料費が10aあたり1,384円削減できた。
・播種作業においても、肥料準備や肥料補給の時間が削減できることで、補助作業者の労力を減らすことが可能と考えられる。
・今回供試した乗用管理機+GPSナビキャスタを導入し、減価償却費に計上したとしても、「後期重点施肥技術」による増収で交付金額も増加し、本経営体の小麦栽培面積34haで1,300万円の事業収益となった。

 以上のことから、今回、実証した小麦「後期重点施肥栽培」の省力機械化栽培体系は、担い手の経営安定に資するものであると考えられる。

今後の課題と展望

・今回の小麦「後期重点施肥栽培」における省力機械化体系は、基肥省略による作業効率性の向上や乗用管理機を用いて実証したGPSナビキャスタによる穂肥作業の軽労化・高精度化から、地域農業を担う大規模土地利用型経営体への普及が見込まれる。
・GPSナビキャスタについては、設定上と実際の散布幅にズレが生じないように、散布幅を簡単に微調整できる機能等が求められる。

●実証年度及び担当指導普及センター:
令和3年度 滋賀県湖東農業農村振興事務所農産普及課、滋賀県農業技術振興センター農業革新支援部