提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


大豆・麦

GNSSを活用した大豆の精密播種及び培土作業による雑草防除の検証(秋田県 令和元年)

背景と取組みのねらい

 大豆は、水田フル活用を進めるうえで重要な戦略作物であるが、雑草害が品質や収量の向上の妨げとなっている。特に、大豆播種時の畦の間隔が不均一になったり蛇行することで中耕・培土による除草効果が低下し、農薬費や手取り除草の労賃が掛かり増しとなる事例が散見されている。
 そこで、GNSSを活用した精密播種と中耕・培土による雑草防除を実証し、次世代農業機械の導入効果を検証するとともに、広く農業者に周知・普及を図り、収量及び品質の向上を目指すこととした。

対象場所

●秋田県大館市立花地区
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北秋田地域は、秋田県北部の内陸に位置し、年間平均気温は10.2℃、年間総降水量は1,671mm、年間日照時間は1,502時間であり、積雪深は最大80cm程度である。
 耕地は米代川流域に広がる大館盆地、鷹巣盆地、並びに大野台、森吉山麓を中心に展開しており、水田率が低く古くから複合経営に取り組んできた地域である。特に、畜産は比内地鶏、鶏卵、肉用牛、酪農が盛んで、野菜はエダマメ、ヤマノイモ、キュウリ、アスパラガス、ネギが産地化されている。

実証した作業体系(作業名と使用機械)


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耕種概要

●各区の概要
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●圃場条件
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●暗渠等の施工状況
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●主な栽培基準
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作業別の能率と効果


同時畝立て播種
(耕起・畝立・播種・施肥)
能率と効果

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GNSSを活用した
1工程飛ばし播種作業
(6月18日)

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アンテナトリツケダイザー

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昨年度(平成30年度)の播種作業

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今年度の播種作業 

昨年度は受信機がトラクタの振動の影響により直進精度が低下したため、今年度は「アンテナトリツケダイザー」を取り付けることで直進精度が向上した。
作業性は良好で、同時畝立て播種の畝の高さや播種深度はほぼ一定であり、作業精度は高かった。
今回の実証では1工程飛ばしで播種を行ったところ、旋回時間は10a当たり約1分短縮となった。
作業スピードは0.54m/秒で、慣行区の約1.3倍のスピードであった。実証区は2条の播種機、慣行区は3条であるため、10a当たりの播種作業時間は慣行区の方が少ないが、実証区の播種スピードが速いため、作業時間は単純に1.5倍とはならなかった。
時間の短縮よりも、旋回時にほ場を痛めないことのメリットが大きい。

●型式
トラクタ
 クボタ スラッガー SL54H
アッパーロータリー
 ニプロ APU1610H-4SU
 アグリテクノ矢崎 
施肥ホッパー付 2条
自動操舵システム
 GNSS受信機 AGI-4
 コンソール(モニタ) X25
 電動ステアリング AES-35
 ホイールアングルセンサ AES35
RTK基地局
 ネットワーク型RTK CPtrans


▼(参考)当日の作業の様子

培土 能率と効果

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GNSSを活用した培土作業
(7月23日)
benri_movie1.jpg(動画を再生)

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ディスク式の培土作業後。
株元まで土寄せができている
benri_movie1.jpg(動画を再生)

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ロータリー式培土後の株間の残草
(7月17日)

実演会当日は、実演直前まで3mmの降雨があったものの、作業に影響はなかった。
培土作業には初めて自動操舵システムを活用したが、直進性能が高く、大豆を踏み潰すことは一切なく、株元まできれいに培土できた。
作業スピードが1.2m/秒と非常に早く、慣行区の半分の時間で作業することができた。
ロータリ式と異なり、株元までしっかり土がかかることから、その後の雑草の発生は大幅に抑制された。
作業スピードが速く精度も高いため、実証法人には好評であった。
培土作業でも自動操舵システムの有効性が確認され、オペーレータの精神的疲労が軽減されるものと思われる。

●型式
乗用管理機
 クボタ ハイクリ仕様 KT285
培土機
 コバシ ディスク式 DC301 3条
自動操舵システム
 GNSS受信機 AGI-4
 コンソール(モニタ) X25
 電動ステアリング AES-35
 ホイールアングルセンサ AES35
RTK基地局
 ネットワーク型RTK CPtrans


▼(参考)当日の作業の様子

手取りによる除草 能率と効果

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空撮による雑草の発生分布
(9月30日撮影)

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手取り除草による雑草調査
(10月15~17日)

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ほ場から搬出した雑草(約0.9t)

慣行区の除草時間は、10aあたり6時間34分で、雑草量は10aあたり184kg(生重)。一方実証区では、10aあたり1時間53分と大幅に短縮され、雑草量も10aあたり53kg(生重)となった。
タデ類が最も多く、大型雑草はアカザ、ヒエであった

成果

・主茎長については、両区に大きな差は見られなかった。
・分枝数については、実証区は、ディスク式培土機により株元までしっかり土がかかったことから、株元の雑草発生が抑制され、分枝の発生が多くなった。
・葉数及び葉色については、両区に差は見られなかった。
・坪刈り収量は実証区が290kg/10a、慣行区が211kg/10aと実証区が上回った。
㎡当たりの莢数が多く、百粒重が大きくなったことが要因である。大粒割合は実証区の方が多くなった。これは、慣行区にタデ類や大型雑草が繁茂し、大豆の生育を抑制したためと考えられる。

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子実重及び百粒重は、水分15%で換算、病害虫被害粒及び腐敗粒等を除いて計算
稔実粒数は5.5mmの篩目に残った粒数で測定
平年値は過去7か年で最大年・最小年を除いた5か年平均


・実証区は、分枝数が多かったことから総節数も多くなり、1節当たりの着莢数に差はみられなかったものの、個体当たりの着莢数が多くなった。最下着莢高は、実証区が低くなった。これは株元の雑草が繁茂しなかったことから、下位節から分枝が発生したためと考えられた。

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・慣行区より実証区で病害粒の発生がやや多くなったが、総じて被害粒は両区とも少なかった。実証区は、雑草の発生が抑制されたことで着莢数が増加し、百粒重も大きくなり増収した。また、しわ粒の発生が少なくなり、品質も慣行区より良くなった。
・実証区は春の耕起作業を省略し、高速のディスク式培土により作業時間が低下した。慣行区で大~中型雑草が繁茂したため、手取り除草時間が大幅に増加した。実証区は、8.9時間で慣行比64%と省力化となった。

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実証した作業体系について

(1)生育期間中の雑草調査結果
 中耕前は、両区に600~800本/㎡の雑草が発生していたが、中耕作業(ロータリー式)により雑草の発生本数は大幅に低下した。2回目の培土前は、実証区で雑草の発生本数は多くなったが、新たに発生した雑草で、ディスク式培土機により株元までしっかり培土できたことから、最終的には慣行区よりやや多い程度まで抑制された。一方、1個体あたりの生重は、慣行区の数値が急激に増加した。これは、発生本数は少なかったが、生き残った株間の雑草が生長したことを示している。最終的に、雑草の発生量に大きな差がついた。
 7月5日の雑草発生量調査では、慣行区で多くなったが、これは、非選択性除草剤の散布後の播種から耕起まで日数が空いたため、新たに雑草が発生したことと、64馬力のトラクターで3条の同時畝立て播種を行ったため、耕起深がやや浅めとなり、雑草のすき込みが弱かったためと考えられた。

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(2)手取り除草調査
 10月15~17日にかけて手取り除草調査を実施したところ、大型雑草ではアカザやヒエの発生が目立った。しかし、最も多い草種はタデ類であり、大豆を被覆する程度まで生育していた。実証区の雑草の生重は53kg/10a、慣行区で184kg/10aと29%まで抑制された。これに伴う除草作業時間も実証区が1時間53分/10a・人、慣行区が6時間34分/10a・人で慣行比29%と大幅に削減できた。

(3)除草効果  今回の実証では、GNSSを活用した精密播種・培土にディスク式培土機を組み合わせたため、単独の作業による除草効果は調査できなかったが、組み合わせによる除草効果が非常に高いことが実証できた。
 あくまでも推測であるが、同時畝立て播種は、畝間の土の残量が少なくなることから、畝の蛇行があると株元までしっかり土がかからなくなる。一方、GNSSを活用した播種と培土は直進精度が高かったことから、少ない土量でも株元まできちんと土寄せできるため、精密播播種・培土は除草効果が高いと考える。

(4)一発耕起播種
 実証区は、春の耕起作業を省略し一発耕起播種を行った。非選択性除草剤で残った雑草(主にツユクサ)をアッパーロータリーですき込むことができ、その後の再生はほとんど見られなかった。この結果から、法人で実施している前年秋と春の耕起作業を省略することが可能と考える。

当該技術を導入した場合の経営的効果

(1)導入コスト評価
 自動操舵システム及びネットワーク型RTK(VRS方式)とディスク式培土機を導入することで、4,009,842円のコスト増となるが、実証法人の作付規模で10a当たりの費用に換算すると、3,062円(減価償却費及び通信費)の増加となった。
 一方、慣行区で手取り除草の賃金が大幅に増加したことから、実証区の10a当たりのコストは、慣行区比で894円削減できた。新たなシステムにより手取り除草が軽減されることから、導入メリットは高いと考えられる。 自動操舵システムは着脱の手間が増加するものの、トラクタと乗用管理機に装着することができるため、耕起~播種~中耕・培土まで長期間活用することが可能となる。

(2)収益性の向上
 雑草の発生を抑制することで収量や品質が向上し、売上高は実証区で38,860円/10aと、慣行区を10,586円上回った。さらに生産コストが削減されることから、利益は22,059円/10aと慣行区を11,480円上回り、収益性の向上が可能となる。

(18ha規模)                 単位:円/10a r1sys_kitaakita_h7.jpg

(3)疲労度評価
 コスト評価が難しい精神的疲労だが、自動操舵システムを導入することで、オペレータの熟練度を問わず耕起・播種作業が均一にでき、精度の高い培土が可能で、疲労が軽減される。

(4)さらなるコスト削減
 今回の経営評価では、作業可能面積の試算から畝立て播種作業面積がボトルネックとなるため、規模拡大による試算は実施しなかった。しかし、3回の中耕・培土作業をディスク式培土機で実施すると、オペレータ賃金がさらに削減され、わずかではあるが収益性は向上する。

今後の課題と展望

・実証法人では、乗用管理機を大豆専用として中耕・培土に使用しているが、大豆専用機としてコスト的に見合うかは不明。
・生産現場で実証できる疲労度軽減の評価がない。
・準天頂衛星の本格稼働によって、誤差の少ないセンチメートル級の信号を受信できる低廉化チップが普及することで基地局そのものが不要となれば、基地局に係る費用は発生しないため、早期の実現が期待される。
・導入コストが増加するにもかかわらず、一年目で収益性の向上が見込めることを実証できた。このような経営試算データを蓄積し、法人等に提示することで普及促進が図れるものと考える。

(令和元年度 秋田県北秋田地域振興局農林部農業振興普及課、秋田県農林水産部水田総合利用課)